表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

298/396

【学園祭5】

【学園祭5】


10月の澄み切った秋晴れの下、聖ミカエル学園の学園祭は最高潮の盛り上がりを見せていた。

合気武道部の部室を改装した『和風甘味処・武士の休息』の前には、朝からとんでもない長さの長蛇の列ができていた。

その原因は、ズバリ「顔」である。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりか?」


凛とした純白の道着に、漆黒の袴姿。

神が計算し尽くした『黄金比』のプロポーションを持ち、世界的トップモデルとして君臨する恋問こいとい持子が、完璧な所作と極上の笑みで接客を行っていたのだ。


「お、おう……! ま、抹茶と、その……特製肉厚ぜんざいを一つ!」

「かしこまった。少々お待ちを」


以前の暴君・董卓の魂が表に出すぎた持子であれば、「さっさと注文せんか下郎!」と怒鳴りつけていたかもしれない。しかし、今の持子は違う。合気武道の精神と、仲間たちとの絆を経て、接客業をソツなくこなせるまでに精神的な『成長』を遂げていたのだ。

とはいえ、これだけの絶世の美女が給仕していれば、当然厄介な客も湧いてくる。


「ねえねえお姉さん、ぜんざいより君の連絡先が欲しいな〜。ちょっと後で抜け出さない?」

「おっと」


チャラいヤンチャな他校の男子生徒が、ニヤニヤしながら持子の手首を強引に掴もうとした、その瞬間。


『クルリ、スパーンッ!』


「えっ? ほわっ!?」


持子は一切の力を使わず、合気の理を用いて男子生徒の力を受け流し、手首を柔らかく巻き込むようにして彼自身の重心を崩した。そのまま痛めつけることなく、やんわりと背中を押して部室の出口へとエスコートする。


「当店の『ワンポイント護身術クリニック』、身をもっての体験感謝するぞ! 痛い目を見たくなければ、お帰り願おうか」

「ひぃぃっ! す、すんませんっしたぁぁ!」


鮮やかすぎる撃退劇。本当に痛めつけることなく、平和裏にトラブルを解決するその姿に、店内で見ていた一般客から「おおーっ!」と拍手が巻き起こった。


「ふはは! わしの完璧な捌きを見たか! どうだ千手、森!」

「うんうん、持子ちゃん、接客も護身もバッチリだよ!」

「ああ。綺麗な入り身だった」


奥で調理を担当している主将の千手美貴と副主将の森盛夫も、持子の成長ぶりに目を細めて頷いた。


そんな大盛況の部室に、さらにとんでもないVIPが二人、姿を現した。


「持子ちゃーん! 遊びに来たわよー!」

「ごきげんよう、持子」


『ザワァァァァァッ!!』


部室周辺の空気が、爆発的な歓声に包まれた。

テレビで見ない日はない超売れっ子インテリタレントの本多鮎と、フランス人形のように美しい金髪碧眼の美少女、ルージュである。


「うおおおおおっ!! 鮎さんだぁぁぁっ!! 生の鮎さんだぁぁっ!!」


お調子者の佐藤陽翔が、鼻息を荒くして歓喜の声を上げる。高橋玲央や阿部凛花といった女子部員たちも「キャーッ! 鮎先輩! 一緒の子も可愛いー!」と大興奮だ。

無口な門蒼真や森でさえ、嬉しそうに小さく頷いている。男女問わず、トップタレントの鮎のカリスマ性は絶大だった。


「おお、鮎にルージュではないか!」


持子が歩み寄る。

鮎は持子を見るなり、頬をピンク色に染め、瞳を潤ませた。


(あぁぁっ! 袴姿の凛々しいご主人様! 今すぐその足元にひれ伏して『持子様ぁっ!』と叫びたいですわ! でも……この普通の学園祭というシチュエーションで、仲の良いお友達ごっこをするのも、これはこれで最高のプレイ……っ!)


内心でド変態な歓喜に打ち震えながら、鮎はあくまで「気さくな先輩タレント」の仮面を被って「持子ちゃん」と呼んだ。


「お前たちが来てくれて、なまら嬉しいぞ! だが……」


持子は、周囲を取り囲み始めた黒山の人だかりと、パシャパシャと光るスマホのカメラのフラッシュを見て、苦笑いした。


「これだけの美少女が揃えば、大騒ぎになるのは必然。この騒ぎだから、少し休憩したら程々で帰ってくれ。ほれ、わしからの奢りだ」


持子は、お盆に乗せた湯気立つ『特製肉厚ぜんざい』を二つ、ドンッ! とテーブルに置いた。


「わ、わたくしはお茶だけで良くてよ……」


ルージュが、その『肉厚ぜんざい』という字面の圧の強さに、少し引きつった声を出した。


「肉厚って……お肉が入っているの? だいぶ体重は落ちてきたけど、ここでそんなカロリー爆弾を食べたら、また……」


ルージュは自身のスッキリとしたお腹のあたりをそっと撫でた。以前はタプタプの「浮き輪」ができていたが、過酷なダイエットの末、見た感じ大分お腹の浮き輪は無くなってきているのだ。


「ふははは! 勘違いするなルージュ! 本当の肉が入っているわけではない!」

「えっ?」

「中に入っている『お餅』が、まるで分厚い肉のステーキのように極厚で、食べ応え抜群だから『肉厚ぜんざい』と名付けたのだ! 表面をカリッと香ばしく焼き上げ、中はとろけるような極上の分厚いお餅だぞ!」

「あ、お餅なのね……!」

「なんの根拠もないが、絶対に大丈夫だ! なまら美味いから食え、ルージュ!」


持子の全く理にかなっていない、しかし妙な説得力のある言葉に押され、ルージュは恐る恐るスプーンを手にした。

甘く煮詰められた小豆の海から、ずっしりと重い、極厚の焼き餅を掬い上げ、パクリと口に含む。


「…………っ!」


ルージュの金糸雀かなりあのような美しい瞳が、パァァァッ! と見開かれた。

上品な甘さの小豆と、外はカリッ、中はモチモチの分厚いお餅の食感が、口の中で完璧なハーモニーを奏でる。


「おいひぃ……っ♡」


ルージュの顔に、見ている者すべてが幸せになるような、純粋で天使のような笑顔が咲き誇った。周囲の客たちから「おおぉぉ……」という尊いものを見た時のようなため息が漏れる。


「ふふっ、本当に美味しいわね。お餅の弾力がたまらないわ」


隣で鮎も、タレントとしての完璧な笑顔を振り撒きながら、優雅に(内心はご主人様からのご褒美という事実に発情しながら)ぜんざいを平らげていく。


「ふははは! であろう、であろう!」


持子が腕を組んで自慢げに笑う、その極上の笑顔の空間。


『……最高の、瞬間シャッターチャンスです』


合気武道部の部室の入り口。

喧騒の少し外側で、写真部の腕章をつけた風間楓が、静かにカメラを構えていた。

学園祭の記録撮影のために校内を回っていた彼女は、偶然にもこの奇跡のようなタイミングに立ち会ったのだ。


楓の手には、彼女の愛機であるフルサイズデジタル一眼レフカメラ『PENTAX K-1 Mark II』が握られていた。

そして、そのボディに装着されているのは、極上のボケ味と圧倒的な解像感を誇る大口径単焦点レンズ、『HD PENTAX-D FA★ 85mm F1.4 ED SDM AW』。


(絞りは開放。手前の観客と背景の道場を美しく溶かし……彼女たちの笑顔と、持子先輩の誇らしげな表情にピントを……)


楓は息を詰め、ファインダー越しに完璧な構図を切り取る。

トップモデル、インテリタレント、そして金髪の美少女が織りなす、日常の中の非日常的な輝き。85mmの単焦点が描き出す、立体的で息を呑むほど美しい世界。


『カシャリ……ッ』


心地よく、重厚なシャッター音が部室の入り口で微かに響いた。

PENTAX K-1 Mark IIが捉えたその一枚は、極上のボケ味の中に浮かび上がる天使の笑顔と、合気武道部の温かな空気を、色鮮やかな永遠として見事に封じ込めたのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ