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【深淵への総進軍――極黒の魔王と、絶対的過剰戦力】

【深淵への総進軍――極黒の魔王と、絶対的過剰戦力】


TIA地下作戦室に残された冷たい床の感触が、まだ持子の手首にこびりついていた。


幼馴染である高倉竜からの決定的な拒絶。

その鋭い痛みが胸の奥で燻り続ける中、無情にも『東京ダンジョン深層掃討作戦』は強行開始された。


各陣営のトップエージェントと規格外の化け物たちが集結した連合部隊にとって、ダンジョン中層までの道のりは、控えめに言っても「食後の散歩」レベルでしかなかった。

現れる低級〜中級の悪魔や怨霊は、各チームの先制攻撃の前に、悲鳴を上げる間もなく文字通り塵と化していく。


しかし、未知の領域である『深層』へと足を踏み入れた瞬間、肌にまとわりつくような重圧が跳ね上がった。


「……瘴気の濃度が、一気に上がりましたわね」


Eチームの前衛を歩く第一下僕・本多鮎が、デュラハンの大剣を肩に担いだまま油断なく周囲を睨む。


空間を埋め尽くす極濃の瘴気。

それに呼応するように、出現する魔物のサイズは数倍に膨れ上がり、その凶悪さも中層までとは比較にならなかった。


だが――。


「目標確認。各員、撃てッ!」


Dチーム――自衛隊の対超常特務部隊『極暑ごくしょ』の現場指揮官、田中恵太一尉の鋭い号令が地下空間に響き渡る。


『タタタタタタタタタタタタタッ!!』


精鋭30名のアサルトライフルが一斉に火を噴いた。

放たれるのは、神社の御神水と退魔の呪符を極限まで溶かし込んだ『特殊被甲弾』。

田中一尉の構築した完璧なクロスファイア(十字砲火)の陣形により、巨大な魔物の群れは物理的な肉体と霊的な核を同時に蜂の巣にされ、ボロ屑のように崩れ落ちていく。


彼らはかつての「重機が使えない」という弱点を克服し、完全なる『対悪魔戦のプロフェッショナル』へと進化を遂げていた。


その少し先では、Cチーム(米国エクリプス)のエージェントが、一切の無駄を省いた冷徹な殲滅戦を展開していた。


「……シッ!」


呼気と共に、SSSクラスの武神・高倉竜が最前線を駆け抜ける。


彼の振るう槍が空を裂くたび、ボス級の巨体を持つ悪魔たちが、まるで紙細工のように両断されていく。

さらに、エクリプスの兵士たちが放つ、魔術回路を刻んだ銀弾が後続の敵存在そのものを崩壊させていく。


竜の圧倒的な武と、最新鋭の兵器群によるシステマチックな蹂躙。

そこには、魔物が入り込む余地など一ミリも存在しなかった。


「ハッハッハ! さあ、浄化の時間なのだよ! 迷える子羊ラムたちよ、主の御名において灰に還るがいい!」


一方、Bチームの進軍ルートでは、異端審問官部隊を率いる天草・クリストファー・流星が、王子様のような美貌に狂気的な笑みを浮かべていた。


「アーメン……ファイアッ!!」


祈りの言葉と共に、歴戦の傭兵たちが超高級対悪魔弾や聖水爆弾を雨霰とばら撒く。

大富豪リジュの莫大な資金力を背景にした、信仰と資本による“札束の暴力”。

金に糸目をつけないゴリ押し戦術の前に、深層の悪魔たちはただひたすらに理不尽な爆発に巻き込まれて消し飛んでいく。


そして、中央を突き進むAチーム(日本主力)の布陣は、まさに鉄壁であった。


「楓! 右翼の大型群を頼む!」


「了解しました、兄さん」


全体指揮を執る風間洋助の指示に、修羅の巫女・風間楓が応える。

彼女が『生太刀』を振るうと、神気の斬撃が空間ごと魔物を一掃し、一瞬で更地へと変えてしまう。


「鶴子、前衛の防壁を維持して! 私は全体の回復を回します!」


「はい、お姉ちゃん!」


後方では、葉室桐子と妹の鶴子が古代神術による強固な結界と回復魔法を展開し、部隊に一切の隙を与えない。


連合部隊にとって、深層の凶悪な魔物たちですら、「やや手応えのある的」程度の認識でしかなかったのだ。


***


「……持子様。危ないですわよ」


「あ……うむ、すまん、鮎」


Eチーム(魔王組)の中央を歩いていた持子は、鮎の声でハッと我に返った。


「持子様、ご気分でも優れませんの? わたくしが癒やしのバフをおかけしましょうか?」


アスタルテが心配そうに身を寄せてくる。


「いや、大丈夫だ。問題ない」


(……わしは、何をボーッとしておるのだ)


持子は、自身の不甲斐なさに内心で唇を噛んだ。


Eチームの戦闘は、過剰戦力という言葉すら生ぬるい状態だった。

前衛では鮎が狂戦士のように大剣を振り回し、花園美羽が気配を絶って魔物の急所を瞬殺していく。

中衛と後衛では、エティエンヌ、ルージュ、アスタルテが広域魔法で敵の群れを根こそぎ吹き飛ばし、完全にS級へと覚醒した合気武道部の一年生たちすらも、魔物を楽しげに投げ飛ばしている。


頼もしく成長した仲間たちの姿を見るのは喜ばしい。

だが、今の持子の心には、分厚い暗雲が立ち込めていた。


(竜……)


彼の氷のような視線と、「モッチじゃない」という冷たい拒絶の言葉が、脳裏に何度もフラッシュバックする。


『……うむ。流石のわしも、あの呂布のような男に真っ向から拒絶されるとは、少し……いや、かなり堪えたぞ……』


持子の魂の奥底で、かつて天下を震え上がらせた暴君・董卓ですら、珍しくしょんぼりとした弱音を吐いていた。


(わしだって、好きでこんな魔王になったわけではないのだ。ただ、美味しいものを食べて、雪たちと楽しく過ごしたかっただけなのに……)


限界まで張り詰めた精神が、ふと現実逃避を始める。


(ああ……ラーメン二郎に行きたい。ニンニクアブラマシマシの豚骨スープを胃袋に流し込んで、嫌なこと全部忘れたい……。帰ったら、絶対に朔夜を連れて二郎に行ってやる……!)


しかし、目の前で命懸けで戦う仲間たちの背中が、持子を現実に引き戻した。

鮎が、美羽が、エティエンヌたちが、持子を護るために血と汗を流している。


(そうだ。わしは、孤独ではない)


雪が、すべての業を背負って自分をこの世界に繋ぎ止めてくれた。

桐子や楓が、こんな得体の知れない魔王を仲間として受け入れてくれた。

そして、この愛すべき下僕たちが、自分のために命を賭してくれている。


(竜に拒絶されたからといって、立ち止まるわけにはいかんのだ。わしは……『極黒の魔王』なのだから!)


持子は、ギュッと拳を握りしめ、黄金の瞳に再び強い光を宿した。


「……おい、お前ら! いつまでチンタラやっておる!」


持子の腹の底から響く覇王の喝に、Eチームの面々が一斉に振り返る。


「わしは腹が減った! さっさとこんな地下迷宮など踏破して、地上で極上の肉を食うぞ! 邪魔する魔物どもは、一匹残らずわしの魔力(胃袋)の贄としてやるわ!」


「「「はいっ!! 持子様(先輩)!!」」」


魔王の威厳を取り戻したその声に、下僕たちと合気武道部の仲間たちが歓喜の声を上げて応える。


心にはまだ、竜への届かぬ想いと深い絶望が横たわっている。

その傷が癒えることは、当分ないだろう。


それでも――恋問持子は、己のやり方で、己の愛する者たちを護り抜くと、改めて心に誓った。


「行くぞ! 世界てっぺんを獲りに!!」


地獄の底から這い出たような魔物たちの咆哮を掻き消すように、極黒の魔王の号令がダンジョンに轟く。


それぞれに業と絶望を抱えながらも、圧倒的な過剰戦力となった連合軍は、大禍つ炉の最深部――すなわち、真の地獄へと向け、歩みを止めることなく進軍し続けていた。


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