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【帰還の朝、念入りな禊と貢ぎ物の嵐】

【帰還の朝、念入りな禊と貢ぎ物の嵐】


チュン、チュン……。

爽やかな小鳥のさえずりが、代官山の最高級マンションに朝を告げる。

昨夜の、五人の絶世の美女たちを巻き込んだ「極上の親睦会(という名の大淫行)」から一夜明けた朝。


「……はっ! い、いかん!」


ガバァッ!

ふかふかのキングサイズベッドから、持子(中身は暴食の魔王・董卓)は勢いよく跳ね起きた。

足元や腕の中には、魔力を空にされて幸せそうに眠るアスタルテやシャーロットたちが転がっているが、持子の顔には焦燥感が浮かんでいた。


(今日は……これから氷川神社へ出向いて、風間家の連中にヨーロッパの土産を渡さねばならん! 特に……葉室桐子はむろ きりこに会うのだ!)


八咫烏の次期代表にして、持子に「光の神術」を教えた絶対的な恩人であり、ヒエラルキーの頂点に君臨する『完璧な正妻』、葉室桐子。

彼女の霊的な嗅覚と観察眼はバケモノじみている。昨夜のむせ返るようなピンク色の情欲(穢れ)を少しでも纏ったまま彼女の前に立てば、「あら、ずいぶんと汚れているわね」と、物理的かつ神聖な光の暴力で文字通り『消毒』されかねない。


「光よ、わしの穢れを祓いたまえ!!」


カァァァァァァッ!!

持子はベッドから飛び降りるなり、丹田から純然たる『光の神術』を引っ張り出し、己の身体を強烈な光の波動で包み込んだ。


「ふぅ……。いや、まだだ! 桐子お姉さんの嗅覚を舐めてはいかん!」


バタバタバタッ!

持子は全裸のまま大理石のバスルームへと駆け込み、熱い湯船にドボォォン!と飛び込んだ。


「ゴシゴシゴシッ!! さらに祓いたまえ!!」


ピカァァァァァッ!!

浴槽の中でもう一度、念入りに光の神術を展開して霊的な穢れを完全消去。

そして仕上げに――。


「シャキィィィンッ!!」


ザバァァァァァァァァッ!!

キンキンに冷えた氷水のシャワーを頭から被り、毛穴という毛穴を限界まで引き締め、昨夜の蕩けた表情を魔王の威厳で上塗りした。


「ふはははは! 完璧だ! これでわしは、生まれたての赤子のように清廉潔白なスーパーモデルだぞ!」




「……ご主人様ぁ……お、おはようございます……」


マンションのエントランス前。

持子を迎えに来たのは、愛車である美しいソウルレッドクリスタルメタリックの『MAZDA CX-5』に乗った、第一下僕の本多鮎だった。


「お、おお……鮎。お前、なまら顔色が悪いぞ……」


持子がドン引きするほど、運転席の鮎の目の下にはくっきりとクマが刻まれ、完全に生気を失ったゾンビのような顔をしていた。

昨夜の激しいエッチの疲労……だけではない。


「……終わりましたわ、ご主人様。……八月末が提出期限の、ご主人様の『夏休みの宿題』。数学の因数分解から、英語の長文読解まで……昨夜の親睦会の後、徹夜で……全部、終わらせましたわ……」


「おぉぉっ! さすがは早大生のインテリ忠犬! わしは分数すら親の仇のように憎んでいるからな! なまら助かったぞ!」


持子は、絶望的なバカである自身の宿題を全て鮎に丸投げしていたのだ。


「えへへ……ご主人様のためなら……私の、命を削ってでも……パトラッシュ、なんだか眠いよ……」


「寝るな鮎! 事故るぞ!」


ガチャリ。


「マスター・鮎、無理は禁物ですわよ。……持子様、おはようございます」


後部座席から優雅に顔を出したのは、吸血鬼の元女王ルージュだった。車からは一歩も出ず、後部座席で高級なお菓子をパリパリと優雅に齧っている。


「うむ、おはようルージュ。鮎、風間家まで頼む! お前たちも今日は一緒に挨拶に行くぞ!」


「は、はいぃ……気合を入れて、向かいますわぁ……!」


CX-5はフラフラとしながらも(持ち前の狂戦士の根性で)、無事に持子たちを氷川神社へと送り届けた。




【風間家・貢ぎ物の儀】


「ふははははっ! 邪魔するぞ! 極東の魔王と、その優秀な下僕たちの凱旋である!」


「お邪魔いたしますわーっ!」


「ごきげんよう、皆様」


ドンッ! ドササッ!

風間家の広間に、持子、鮎、ルージュの三人は、山のような紙袋とトランクをドサドサッと積み上げた。


持子が用意した箱のすべてには、漆黒と黄金の箔押しで『Luxe Imperialリュクス・アンペリアル』――すなわち、持子の愛しき忠臣・リジュが総帥を務める最高級ブランドのロゴが燦然と輝いていた。世界を股にかけるトップモデルとして、現在の持子の財力はもはや国家予算レベル(持子の思い込み)なのだ。


対して、鮎とルージュが抱えているのは、ヨーロッパ各地を巡り歩いて買い集めた「現地の特産品(地物)」が詰まった素朴で温かみのある袋である。


「おおおおっ!! 持子たぁぁぁんっ!! そして鮎たんにルージュたんも!!」


ズサァァァァッ!

真っ先に飛びついてきたのは、TIAトップにして限界熱狂的オタク、助平すけへいじいさんだ。


「ほれ、じいさん。ヨーロッパで撮り下ろした、まだ発売されていないわしの最新写真集のダミー版と、お気に入りのオフショットだ! さらに……これだ!」


持子は、重厚なベルベットの箱をドンッと置いた。


「リジュのブランドの、超限定生産の高級機械式腕時計だ! じいさんの細腕にも似合う厳ついデザインにしておいたぞ!」


「ブホォォォォッ!!!」


助平じいさんは、漆黒のゴシックドレスを纏った持子の艶やかな生写真と、目が飛び出るほど高価な腕時計を見た瞬間、両鼻から盛大な鼻血を噴き出して宙を舞った。


「お爺様! 私とルージュからもお土産ですわ!」


鮎が元気よく(クマを作りながら)紙袋を差し出す。


「イギリスのパブで仕入れた、最高級のスコッチウイスキーと、ヴィンテージのシガー(葉巻)ですわ!」


「わたくしからは、フランスの歴史あるシャトーで買い付けた、血のように美しい極上の赤ワインですわ。ぜひ今夜、嗜んでくださいませ」


「ウヒョォォォッ! 酒と葉巻と美少女の生写真! ワシは今、天国におるのかぁぁぁっ!」


「わぁっ! 持子お姉ちゃん、鮎お姉ちゃん、ルージュお姉ちゃん、おかえりなさい!」


タタタタッ!

次に駆け寄ってきたのは、天才電脳少女の風間高子だ。


「おお、高子! なまら会いたかったぞ!」


持子は天使のような高子をギューッと抱きしめ、頬ずりした。


「ほれ、わしからは高子に似合う可愛いキッズラインのワンピースとアクセサリーだ!」


「私とルージュからは、イタリアで買ってきた地物ですわ!」


鮎が可愛らしい箱を開ける。


「本場イタリアの職人が作った、色とりどりの『ヴェネツィアン・グラス』のヘアピンと小物! それから、最高に甘くて美味しいヘーゼルナッツのチョコレートですわ!」


「えへへ、キラキラしててすっごく可愛い! チョコも美味しそう! みんな、ありがとう! 大切にするね!」


(グハァッ……! なまら可愛い! わしの魔王の心臓が浄化されそうだ……!)


「……先輩、鮎さん、ルージュさん、おかえりなさい」


少しツンとした態度で、しかし瞳をキラキラさせて現れたのはTIA特級エージェントの風間楓だ。


「おう楓! お前にもリジュのブランドの服と……ほれ、これだ」


持子は小さな箱を取り出すと、ニヤリと笑った。


「わしとお揃いの、シルバーのアクセサリーだ。仕事中にもつけられるシンプルなものにしておいたぞ」


「っ……!? お、お揃い……!?」


楓の顔がボンッ!と真っ赤になるが我慢する。


「べ、別に欲しかったわけじゃないですけど! 先輩がどうしてもって言うなら、つけてあげなくもないですっ! (……やったぁぁぁっ! 先輩とお揃い!!)」


「ふふふ、楓ちゃんには私達から、ヨーロッパ各地の『美味しいとこ取り』のスイーツ詰め合わせですわよ」


ルージュが、可愛らしいバスケットを手渡す。


「ベルギーの王室御用達ワッフルに、ドイツの伝統的なバウムクーヘン、そしてスイスの濃厚なチーズタルトですわ」


「……ありがとうございます」


ツンデレ後輩は、お揃いのアクセサリーと大量のお菓子を胸に抱きしめて内心で狂喜乱舞していた。




そして――。


「おう、持子ちゃん、鮎、ルージュ。無事に帰ってきたみたいだな」


爽やかな笑顔で現れた風間洋助の隣には、和服を美しく着こなした、この空間の絶対的支配者、葉室桐子がふわりと百合の花のような品格を漂わせて並んで立っていた。


「あ、お兄さん! 桐子お姉さん!」


持子はピシッと背筋を伸ばし、積み上げられた紙袋の中でも一際巨大で、豪華なラッピングが施されたマウンテンを恭しく差し出した。


「こ、これは桐子お姉さんのための、特別中の特別です! リジュのブランドの最新コレクションの服に、最高級のアクセサリー、そして限定の時計などなど、大量に用意いたしました!」


桐子が「あら、こんなにたくさん。持子、ありがとう」と上品に微笑むのを確認してから、持子は洋助にも数点の紙袋をスッと差し出した。


「お兄さんにはこれだ」


「おっ、サンキュー。……ん? でもこれ、なんかデザインが……」


洋助が服を取り出して首を傾げると、持子はカァァァッ!と顔を真っ赤にして、モジモジと指を絡ませながら視線を泳がせた。


「そ、それはだな……! 今、桐子お姉さんに渡した服の隣を歩いた時に、一番映えるようにリジュのところで特別にコーディネートしてもらった服なのだ!」


「え……?」


「き、桐子お姉さんとお兄さんに、絶対似合うはずだから……! こ、今度、二人でデートに行く時は、ぜひ一緒に着て欲しいのだ!」


持子の言葉に、洋助は目を丸くした後、優しく微笑んだ。


「ははっ、そっか。持子ちゃんのお見立てなら間違いないな。桐子、次の休みはこれ着て出かけようか」


「ええ、洋助さん。持子、素敵な心遣いありがとう」


「お二人とも! 私とルージュからも、現地の特産品をどうぞ!」


鮎が、ドンッと立派な木箱を洋助の前に置いた。


「洋助さんには、イギリスの本場の風を感じる品々ですわ! 王室も愛飲する最高級のアールグレイ茶葉のセットと、スコットランド伝統のショートブレッド! それに、英国紳士御用達のツイード生地のマフラーです!」


「おお、いいなこれ! 茶葉は皆で飲めるし、マフラーも渋くてカッコいい。鮎、ルージュ、ありがとな!」


「そして桐子お姉様には……わたくしたちから、芸術の都・フランスの風を」


ルージュが恭しく、美しいリボンのかかった小箱を桐子に差し出す。


「南仏プロヴァンス地方で摘み取られた、最高品質の天然ラベンダーから抽出した香水と石鹸。そして、パリの老舗パティスリーに朝一番で並んで買った、宝石のようなマカロンの詰め合わせですわ」


「まあ……! ラベンダーの香り、私とても好きなの。マカロンも可愛らしいわね。鮎ちゃん、ルージュちゃん、重いのにわざわざありがとう」


桐子は極上の笑顔を浮かべ、二人の心遣いを喜んだ。




和やかな空気が広がる広間。

だが――。


スッ……。

桐子の顔が、持子の首元へ数センチの距離まで近づいた。


クンクン……。


(ひ、ひぃぃぃぃっ! 光の神術とシャワーで祓ったとはいえ、バレるか!?)


持子の心臓が、早鐘のように打ち鳴らされる。


「ふふっ」


桐子はふわりと離れると、目を細めた。


「ええ……霊的な『穢れ(情欲の念)』は、とても綺麗に祓われているわ。さすが、私が教えた光の神術ね」


「ほっ……」


持子が安堵の息を吐きかけた、次の瞬間。


ムニッ。


「あいたっ!?」


桐子の白く細い指先が、持子の頬を軽く、しかし逃げられない絶妙な力加減でつねり上げた。


「穢れは祓われているけれど……持子、お顔から完全に『エロ』が漏れ出ているわよ? 昨夜はずいぶんと、良い思いをして満たされた、だらしないお顔になっているじゃない」


「ぐはっ……!?」


すべてを見透かす正妻の圧倒的な眼力に、持子は顔を真っ赤にしてフリーズした。

物理的な穢れは消せても、昨夜の下僕たちとの狂乱の余韻で、持子の絶世の美貌が「すっかり満たされたメス(あるいはオス)」の色気をダダ漏れにさせていたのだ。鮎も隣で「あはぁっ♡」と昨夜を思い出してメス顔になっている始末である。


「あ、あははははっ……!」


持子は顔を真っ赤にしながらも、頬をつねられたまま、ここは開き直るしかないと覚悟を決めた。


「ふ、ふはははは! そ、それはだな、桐子お姉さん! 愛する下僕たちを慈しみ、全てを愛で包み込むことこそ、魔王の勤めだからだ!」


持子は、照れ隠しのように高らかに笑い飛ばした。


(……だが、笑い事ではないのだ)


持子は表面上は高らかに笑いながらも、己の魂の奥底で深く、そして重く反省していた。

ヨーロッパのイギリスでの死闘、特に大悪魔グレモリー(シャーロット)やアスタロト(アーサー)の狡猾な罠に嵌った時のことである。


風間洋助への初恋が破れたトラウマ。そして、この神が創り出したような『絶世の美女』という肉体の器に魂が引っ張られ、どうしても「女としての心(乙女心)」が顔を出してしまう。


(身体が女である以上、ある程度、女の心が出てしまうのは仕方がないと認めざるを得ん……)


だが、あのロンドンの時のように、イケメンの甘い囁きやロマンチックなシチュエーションで女の心が表層に出た瞬間、わしは限りなく弱くなる。

あの弱みにつけ込まれて精神を乗っ取られかけていた。もしあの時、地獄の業火のビジョンによる怒りで覚醒していなければ……わしだけでなく、この愛すべき下僕や仲間たち全てを犠牲にしてしまっていたかもしれないのだ。


(……ゆえに! わしは改めてここに誓う!)


持子はギュッと拳を握りしめた。


(わしの魂は、天下を恐怖で支配した覇王・董卓! まごうことなき『オス』なのだ!)


男女の美しい友情や絆は愛でるし、尊いとも思う。

だが、わしの性的な対象は断じて『女』だ!


(もう二度とオスの色香には惑わされん! 己の中の『男』と『董卓』の自我を鋼のように強く持ち、この美しい女の身体を使って、絶世の美女どもを抱いて抱いて抱きまくってやる! そして、世界最高の極東ハーレムを作ってやるのだ!)


大いなる野望と決意の炎が、持子の黄金の瞳の奥でメラメラと燃え上がる。


(……もちろん、この野望が桐子お姉さんや楓にバレたら、ガチで物理浄化されかねんから、絶対に秘密だがな!)


「もう、持子ちゃんったら。本当にしょうがない子ね」


桐子もクスッと上品に笑い、頬から手を離してくれた。


「ふはははは! わしは極東の魔王! ヨーロッパの次は、この極東をわしの愛と美で染め上げてやるわい!ハーレムもデカくするのだ!!!」


初秋の風が吹き抜ける氷川神社。

持子の圧倒的な財力を見せつけるブランド品の山と、鮎とルージュが選んだ温かい現地の特産品。そして、個性豊かすぎる仲間たちの賑やかな笑い声に包まれながら、極東の魔王・恋問持子と下僕たちの騒がしくも愛おしい日常が、再び幕を開けたのであった。


「持子には呆れるわ、鮎さん、ルージュさん。せっかくですから、もう少し残っていきなさいな」


ふわりと百合の花のように微笑んだのは、桐子だ。


「そうです! 今、桐子お姉様と一緒にお茶とお菓子を出しますから! 鮎さんもルージュさんも、そちらでのヨーロッパの土産話、もっと聞かせてくださいっ!」


楓もパタパタとキッチンの方へ向かいながら、嬉しそうに声を弾ませる。


鮎が戸惑っていると、桐子が極上の笑みで首を傾げた。


「あら。宜しいでしょう、ね?」


氷川神社の『絶対的ヒエラルキーの頂点』からの、有無を言わさぬ優しい笑顔。


「……は、はいっ! 喜んでお茶、いただきますわ!」


「フフフ、極東の巫女様の淹れるお茶、楽しみですわね」


かくして、魔王と下僕たちは、風間家の温かい空間で、賑やかで美味しいティータイムを満喫することになったのであった。


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