【魔王のご褒美がバグっている件】
【魔王のご褒美がバグっている件】
東京ダンジョンの中層探索を無事に終えた合気武道部の一行は、重い荷物を抱えてTIA(高田馬場囲碁愛好会)の本部へと帰還していた。
「うおお……マジでこんなに高く売れるんスか!?」
佐藤陽翔が、換金所のカウンターに置かれた札束の山を見て目を剥いた。
中層で狩ったミノタウロスやガーゴイルの魔石、そして解体した素材の数々は、彼らの想像を絶する金額に化けていたのだ。
「ふははは! 言ったであろう! これが裏社会のリアルだ!」
極黒の魔王・恋問持子がドヤ顔で胸を張る。
換金を終えた一行は、TIAの購買部とも言えるエリアへ足を運んだ。そこには、最新鋭の対魔物用武器、防具、さらには怪しげな呪術道具や高価な回復薬がズラリと並んでいる。
「すごい……この杖、魔力の伝導率が段違いですね」
阿部凛花が目を輝かせる。
「この刀も素晴らしい。重心が完璧です」
高橋玲央も美しい日本刀に見惚れていた。
「……傷薬だけで一瓶五万円。完全にインフレしてますね」
南原紗良は冷静に値札を分析している。
「よし、装備の確認も済んだな! 今日は一旦、事務所に戻って打ち合わせだ!」
***
株式会社スノーの広大な会議室に、合気武道部の面々が集められていた。
「チュートリアル完了、本当にお疲れ様でした。今日は皆さんに、スノーからの『お給料』について説明します」
社長の立花雪が、極上の微笑みと共に、それぞれの前に一枚の明細書を置いた。
「えっ……こ、これ……!?」
明細を見た陽翔の目が、ピンポン玉のように飛び出した。
「20万円……!? 俺たち、高校生なのに、月に20万も貰えるんですか!?」
阿部凛花や高橋玲央も、信じられないという顔で明細を持つ手を震わせている。
「ええ。あなたたちがダンジョンで稼いだ魔石の売上の一部よ」
雪は冷静に説明を続ける。
「ただし、ルールがあります。スノーはブラック企業ではないけれど、未成年に大金を全額持たせるほど甘くもありません。あなたたちが二十歳(成人)になるまで、毎月の支払いは『20万円の固定給』とします」
「固定、ですか?」
「そう。ダンジョンでいくら稼いでも、手渡しするのは毎月20万。残りの莫大な売上は、事務所が責任を持って信託口座に貯蓄しておきます。そして、二十歳の誕生日を迎えた時に、溜まっている分を全額支払うわ。……若くして大金を持ち、金銭感覚が狂って身を持ち崩した人間を、私は裏の世界で嫌というほど見てきたから」
雪の言葉には、確かな愛情と、大人としての重い責任感が込められていた。
「もちろん、ご家族の病気や進学など、何か特殊な事情でお金が必要になった時はいつでも言ってちょうだい。考慮します。……それから」
雪は、芸能科の阿部、高橋、南原の三人に視線を向けた。
「モデル、役者、タレント業といった『表の芸能活動』で儲けた分は、ダンジョンのお金とは完全に別枠よ。こっちは歩合制で、働いた分だけしっかりと支払います。これから忙しくなるわよ?」
「「「はいっ!!」」」
三人の返事が、広々とした会議室に力強く響き渡った。
「よし、今日の全体ミーティングはこれで解散だ! 皆、よく休むように!」
雪の言葉で、部員たちが次々と席を立ち、会議室を後にし始めた。
その時である。
「おい、佐藤、阿部、そして門! 貴様ら三人はちょっと残れ!」
持子が、足早に帰ろうとしていた三人を呼び止めた。
バタン、と会議室の重厚な扉が閉まり、室内には持子と三人のみが残される。
「ふははは! お前たち、中層でのチュートリアル、なまらよくやったな! 偉いぞ、褒めてやる!」
持子は腕を組み、満足げに三人を見渡した。
「特に貴様ら三人の成長ぶりには、わしもちょーーー期待しているのだ!」
褒めちぎる持子に対し、陽翔は嬉しそうにしながらも、横に立つ無口な巨漢・門蒼真をジト目で睨みつけた。
「……ってか、持子先輩。なんで門まで呼んでるんスか? こいつ、夏合宿の時に先輩のおっぱいをすでに見ちゃってるんですよ!? もうおっぱい見たんだから十分いい思いしてるじゃないッスか!」
陽翔が抗議の声を上げる。
「そうですよ!」
凛花も恨めしそうに門を見る。
門は「……」と高倉健のような硬派な無表情を貫いている。しかし、その瞳の奥には確かな煩悩の炎がメラメラと燃え盛っていた。
「馬鹿者! 門はあの後、凄まじい気迫で大きく実力を伸ばしたではないか! お前たち三人は、わしの『おっぱい』という崇高な目標に向かって限界を突破した、栄えある『おっぱい同盟』の同志なのだ! 仲良くしろ!」
持子がビシッと扇子を突きつけて一喝する。
「同盟って……なんて響きっスか……」
「ふふっ……ふふふふふっ……」
陽翔がツッコミを入れている横で、凛花が虚空に向かって両手を『ワシワシ』と奇妙に動かし始めていた。
「凛花、さっきから何やってんだよ!?」
「イメージトレーニングです。いつ持子先輩の完璧な双丘が解放されても、最速かつ最高のタッチで揉めるように、指の関節を温めているんです!」
「お前、モデル志望の女子高生がする発言じゃねえぞ!」
三人のわちゃわちゃとしたやり取りを見ていた持子は、ふぅ、と大きくため息をついた。
「あー、もう! ごちゃごちゃと面倒くさい奴らだ! 行くぞーっ!」
持子は唐突に、己の着ていた上着の裾を掴んだ。
バサァッ!!
そして、なんの躊躇いもなく服を、さらには下着のブラジャーまでもを一気に上へと脱ぎ捨てた。
『バンッ!!!!』
背後に巨大な擬音が幻視できるほどの圧倒的な質量。
世界中の男を狂わせる、絶世の美少女・恋問持子の『神おっぱい』が、蛍光灯の光を浴びて三人の目の前に完全に露出されたのだ。
「「「…………っ!!」」」
三人の時が、完全に止まった。
「か……神……っ!」
陽翔が両膝から崩れ落ち、涙を流しながら合掌した。
「神がいる……ここに、真実の神が降臨したっス……!!」
「……美しい……。これが、芸術……」
無口な門も、鼻血をタラリと流しながら、侍が名刀を見るような真剣な眼差しで双丘を凝視している。
「はふっ! 持子先輩のっ、持子先輩のぉぉっ!!」
凛花は完全に理性を飛ばし、猛獣のような勢いで双丘に向かって飛びかかった。
『パァンッ!』
「痛ぁっ!?」
しかし、持子の素早い手刀が凛花の両手をピシャリと叩き落とした。
「待て凛花! まだ早い!」
持子は腰に手を当て、堂々たるトップモデルのポーズを決めながら、豊満な胸をこれでもかと張って見せた。
「お前たち、まずはよく見ろ!! この完璧な造形と弾力を、その目にしっかりと焼き付けるのだ!!」
「は、はいぃぃっ!!」
三人は息を呑み、瞬きすら忘れてその神々しい姿を網膜に焼き付けた。
興奮はすでに最高潮に達し、三人のボルテージは限界を突破しようとしている。
「……ふはは。どうだ? 揉みたいか?」
持子が妖艶に微笑みながら尋ねる。
『ガクガクガクガクッ!!』
陽翔、凛花、門の三人は、首が千切れるほどの勢いで激しく頷いた。
「よし! ならば、中層で一番急成長を見せた佐藤からだ! 来い!」
「うおおおおっ! いただきまっす!!」
陽翔が震える両手を伸ばし、ついにその神の領域へと触れた。
「やっわ! なにこれ、マシュマロ!? いや、スライム!? うおおおおっ!!」
『ムギュゥゥゥッ!!』
「痛っ! ちょっと待て佐藤! 貴様、力が強すぎるぞ! 野球のボールじゃないんだぞ!」
興奮しすぎた陽翔の力加減がバグり、持子が顔をしかめる。
「あっ、す、すみませんっス! 手の魔力調整が……!」
「ええい、仕方あるまい。次は凛花だ!」
陽翔が弾き飛ばされ、今度は待ってましたとばかりに凛花が飛び込んできた。
「持子先輩っ! ああっ、素晴らしいですぅぅっ……♡」
『ネトォォ……ンニュゥゥゥ……』
「ひゃっ!? ちょ、凛花、お前……っ、触り方がなまらいやらしいぞ!」
凛花の長くてしなやかな指先が、まるで蛇のように絡みつく、プロ顔負けのいやらしい手つきで双丘を愛撫し始めた。
阿部が持子のおっぱいを揉む。
「ふふっ……この日のために、自分のおっぱいで毎日毎日練習しましたから! いつでも持子先輩を気持ちよくさせる準備はできています!」
巧みな指使いに、持子はだんだんと気持ちよくなってきてしまう。
「んんっ……き、貴様、なんの努力をしておるのだ! もういい、離れろ!」
快感と背筋の悪寒に耐えきれなくなった持子が引き剥がそうとするが、阿部は「いやですぅぅ!」と激しく抵抗し、双丘にすがりつく。
「おい阿部、離れろって!」
「……ッ!」
見兼ねた佐藤と門が両側から阿部を引き剥がそうとするが、なかなか離れない。
神の双丘に対する恐ろしい執念だ。
「あーもー仕方ない!」
佐藤は咄嗟に手を伸ばし、阿部のおっぱいをガシッと掴んだ。
「ひゃんっ!?」
阿部は攻められると弱い。
ビクゥッと体を震わせ、すごい勢いで持子から離れていった。
本来であれば、下僕達がこんな破廉恥な真似をしたら激怒する持子だが、相手は合気武道部の可愛い後輩なので対応が甘かった。
「凛花、ダメだぞ! めっだ!」
可愛らしく叱るに留めると、持子は今度は佐藤へと向き直る。
「佐藤……お前の機転はなかなかだな」
そして、手加減をしてうまく引き剥がせなかった門にも言葉をかける。
「門には引き剥がす加減が難しかったんだろ。お前達は覚醒しているのだから、多少強めでも大丈夫だ。だが、周りを壊さないように気をつけろよ」
「……押忍」
ひとしきり騒動が落ち着き、持子は再び気を取り直した。
「最後、門! お前だ!」
「……押忍」
門は姿勢を正し、一礼してから静かに前に出た。
太く丸太のような腕が、そっと優しく、壊れ物を扱うように持子の双丘に添えられる。
『ぽふっ……』
「……」
「……」
一切のいやらしさのない、ただひたすらに敬意と慈愛に満ちた、極めて紳士的かつ優しい揉み心地。
門は数秒間だけその感触を確かめると、スッと静かに手を離し、深く一礼した。
「……ごちそうさまでした。俺はこれで、また明日から戦えます」
「う、うむ……。お前が一番まともだな」
持子は少し照れくさそうに服を着直し、コホンと咳払いをした。
「よし! お前たち、今日は本当によくやった! ご褒美はこれまでだ! では解散!」
「「「ありがとうございましたぁぁぁっ!!」」」
三人は晴れやかな、まるで悟りを開いたような清々しい顔で深く頭を下げた。
『ガチャリ』
大満足の三人が会議室の扉を開け、廊下へ出た瞬間。
そこには、壁際に立って冷たい視線を送る、眼鏡の少女――南原紗良の姿があった。
「……紗良ちゃん?」
「…………」
紗良は、極寒のシベリアのような瞳で陽翔の手を見つめ、そして呆れ果てたように吐き捨てた。
「……不潔です」
「えっ!? ちょ、違うんスよ紗良ちゃん! これは神聖な儀式であって……!」
陽翔の弁明も聞かず、紗良は足早に廊下の奥へと走り去ってしまった。
「ああああっ! 紗良ちゃーん!! 違うんスよーっ!!」
莫大な報酬と神の双丘、そしてすれ違うヤンデレの想い。
裏社会の過酷なチュートリアルを終えた合気武道部の日常は、今日も果てしなくカオスに暮れていくのであった。




