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【学園祭7】

【学園祭7】


「ワン・デイ・モア」の圧倒的なパフォーマンスを終え、バックステージは興奮のるつぼと化していた。


「みんな、最高だったわ! 明日も絶対に大成功させるぞー!」

「「「おぉーーっ!!」」」


熱気に包まれた芸能科の面々が、ハイタッチを交わし合う。


「よし、明日もあるんだから今日はここで解散! みんな、早く寝ろよ!」


クラスメイトの号令と共に、熱狂の学園祭一日目・午後の部は見事に幕を閉じた。


「ふははは! まったく、わしの美声と完璧な男装が世界を震わせてしまったようだな!」


恋問こいとい持子──その内面に三国志の暴君・董卓を宿す絶世の美少女は、満足げにふんぞり返りながら、自身のもう一つの居場所である『合気武道部』の模擬店ブースへと足を向けた。


『ワイワイ! ガヤガヤ!』


合気武道部のテント前は、凄まじい熱気に包まれていた。


「持子! 戻った! 大変、予想の倍以上売れちまって、明日の分の食材がすっからかんだよ!」


主将の千手美貴が、嬉しい悲鳴を上げながらも頭を抱えている。その後ろでは、副主将の森盛夫が黙々と空箱を片付けていた。


(……こいつら、全く疲れが見えんな。わしから見ても、最初からこいつらは超人だった。元々この二人はイカれているのだ)


持子は内心で呆れつつも、力強く頷いた。


「なにっ!? 仕方ない、皆で買い出しに行くぞ!」


こうして、合気武道部の面々はぞろぞろと夕暮れの街へと繰り出したのである。


『ザワザワ……』


人混みの中を歩きながら、持子の黄金の瞳が、ふと電柱の影や路地裏の暗がりに蠢く『異形』を捉えた。


(……低級の霊や妖、妖怪どもか)


一般人には見えないが、持子の目にははっきりと視認できる。


(東京ダンジョンが出来てからというもの、確かにああいうモノたちが街に増えたな……)


持子は内心で独り言ちた。

こういうモノたちと出会う機会が増えれば増えるほど、人間が恐怖や生命の危機に晒され、『覚醒』する機会も増えるということだ。低級なものばかりとはいえ、一般人にとっては十分な脅威である。

しかし、よくよく周囲を観察してみると、人混みに混ざって『狩る側』の人間の気配も確かに増えていた。見知った顔もあれば、見慣れない顔もある。独特の鋭い空気と殺気を薄く纏った者たちが、確実にこの街に潜んでいる。気にも留めていなかったが、世界は確実に変わりつつあるのだ。


(ふむ……)


持子は、前を歩く合気武道部の一年生たち――門、高橋、佐藤、阿部、南原の背中を見つめた。

持子から漏れ出す極黒の魔力と、地獄のような合気武道の稽古を乗り越えた彼らは、確かに『覚醒』している。しかも、決して弱くない。おそらく、東京ダンジョンの浅層でも十分に通用するだろう。


(もし地上で、こいつらにちょっかいを出す妖やゴロツキがいたら、こいつらは簡単に勝ってしまう。だが……容易く勝ってしまえば、今度はより強い『モノ』を引き寄せることになる)


あのTIAの庇護下に置くのは癪だが、わし自身の庇護下にいれるか、何かしら考えなきゃいけないな……。

持子が眉をひそめて思案していると、部員たちの胸元で僅かに光るものがあった。


(……いや、待てよ。楓が持たせてくれた『お守り』のおかげで、こいつらから魔力は一切漏れていないし、霊たちも寄ってきていないのか。さすがは特級エージェントといったところか)


色々と裏社会のパワーバランスについて考えているうちに、いつの間にか大量の買い出しは終わっていたらしい。


「持子先輩! これ持ってください!」

『ドサァッ!!』


「ぬおっ!?」


一年の高橋と南原が、無慈悲にも巨大な段ボール箱を持子に押し付けてきた。


(……お、重いっ! これ、女に持たせる量ではないだろうが!)


文句を言おうと周囲を見渡すと、全員がゴリラのような膂力で常軌を逸した量の荷物を軽々と担いでいる。


(合気武道部の過激な稽古で基礎体力が上がっているのもあるが……明らかにわしの魔力で覚醒しているな、これは)


持子は段ボールを抱えながら、ふと一つの仮説に行き当たった。


(……入部当初は40人もいたのに、残ったのはたったの5人。逆に言うと、わしの魔王としての力や魔力に合う者、耐えれる者たちだけが合気武道部に残ったのかもしれない……。逆説的だが、あの大量退部は完全にわしのせいだったのでは……!?)


持子が己の罪深さに気づき、珍しく真剣な、そして憂いを帯びた表情で歩いていると――その後ろでは、ひよっこ達による『煩悩の宴』が繰り広げられていた。


『ドキッ……♡』


(な、なんて美しいの……! 持子先輩がこんなに真剣な顔をしてるの、すっごく珍しい……!)


『おっぱい同盟』の一員である一年女子の阿部凛花が、息を呑んだ。

同じモデルを志す者として、その神がかった黄金比の歩き姿に感動すら覚えている。そして、夏合宿の温泉で「持子先輩は女の子が好き」と知って以来、彼女の中の扉は完全に開いていた。


(女の子同士、百合でも全然イケますっ! いつか先輩に認められて、あの極上のおっぱいを揉みしだくのが私の絶対目標……! あぁっ、見てるだけで発情しちゃいそう……♡)


阿部は頬を真っ赤に染め、完全に恋する乙女(変態)の目になっていた。

その隣では、同じく『おっぱい同盟』の佐藤陽翔が、欲望に忠実な目で持子の後ろ姿を凝視していた。


「……なぁ阿部。持子先輩、今すっげー考え事してるぞ。今なら、背後からお尻触っても絶対に気づかないよな……?」


『ジリッ……』と、佐藤の指先がピクピク動く。持子が魅力的に歩くたびに、タイトなデニム越しに色っぽく動く極上のお尻に、視線が釘付けになっているのだ。


「ちょっと陽翔くん、邪魔! 私の射線を遮らないで! 持子先輩の美しいウォーキングと美尻への熱い視線が遮られるでしょ!」

「はお前こそ俺の射線の邪魔だ! 俺はあのケツを網膜に焼き付けるんだよ!」

「陽翔くんが邪魔です! どいて!」


『ヒソヒソ……ッ! ギャーギャー!』


阿部と佐藤が、持子の背後で醜い小声のマウント合戦を始める。


「お前ら……いい加減にしろ。先輩に気付かれたら四方投げでコンクリートに埋められるぞ」


次期部長候補の門蒼真が、小声で二人を諌める。口では冷静なことを言っている門だが、彼自身も持子の完璧なプロポーションに見惚れており、かろうじて理性が働いているだけの状態だった。


「おーい! 遅れるなよー!」


前方を歩く部長の千手、副部長の森、そして一年の高橋は、後ろの煩悩まみれの騒ぎに全く気がついていない。

しかし、最後尾を歩く一年女子の南原紗良だけは違った。


『ゴゴゴゴゴゴ……ッ!』


(……佐藤くん、本当に最低です。発情期の猿以下ですね)


実は『おっぱい同盟』の存在をこっそり知っており、密かに佐藤に想いを寄せている南原は、嫉妬と怒りで段ボール箱を握り潰さんばかりの怒気を発していた。


(そんなに持子先輩のお尻が見たいなら、眼球だけを物理的に摘出して、一生先輩のお尻の穴でも見つめさせてあげましょうか……面白くないです。非常に、面白くないです!)


南原の冷たく、そしてドロドロとした嫉妬のオーラが、佐藤の背中をチクチクと刺す。


「ん……? 背後からなまら嫌な気配が……妖か?」


持子が怪訝な顔で振り返る。


「「「い、いえ! 何でもありません持子先輩(女神)!!」」」


阿部と佐藤、そして門が、見事なシンクロ率で直立不動の敬礼をした。


「……? まあよい。急ぐぞ、ひよっこ共! 明日もわしの胃袋を満たすために馬車馬のように働くのだ!」

「「「オォォォーッ!!」」」


夕闇が迫る街の中、絶世の美少女(中身はオッサン)と、それに振り回される合気武道部の騒がしくも平和な行進は、学園祭の夜に向けて続いていくのであった。


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