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【学園祭2】

【学園祭2】


「うむむむむむむむむ……ッ!!」


『和風甘味処・武士の休息』として飾り付けられた合気武道部の部室に、持子の唸り声が響き渡った。

正座したまま腕を組み、黄金の瞳をギュッと閉じて、なんとかこの絶体絶命の状況を誤魔化すための完璧な言い訳を捻り出そうと、持子は魔王の脳細胞をフル回転させていた。


(ええい、考えろ董卓! 前世の権謀術数を思い出すのだ! なにか……なにかTIAにバレず、かつこのひよっこ共を納得させるなまら良い言い訳が……!)


ギリギリギリ……。

持子の頭から、物理的に「プシューッ」と白い煙が立ち上り始めた。

もともと勉強も苦手で、感覚と直感と圧倒的な力だけで全てを解決してきた「暴食の魔王」である。複雑な論理的思考など、彼女のキャパシティには備わっていない。


「あ、あかん……知恵熱が……」


グラリ。

限界を超えた持子の絶世の美貌が青ざめ、大きな身体が横に倒れそうになった。


「持子先輩っ!?」

「危ないっす!」


すかさず一年生たちが駆け寄り、倒れかけた持子を慌てて支える。


「だ、大丈夫ですか持子先輩! 息して!」

「クンカクンカ……ん〜っ! やっぱ持子先輩の髪、めっちゃいい匂いっすわぁ……最高……」

「ちょっと陽翔! 何どさくさに紛れて匂い嗅いでるんですか! 不潔です!」


ドサクサに紛れて持子の黒髪に顔を埋める佐藤陽翔に、南原紗良が毒舌を吐き捨てる。

そんな混沌とした介抱の中。


「持子先輩! 私が心臓マッサージしますぅ!」


阿部凛花が、心配そうな顔をしながらも、異常に柔らかい腕をスルスルと伸ばし、持子の豊満な胸の谷間(道着の隙間)へと両手を滑り込ませようとした。


――その瞬間。


『ガシィィィッ!!』


「いっ!?」


佐藤と、無口な門蒼真の二人が、阿部の両手を左右から強烈な力で掴み止めた。


「おい阿部! 何どさくさに紛れて持子先輩の神聖なおっぱいに触ろうとしてんだ!! 抜け駆けは許さんぞ!」

「……お前、それは介抱じゃない」

「そ、そそそそんなわけないでしょぉぉっ!! 持子先輩の呼吸を楽にしてあげようと……っ!」


阿部はボフンッ! と顔から火が出るほど真っ赤にして否定したが、その目は完全に泳ぎまくっていた(完全に嘘である)。

門が、呆れたように無表情のままフルフルと首を振る。


「……またバカな事やってるわね、あいつら」

「本当に。この状況で煩悩を優先させるとは、美しくありません」


少し離れたところで、高橋玲央と南原紗良がチベットスナギツネのような冷ややかな目で、阿呆な同期たちを見下ろしていた。


「あーーーー……」


もみくちゃにされながら、持子がようやくうわ言のように声を漏らし、パチリと黄金の瞳を開けた。


「持子ちゃん! 大丈夫!?」

「……全員、座ってくれ。話す」


主将である千手美貴の問いかけを遮り、持子はゆっくりと上体を起こした。その声は低く、普段のおちゃらけた様子が一切消え去り、絶対的な威厳に満ちていた。

その空気に気圧され、部員全員が慌てて持子を囲むように正座する。


静まり返った部室。

持子は、黄金の瞳で一人一人の顔を真っ直ぐに見据え、深く息を吸い込んで、真顔で宣言した。


「――わしは、魔王なのだ!」


「「「「「……………………」」」」」

(((((えっ、中二病……?)))))


一年生から三年生まで、全員の脳裏に全く同じツッコミがシンクロした。しかし、持子のあまりにもガチで真剣な表情と、彼女からビリビリと放たれる圧倒的な覇気プレッシャーのせいで、誰一人として口を開くことができない。ゴクリ、と誰かが生唾を飲み込む音だけが響いた。


「お前達全員に、合宿で『魔法のマッサージ』と言っていたであろう。あれは……例え話ではない。本当の魔法、わしの『魔力』で筋繊維を強制回復させていたのだ」


持子の言葉に、一年生たちの目が驚きに見開かれる。


「一年生は毎日、千手と森は一日だけだったがな……」


持子は再び「あーーーーーー……」と頭を抱え、部員たちをねっとりと観察した。


「やっぱりだ。全員、魔力を持っとるわ。完全にわしの魔力で『覚醒』してしまっておる。しかも、なまら弱くないぞ」

「か、覚醒って……!?」

「じゃあ、この手から出てる黒いモヤモヤは、持子ちゃんの魔力なの!?」


千手が慌てて自分の手を見つめる。

持子は「うむむ……」と腕を組み、非常に曖昧な表情を浮かべた。


「なぜこうなったのか……。お前達全員に魔術の素養(適性)があったのか、わしの魔力が強すぎたせいか……。それとも、最近東京の地下から地上に上がってきている『魔気』の影響も絡んでおるのか……」

「ま、魔気ってなんすか!?」

「地下から!? 何それ、都市伝説ですか!?」


佐藤と玲央がパニック気味に叫ぶが、一般人の部員たちがそんな裏世界の話を知る由もない。


「持子ちゃん! その、持子ちゃんの魔力で、私たちの身体に一体どんな変化が起こっちゃったの!? 危険はないの!?」

「……どうなんだ、持子」


千手と森が、心配そうに身を乗り出して問い詰める。


「た、多分……大丈夫だとは思うが……!」

「多分ってなんですか! 完璧な説明をお願いします!」

「魔力による細胞への影響、遺伝子レベルでの変異の可能性、明確なデータを開示してください!」


玲央と紗良が、すかさず容赦ない追及の刃を向ける。


「知らん! 分からんのだぁぁっ!」


持子はついに両手で頭を抱えて叫んだ。

無理もない。魔王といえど、こんな事態は初めてなのだ。今までは、狂信的な『第一下僕』である本多鮎や、魂のパスを直接繋いだ者しか、魔力を受け取って覚醒することはなかった。

ただの部活動の仲間に、マッサージ感覚で魔力を流しただけで全員が覚醒してしまうなど、想定外もいいところである。


「ええい! だからその、モワッとして、バーンってなって、お前らの魂がピカーッてなったんだよ!」

「擬音ばかりで全く意味が分かりません!」

「もっと論理的に言語化してください!」

「だーっ! 分からんものは分からんのだ! わしは感覚派なのだぁぁっ!」


持子の脳内キャパシティは完全にパンクし、「プシューッ!」と再び頭から煙が出始めた。

いつもなら、「うるさい下郎ども! わしの言うことが聞けんのか!」と暴君らしく怒鳴り散らして黙らせるところだ。

しかし――合気武道部のメンバーは、持子にとってかけがえのない『仲間』である。大切な家族のような彼らに対して、暴言を吐いて力でねじ伏せることなど、今の持子には絶対にできなかった。


「うぅぅ……わしをいじめるな……。わしだってパニックになっておるんだぞぉ……」


極黒の魔王は、道着の袖で涙を拭うようなフリをして、大きな身体をちんまりと丸め、いじけモードに入ってしまったのだった。


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