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「究極の光と、魔王の黒歴史完全消去」

【究極の光と、なかったことにされた黒歴史】


「いやああああぁぁぁぁぁぁっ!! わ、わしの業が! 深すぎる腐女子のカルマがあぁぁっ!! 頭が割れるぅぅ!」

「お、落ち着いてください持子様っ! 今すぐ私の生気(魔力)を口移しで!」

「しっかりしてくださいお姉さま! 息を吸ってー!」


シャンゼリゼ通りの片隅で、己の過去の業(自分の前世である董卓と呂布のアブナイ同人誌を描いていたのは、なんと自分自身だった)に気づいて完全に発狂し、頭を抱えてゴロゴロとのたうち回る極東の魔王、恋問持子。

そのあまりにも不憫でカオスな姿を見かねて、ついに四人の乙女たちが立ち上がった。

風間楓、葉室鶴子、本多鮎、そしてルージュ。

氷川の神域で過酷な修行を乗り越え、『光の神術』と『調律・浄化の力』に目覚めた彼女たちが、持子を四方から囲み、バッ! と一斉にその手をかざしたのだ。


「……まったく、仕方ありませんね。いきますよ、皆さん! フルパワーです!」

楓の冷たくも力強い号令と共に。


カァァァァァァァァァァァンッッ!!! ピッカァァァァン!!


パリの青空の下に、チート級の凄まじい『光の神術』の柱が、ズドォォォン! と立ち上った。

楓の神の治癒力、鶴子の慈愛の浄化、鮎の献身的な調律、そしてルージュの魔力支援。四人の全魔力と精神を直結させた、問答無用の完全精神回復メンタル・ヒールである。


「あ、あばばばばば……っ!? な、なんだこの眩しい光はぁぁぁっ!」


持子の脳内にこびりついていた『董卓×呂布』の生々しすぎる映像と、業の深すぎるトラウマが、圧倒的な光の濁流によって、文字通り『真っ白に(物理的に)』洗い流されていく。シュワァァァァ……!


数秒後。

光がスゥッ……と収まると、持子は石畳の上にすくっと立ち上がった。


「……ふぅ」


持子は、何事もなかったかのように衣服の埃をパンパンと払い、コホンと一つ咳払いをして、キリッとした魔王の威厳を取り戻した。


「……持子先輩? 大丈夫ですか?」

楓が、恐る恐る持子の顔色を窺う。


「む? なにがだ? わしは今、パリの美しい風を心ゆくまで感じていたところだが?」

持子は、黄金の瞳をスッと細め、完璧なドヤ顔で言い放った。キラ〜ン☆


(((……完全に『なかったこと』にしやがった……!)))


周囲の仲間たちは一斉に心の中で盛大なツッコミを入れた。だが、これ以上あの地獄のトラウマを掘り返すのは危険だと判断し、全員が深く、静かにコクリと頷き合う。


「ええ、そうですわね! 素晴らしい風ですわ、ご主人様! パリの風は最高ですっ!」

鮎が全力で空気を読み、満面の笑みで激しく同意した。


かくして、魔王の恐ろしき黒歴史のフラッシュバックは、強引なチートヒールによって無事に「なかったこと」として脳内フォルダの最深部に再封印されたのである。ちゃんちゃん♪



【別れ】


午後四時。

パリ郊外にある、プライベートジェット専用のル・ブルジェ空港。

オレンジ色の夕暮れが近づく滑走路には、リュクス・アンペリアルの女帝・リジュが手配した、超豪華な漆黒のプライベートジェットが堂々と待機していた。


「……よし。これで全員揃ったな」

持子は、これから次の戦地へと向かう風間楓、霞涼介、葉室鶴子、そして花園美羽の四人の前に立ち、力強く、そして優しく頷いた。


「短い間であったが、パリでのバカンス、なまら楽しかったぞ! お前たちと一緒に過ごせて最高だった! 次の戦地でも、絶対に死ぬなよ。約束だ!」

持子の魔王らしからぬ温かい言葉に、鶴子が「はいっ! 持子お姉さまも、お気をつけて! だぁい好きっ!」と満面の笑みでギュッと抱きつく。


その隣では、サバイバル忍者修行の宣告を引きずっている美羽が「うぅぅっ、持子さまぁ……忍者怖いよぉ……」とシクシク泣き、持子が「ふはは! 死にはせん! しっかり鍛えて、また美味い肉を一緒に食おうぞ!」と優しく頭を撫でていた。ナデナデ。


「あー、そうでした」

不意に、タラップを登りかけていた楓がクルッと足を止めた。

「持子先輩。……これ、私たちからのお土産です。ここで渡しておきますね」


パチンッ。

楓が小さく指を鳴らすと、黒服のスタッフたちが、数十個もの巨大な高級ブティックの紙袋を持子の前にズラリと並べた。ドサドサドサッ!


「な、なんだこれは!? こんなに大量の服……! いつの間に!?」


「私が、持子先輩の『マネキン』になりまして。みんなで話し合いながら、先輩に似合うものを一生懸命選びましたから、サイズはピッタリのはずですよ。……ふふっ」


普段の無機質な彼女からは想像もつかないほど、艶やかで可愛らしい『美しい微笑み』を浮かべる楓。頬がほんのり赤い。


(か、楓のやつ……わしのために、わざわざ……っ! こいつ、本当に可愛い後輩だな!)

持子は、不器用な後輩からの最高に心のこもったサプライズプレゼントに、胸の奥がじんわりと温かく熱くなるのを感じた。


「……うむ! ありがとう、楓、霞、鶴子、美羽! 貴様らが選んでくれた服、絶対に着てやるぞ! 大切にするからな!」

ドンッ! と持子が自分の胸を叩き、太陽のような最高の笑顔を見せた、その瞬間である。



【鬼プロデューサー降臨と、即落ちの陰陽師】


カツッ。カツッ。カツッ。

滑走路に似つかわしくない、鋭いピンヒールの足音が響いた。


「あら。感動的なお別れのところ悪いんだけど――予定変更よ」


「「「「「…………え?」」」」」


全員の動きが、ピタリと止まった。ピタァッ。

声のした方へゆっくりと振り返ると、完璧なネイビーのパンツスーツを着こなし、腕を組んで冷ややかに見下ろしている『鬼のプロデューサー』の姿があった。ゴゴゴゴゴ……!


持子の顔が、間抜けに引き攣る。

「な、なんで……なんでお前がここにいるのだ、雪ぃぃぃっ!?」


徹夜の打ち合わせを終えてホテルで爆睡しているはずの、立花雪である。

彼女は眼鏡のブリッジを中指でクイッと押し上げ、氷点下の声で告げた。キラリ。


「天候が悪くなるようだから、次の『イタリアでの撮影』、予定より早いけど……これから移動よ」


「い、イタリアだとぉ!? 明日からではなかったのか! わしは今夜、パリでめちゃくちゃ美味いディナー(お肉)を食う予定が……っ!」

持子がパニックになってジタバタと叫ぶ。


「冗談じゃない! 雪さん、急すぎます! ご主人様は今日、一日中歩き回って疲れているんです!」

鮎が猛反発し、ルージュやエティエンヌも「そうですわ! わたくしもまだ、シャンゼリゼで買いたいものが!」「持子様の休息の時間を奪うなど、たとえ雪殿でも許しませんぞ!」と一斉にブーイングを浴びせる。ブーブー!


そんな中、持子の隣にいた朔夜が、チッと舌打ちをして前に出た。

「冗談。俺の完璧なパリの夜のデートプランが丸潰れじゃ ――」


朔夜が雪に文句を言いかけた、まさにその時。

ギロッ。

雪の冷たく、絶対零度の視線が、朔夜を真っ直ぐに射抜いた。

それは、凄まじい呪力を操る恐ろしき陰陽道の『師匠』としての、言葉なき圧力プレッシャー

ピクゥッッッ!!!


「…………」


「…………あら? 何かしら、朔夜ニッコリ


「…………あ、いえッ!!」


朔夜の背筋が、バネ仕掛けのようにピンッと伸びた。ビシィッ!

その顔からは先ほどの「俺様」な余裕が完全に消え失せ、滝のような冷や汗がダラダラと流れている。


「ゆ、雪さん! お、お疲れ様です! 僕に何かお手伝いできることはありますか!? 荷物、お持ちしましょうか!? 何でもお申し付けください!」


((((((キャラ崩壊したぁぁぁぁぁーーっ!? 早っ!!))))))

持子と下僕たちは、心の中で盛大にツッコミを入れた。たった一瞥で一人称が「俺」から「僕」へと強制変換されるほどのトラウマスイッチである。


「結構よ。あんたも早く乗りなさい」


「はいッ! 喜んで!! お供します!!」

朔夜は90度の美しいお辞儀をして、そそくさとタラップの方へ小走りで逃げていった。タタタタッ!



【天国と地獄の強制連行】


一方、雪の「全員でイタリアへ行く」という言葉の意味を理解した瞬間、タラップの上にいた楓たちの態度は急変した。


「……ッ! ということは、持子先輩と一緒にイタリアへ行けるのですか……っ!?」

楓の瞳に、ハイライトがバチバチッ! と灯る。


「やったー! 持子お姉さまと離れずに済みますわーっ! わーい!」

鶴子が歓喜の声を上げてピョンピョン飛び跳ねる。


「えっ、じゃあ私のサバイバル忍者修行も……延期!? 生き延びたぁぁぁっ! 神様仏様雪様ぁぁ!」

美羽がその場に崩れ落ちて嬉し泣きし始めた。


「さあ、持子、あんただけ来ればいいから。ほら、行くわよ!」

ガシッ!!

雪は、目にも留まらぬ神速の動きで、持子の腕を強引に引っ掴んだ。


「なっ!? ちょ、待て雪! 嫌だーっ! 嫌なのだーっ!」

ズルズルズルッ!

雪が持子の腕を引き、リジュのプライベートジェットに向かって歩き出す。


「わしはまだパリで肉を食うのだぁぁぁぁっ!! フォアグラ! エスカルゴォォ! 離せーっ!」

持子は口では「嫌だ」と大声で喚き散らしているが、相手は絶対的な『推し』であり恩人の雪であるため、物理的な抵抗は一切できず、情けないほど従順にテチテチとついていってしまう。


「諦めなさい。これも世界を征服するためよ!」

ポイッ!!


「んぎゃあぁぁぁっ!?」

タラップを登り切った雪は、持子を機内へと、まるで軽い荷物でも放り投げるように容赦なく押し込んだ。ドサッ!



【そして、カオスは空へ】


「ああっ! ご主人様が連れ去られるぅぅっ!」

「持子様ぁぁぁっ! 今行きますぞぉぉっ!」

鮎、エティエンヌ、ルージュが猛ダッシュで閉まりかけたタラップへと飛び乗る。タタタタッ!


バタンッ!

無情にも、ジェットの扉が閉められる。


機内。

高級革張りのシートに放り込まれた持子は、シートベルトをカチャッと締められながらも、まだジタバタと涙目で抵抗していた。

「ゆ、雪ぃぃぃっ! せめて飯だ! わしはパリで美味い飯を食べたいのだーっ! お腹すいたー!」


持子の必死の懇願に対し、雪は優雅に腰を下ろし、両腕で大きな『バツ印』を作りながらピシャリと切り捨てた。

「ダメ! イタリアに着くまで我慢しなさい!」


「鬼だ! 悪魔だ! 人でなしぃぃぃっ!!」


「持子先輩っ! 私が隣に座ります! ギュッ」

興奮状態の楓がすかさず隣の席をキープしようとするが、


「ダメ! あんたは向こうの席よ」

雪の無慈悲な一言で、楓は「……チッ」と盛大に舌打ちをして引き下がった。


「持子様、泣かないでください! イタリアに行けば、きっと美味しいピザとパスタが山ほどありますから……っ!」と鮎がよしよしと慰める。


「ピザなんてカロリーの塊じゃないですか! 持子お姉さまの完璧なプロポーションが崩れたらどうするんですの! サラダになさい!」とルージュがツッコむ。


そこへ、すっかり萎縮した朔夜が、震える手でトレイを持ってきた。カチャカチャ。

「あ、あの……雪さん。持子。僕、美味しいハーブティーを淹れたので……機嫌直してください……」


ゴォォォォォォォォンッ!!!

持子の悲痛な叫びと、騒がしすぎる下僕たちの口論、そしてすっかり弱体化した朔夜を乗せたまま。

リジュの用意したプライベートジェットは、恐ろしいほどの急加速を伴って、夜のパリの空へと弾丸のように飛び立っていった。


極東の魔王と愉快な仲間たちの覇道は、息つく暇もなく、次なる舞台・イタリアへと和気藹々と(強制的に)突き進んでいくのであった――。


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