【東京ダンジョン10】
【東京ダンジョン10】
東京地下、漆黒の闇に包まれた『指定地下ダンジョン』の最深部。
数多の魔物を屠り、強大な悪魔アンドラスすらも純粋な武術のみで粉砕した恋問持子とその狂信的な下僕たちは、血と泥に塗れた真紅の絨毯を引き返すように、地上へと向かって歩みを進めていた。
ザッ、ザッ、ザッ……。
ピチャッ……。
血溜まりを踏みしめる音が、不気味な静寂の空間に響き渡る。
先頭を歩く持子は、世界的なブランド『リュクス・アンペリアル』の漆黒のジャケットを羽織り、身長175cmの黄金比のプロポーションを誇りげに揺らしていた。彼女の黄金の瞳は、先程までの暴虐の余韻を楽しむかのように細められている。
「ふははははっ! なかなかに良い運動であったな!」
持子が傲岸不遜な魔王のトーンで笑い声を上げると、すぐ後ろを付き従っていた『第一下僕』の本多鮎が、うっとりとした狂信的な瞳で主人を見つめた。
「あぁっ……! 悪魔を素手でねじ伏せる持子様の神々しいお姿、私の脳裏に焼き付いて離れませんわ! どうかこの忠犬にも、もっと理不尽な暴力を……っ!」
ピンク色の髪を揺らしながら、究極のドMである鮎が身悶えする。
「持子さんっ! 私もいっぱいいっぱい敵を刻みましたよぉっ! 泥棒猫の私を、一番に褒めてくださいっ!」
小柄でふわふわとした茶髪の花園美羽が、あざとく持子の腕にすり寄る。
「フッ、お前たちもよくやった。後で極上の魔力をくれてやる」
持子が鷹揚に頷くと、さらに後方からエティエンヌとアスタルテが熱い吐息を漏らした。
「持子様……そのお言葉だけで、私、胸が熱くて……私を抱いてください」
五百年の時を生きる真祖の吸血鬼でありながら、185センチの絶世の金髪美女へと女体化したエティエンヌが、圧倒的な母性と狂気的な愛を込めて微笑む。
「あぁんっ……! 我が神からのご褒美……っ! わたくし、もう限界ですわぁっ!」
グラマラスな王道女神の姿を取り戻したアスタルテが、豊満な胸を寄せて艶かしい声を上げる。
「ひぃっ、わ、わたくしも、スノーの奴隷として荷物持ちを頑張りましたわぁっ!」
イギリスのトップモデルの容姿を持つ元大悪魔シャーロットは、相変わらずの小物感を漂わせてビクビクと震えながら報告した。
そんな狂乱と愛欲が渦巻く集団のさらに後ろで、鮎の影に潜む吸血鬼の元女王ルージュだけが、深い深い溜息を吐き出していた。
「……はぁ。間引きが終わったなら、さっさと帰りますわよ。いつまでもこんな穢れた空気を吸っていたら、お肌に悪いですわ」
そのルージュの言葉に、持子はピタリと足を止めた。
クルッと振り返った持子の顔には、中身のスケベなオッサン気質丸出しの、どこかイタズラを思いついた子供のような笑みが浮かんでいた。
「なぁ、皆の者。わしは素晴らしいことを思いついたぞ」
「何でしょう、ご主人様?」
鮎が首を傾げる。
持子は、ルージュの影の収納(ルージュ部屋)に大量に詰め込まれた魔石やレアアイテムが入った袋をビシッと指差した。
「この大量の戦利品と、ダンジョンの奥深くまで間引きしてやったというこの偉業! これを、楓と桐子お姉さん達に見せびらかして、大いに褒めてもらおうではないか!」
ピタッ……。
その提案に、その場の空気が一瞬にして凍りついた。
「なっ……!?」
ルージュが、真紅の瞳を見開いて絶叫した。
「あ、あんた正気ですの!? 確かに間引きはしましたし、結果的に良いことをしたかもしれませんけれど……そもそもわたくしたち、絶対封鎖プロトコルが発動しているこのダンジョンに『無断で』侵入したんですわよ!?」
ルージュの脳裏に、怒りで青筋を立てた二人の顔が鮮明に浮かぶ。
冷徹な修羅の巫女、風間楓。
絶対零度の殺気を放つ絶対的ヒエラルキーの頂点、葉室桐子。
「絶対に殺されますわ! 楓に切り刻まれるか、桐子……お姉様の絶対浄化の光で消し炭にされますわよ!」
ルージュが必死に抗議する。
しかし、持子は自信満々に腕を組んで胸を張った。
「ふははははっ! 馬鹿者め、よく考えろ! 事前に許可を取らなかったのは確かに良くなかったかもしれんが、結果を見ろ! 放置すれば溢れ出していたかもしれない魔物をわしらが間引きし、さらにこのダンジョンの構造やボスの情報、貴重なアイテムまで持ち帰るのだぞ? 怒られるどころか、『流石は持子だ、よくやった』と頭を撫でられるに決まっておる!」
(……んなわけあるかぁぁっ!!)
ルージュは心の中で激しくツッコミを入れたが、彼女を絶望の底に突き落としたのは、他の下僕たちの反応だった。
「素晴らしいお考えです、持子様! 持子様の偉業を世に知らしめるべきですわ!」
インテリ頭脳を持つはずの早大生・鮎が、狂信ゆえに完全に論理を放棄して絶賛する。
「楓ちゃん……。ひっ……楓ちゃんは怖い、ですけど……持子さんがそう言うなら、泥棒猫はどこまでもついていきますぅっ!」
楓のスパルタ特訓の恐怖を知る美羽でさえ、持子への重い執着が勝ってしまった。
「我が神が褒め称えられるのは当然のことですわ!」
「持子様の覇道、私がお支えいたします」
アスタルテとエティエンヌも完全に同意している。
「ひぃっ、わ、わたくしは……あの恐ろしい女の人たちのところには行きたく……」
シャーロットが泣き言を漏らしかけたが、美羽がスッと七牙の短刀を抜く音を聞いて、即座に口にチャックをした。
「ほれ、ルージュ! お前もこの情報を渡せば、桐子お姉さん達にとって絶対プラスになると思うであろう?」
持子に真っ直ぐな黄金の瞳で見つめられ、ルージュは頭を抱えた。
「ああもうっ! わかりましたわ! どうなっても知りませんからね! ……でも、確かにこの魔石の純度と情報は、今のTIAにとって喉から手が出るほど欲しいはずですわ。交渉次第では……あるいは……」
三百年の時を生きる元女王としての計算が働き、ルージュはついに深くため息をつきながら同意した。
「よし、決まりだ! 隠密状態を保ったまま、封印を壊さずに静かに出るぞ! そしてTIAの指令室へ凱旋だ!」
スゥゥゥゥ……ッ。
持子たちは、侵入時と同様にシャーロットのタイムサイトとアスタルテの幻影魔法を駆使し、七クランが構築した多重結界を一切の警報を鳴らすことなく、音もなくすり抜けた。
【TIA地下作戦室】
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
カチャカチャカチャカチャッ!!
重苦しい空気が支配する作戦室。
無数のホログラムディスプレイが展開され、オペレーターたちが血走った目でキーボードを叩き続けていた。
その中心で、司令官の革椅子に深く腰掛けているのは、風間洋助だ。
長身で息を呑むほどの美貌を持つ彼は、極北の氷のような戦闘指揮官の貌を崩さず、戦線状況のモニターを睨みつけていた。
「……結界の同期率、依然として98%。完全に封鎖できているとはいえ、内部の『穢れ』の圧縮率は想定を超えているな」
洋助が低く呟く。
「ええ、洋助さん。少し休んだ方がいいわ。……お顔色が悪いわよ」
傍らに立つ葉室桐子が、洋助の肩にそっと手を置いた。百合の花のような気品を漂わせる彼女の白髪が、作戦室の非常灯に照らされて美しく輝いている。洋助を誰よりも深く愛する彼女の瞳には、深い慈愛と心配の色が浮かんでいた。
「大丈夫だ、桐子。俺たちの仕事は、ここからだからな」
洋助は桐子の手を優しく握り返し、爽やかで気さくな好青年の笑顔を向けた。
その時である。
作戦室の奥、暗殺者のように一切の音を立てずに(無足の歩法で)立っていた風間楓が、スッと目を細めた。
「……不愉快ですね。結界の内側から、規格外の魔力反応が六つ、こちらに向かってきていました……今、結界を抜けました」
楓の氷のように冷たい声が響く。彼女の手元には、白銀の直刀『生太刀』がかすかに光を放ち始めていた。
「なんだと!? 封鎖したダンジョンから魔物が漏れたのか!?」
洋助が立ち上がる。
スゥ……ッ。
洋助の言葉を遮るように、作戦室の空間が歪み、極黒の魔力のオーラを纏った一人の美少女が、無数の配下を引き連れて悠然と姿を現した。
「ふははははっ! 凱旋である! 洋助、桐子お姉さん、楓! わしらの顔を見せに来てやったぞ!」
「も、持子……様ぁっ! さすがは神出鬼没……!」
後ろからついてきた鮎が、悲鳴のような歓声を上げる。
作戦室の空気が、文字通り凍結した。
「……こ、恋問持子!?」
「なぜ、お前たちがここに……!」
驚愕するオペレーターたちをよそに、持子は腰に手を当ててドヤ顔で胸を反らせた。
「驚くのも無理はない! わしらはつい先程まで、あの地下のダンジョンに潜り、無限に湧き出す化け物どもを完膚なきまでに間引きしてやったのだ! アンドラスとかいうフクロウ頭の悪魔も、わしが素手でへし折ってやったわ!」
「持子さん、最高にかっこよかったですぅっ!」
美羽が背後で拍手をする。
持子は得意げな顔で、桐子と楓の方へズンズンと歩み寄った。
「どうだ! わしらのこの偉業、大いに褒め称えるが良い! 特別な報酬でも……」
ピキィィィィィィィンッ……!!
持子の言葉が最後まで紡がれることはなかった。
作戦室の温度が、一気に絶対零度まで急降下したのだ。
「……持子?」
極上の微笑みを浮かべたまま、葉室桐子がゆっくりと振り返った。その瞳には、一切の感情が宿っていない。背後には、あらゆる情欲と穢れを消し炭にする『絶対浄化の光(天照)』が、後光のようにドス黒く(光なのに)輝き始めていた。
「ひっ……!」
持子の背筋に、氷柱を突き立てられたような悪寒が走る。
「あなた……私たちが国家の存亡を懸けて命懸けで封鎖した、あの死地に……『勝手に』潜ったと言ったのかしら?」
気品溢れるお嬢様言葉のまま、桐子が一歩、持子へとにじり寄る。極上の笑顔のまま放たれる威圧感は、先程のアンドラスなど比較にならないほどの絶対的ヒエラルキーの頂点たるプレッシャーだった。
さらに、反対側からは。
チャキッ……。
「……持子先輩」
風間楓が、生太刀の切っ先を持子の喉元数ミリの位置に突きつけていた。常に冷静沈着で丁寧な言葉遣いだが、その声は冷酷な死の宣告そのものだった。
「国家存亡の危機に、勝手なスタンドプレー。……いい加減にしてください」
ゴゴゴゴゴゴォォォォ……ッ!!
光の魔神(桐子)と、氷の修羅(楓)による完全なる挟み撃ち。
「あ、あわわわわ……っ!」
極黒の魔王たる持子は、瞬時にして限界オタクのポンコツへと成り下がり、ガクガクと膝を震わせた。
「ち、違うのだ桐子お姉さん、楓! わ、わしはただ、皆のために間引きをしてやろうと……っ!」
「……問答無用です」
「お仕置きが必要ね、持子」
絶体絶命。持子の命の灯火が消えかけた、その刹那だった。
「……待ちなさいな! お二人とも!!」
バサァッ!
鮎の影から飛び出したルージュが、両手を広げて持子を庇うように前に出た。真紅の瞳には、死を覚悟したような悲壮な決意が宿っている。
「る、ルージュ……!」
鮎が息を呑む。
「桐子……お姉様! 楓! 確かにわたくしたちの無断侵入はルール違反ですわ! ですが、持子の言う通り、結果的に得られたものは、今のTIAにとって絶対に無駄にはなりませんのよ!」
ルージュは必死に早口で捲し立てながら、軍用の重厚なテーブルの上へ、ルージュ部屋から取り出した『ある物』を無造作に転がした。
カラン……、コロコロ……ッ。
それは、討伐された魔物の死骸から削り出された『魔石』であった。
しかし、ただの石ではない。内側に星雲を閉じ込めたかのような、眩いほどの純度の高い魔力と霊素を放ち、周囲の空気を震わせている。
「これは……」
それまで黙って事態を見守っていた洋助が、鋭い目つきで魔石を手に取った。純粋な武器のスペシャリストである彼には、その石に込められた莫大なエネルギーの価値が一瞬で理解できた。
「……洋助さん、桐子お姉さん。これを見てちょうだい」
ルージュが、汗を拭いながら優雅な貴族口調を取り繕って説明を始める。
「この魔石と魔獣の素材は、多分このダンジョン内でしか生成されない特異な結晶ですわ。その純度とエネルギー変換効率は、魔術工学や軍需産業において、現在地球上にあるどのレアメタルよりも価値が高い……。持子たちは、この最高純度の魔石を、山のように持ち帰ってきましたのよ」
ルージュの言葉に、作戦室の空気がガラリと変わった。
桐子の絶対浄化の光がスッと収まり、楓も生太刀を静かに下ろす。
「……文字通り、東京の地下に『金脈』ができたのよ。しかも、無限に湧き出す化け物という名の資源がね」
ルージュが告げたその言葉は、人類の歴史が新たなフェーズへ突入したことを意味する、重い重い宣告であった。
洋助は魔石を強く握りしめ、桐子と視線を交わした。
「……桐子。爺さん(助平)に緊急の通信を繋いでくれ。……事態は、単なる霊災の封じ込めでは済まなくなった」
「ええ、洋助さん。すぐに」
持子に対する説教と処刑は一時保留となり、TIAは直ちにこの『資源の宝庫』の対応へと追われることとなった。
【魔境経済の勃発】
ルージュの報告が引き金となった。
事態を重く見た政府とTIA代表の風間助平は、即座にこの危険地帯を『指定地下ダンジョン』として完全封鎖する決定を下した。
しかし、それはあくまで表向きのことであり、状況は彼らの予想を遥かに超える、思わぬ方向へと転がり始める。
危険な封鎖指定区域は、一夜にして一攫千金を夢見る者たちの『黄金郷』へと変貌を遂げた。
史上最大のダンジョン資源争奪戦――『魔境経済』の勃発である。
巨万の富を生み出すダンジョンの利権を狙い、国内のみならず、世界中から猛者たちが帝都へ雪崩れ込んできた。
ドドドドドドドドッ!!
「ガァッハッハ! 国防も大事だが、仏の道も金が要るんでなァ! 野郎共、この地下の富は俺たち鳳翼山伏衆が根こそぎ頂くぜェ!!」
防衛線の要であった『鳳翼山伏衆』の蔵王権蔵が、巨大な金剛杖を振り回してダンジョンの浅層で暴れ回る。
「……煩悩に塗れた金脈など、我ら曼荼羅浄土門が浄化(回収)せねばならん。南無阿弥陀仏」
蓮華院慈空が、静かに念仏を唱えながらも、その目はギラギラとした欲望の光を放っていた。
「主よ、迷える資源たちに裁きの光を! アーメンッ!!」
聖三条騎士団のエドワード・聖三条が、十字架を掲げながら利権争いに参戦する。
「国に仇なす呪を断つ。そして、国の財源とする」
陰陽庁執行部『六壬』の土御門泰臣もまた、式神を用いて効率的に魔石を回収していく。
「ヒャハハハハッ! 裏社会のドブネズミの意地、見せてやるぜ! 呪薬打ってでも石を掘れェ!」
龍胆組・霊学会の鬼頭豪三が、構成員たちを狂戦士化させてダンジョンを荒らし回る。
国内の全クランが、己の欲望と組織の存続を懸けて地下へ潜っていく。
だが、その中でも強烈な存在感を放ったのが、海外からの介入勢力だった。
カツッ、カツッ、カツッ……。
地下へのゲート前。優雅なヒールの音が響く。
「道を開けなさい、今日からここが私たちの狩場よ」
莫大な資金を提供する世界的企業『リュクス・アンペリアル』の威光を背景に、フランスから送り込まれた異端審問官傭兵団。
その代表である冷徹な美女ベアトリスは、傲慢な笑みを浮かべてゲートの警備員たちを睥睨した。
そして、彼女の背後には。
「……神の導きのままに、この穢れた土地を刈り取りましょう」
かつてイギリスの聖三条騎士団にいたはずの天草・クリストファー・流星が、鋭い眼光を光らせて従っていた。
さらに、同盟国アメリカは外交特権を盾に、強引に『親善大使』という名目で異形の能力者部隊を送り込んできた。
ギュイィィィィィン……ッ!!
軍用の大型ヘリが帝都に降り立ち、そこから降り立ったのは、国家超常事態対策局『エクリプス(Eclipse)』の面々である。
アーリントン国立墓地の地下三百メートル、「アンダーグラウンド・バチカン」と呼ばれる魔力真空の要塞を本拠地とする彼ら。
現代兵器に古代の呪物を組み込んだ『聖遺物武装』を身に纏う彼らの参戦は、ダンジョンの覇権争いをより血生臭く、国際的な代理戦争へと変貌させていた。
「オーケー、極東のボーイスカウトども。ここから先は俺たちが仕切る。ダンジョンのコアは星条旗の元に管理されるべきだ」
エクリプスの指揮官が、葉巻を噛み千切りながら傲慢に言い放つ。
フランスとアメリカ以外の海外勢力は、各国の思惑と水面下の政治的交渉によってすでに排除されていた。東京の地下に生まれた地獄は、今や選ばれた者たちの欲望が渦巻く巨大な坩堝と化していた。
【天才電脳少女の分析】
TIA作戦室。
再び無数のホログラムディスプレイに囲まれ、高速でタイピングを続ける風間高子の指が止まった。
「……洋助指令、桐子参謀」
キッズラインの服を着た高子が、モニターの光を反射させながら静かに口を開く。
「どうした、高子」
洋助が歩み寄る。
「ダンジョン発生時の、あの国家レベルのハッキングと呪術複合ウイルス……。その侵入経路と、現在のダンジョン内における各勢力の動きを照らし合わせてみました」
高子は、複雑なデータグラフを空中に展開した。
「あくまで私の予測……いえ、直感に近いものですが。今回のダンジョン発生の引き金を引いた黒幕は、アメリカの『エクリプス』、そして……私たちTIAの内部にいる可能性があります」
「なんだと……!?」
洋助が息を呑み、桐子が鋭い参謀の目つきになる。
「『大禍つ炉』の深部システムにアクセスするには、外部からのハッキングだけでは不可能です。必ず、内部に手引きをした者がいる。そして、エクリプスの『アンダーグラウンド・バチカン』に設置された超高性能AIと聖遺物の共鳴演算能力……これらが合わされば、あの現象を引き起こすことは理論上可能です」
高子は淡々と、しかし確信に満ちた声で告げた。
「ただ……決定的な証拠が、意図的に隠蔽されています。確証はありません」
「……エクリプスと、TIAの裏切り者か」
洋助は拳を強く握りしめた。
「金脈を意図的に作り出し、その利権を貪るために、東京を地獄に変えたというのか……」
「許せませんわね」
桐子が、極上の笑顔のまま絶対零度の殺気を放つ。
「私たちの平穏を脅かす者どもは、すべて絶対浄化の光で消し去ってさしあげますわ」




