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『星付きレストランと、美しき戦友たちの再会』

【星付きレストランと、美しき戦友たち】


午後二時。

セーヌ川の穏やかな風が心地よく吹き抜ける、パリの一等地に建つ星付きの高級レストラン。

その優雅で洗練されたフロアの半分は、リジュのブラックカードの威力によって完全に『貸切』状態となっていた。


カランカランッ♪

「待たせたなーっ! いやぁ、パリの服はどれもこれもキラキラして素晴らしくてな、つい買いすぎてしまったわい! ふははははっ!」

大量の高級ブティックの紙袋(を両手いっぱいに持たされたエティエンヌと鮎)を引き連れて、極東の魔王・恋問持子が、太陽のような満面の笑みでレストランへと足を踏み入れた。


「……遅いぞ、持子。待ちくたびれて、前菜のオリーブを全部食べ尽くすところだったわ」

窓際の特等席。そこで優雅に脚を組み、シャンパングラスを傾けていた金髪の美女――異端審問官を束ねるヨーロッパ裏社会の猛者であり、圧倒的な美貌を誇る女傑、ベアトリス・ド・ロシュフォールが、ふっと口角を上げて立ち上がる。


そして、その斜め後ろには。

「持子様。お待ちしておりました」

完璧な姿勢で控えていた一人の美少年が、深く、そして誰よりも敬意を込めて一礼した。かつて帝都で持子と敵対し、そして救われた『騎士』、流星である。


「おおおっ! ベアトリス! 流星!」

持子はパァァッと顔を輝かせて二人に歩み寄り、バシバシッと流星の肩を叩いた。

「お前ら、パリでどんな甘〜いデートをしておるのかと思えば、ずいぶんと様になっておるではないか! ニヤニヤ」


「デ、デートなどではないわ! 私たちはただの『上司と部下』よ!」

ベアトリスが、顔をほんのりと林檎のように赤くして、バサッと金髪を揺らす。

「そうだぞ流星、お前からもビシッと何か言いなさい!」


「はい。ベアトリス様は僕の直属の上司であり、共に激しい戦線をくぐり抜ける大切な戦友です」

流星は、涼やかな、しかしどこか芯の太くなった声で真っ直ぐに、爽やかに答えた。


ベアトリスと流星。二人の付き合いはまだ短いものの、彼らの間にはすでに、互いの背中を完全に預け合えるほどの強固で温かい信頼関係が築かれていた。流星は、一度は持子と決裂し死を覚悟した身だが、持子に命を救われ、許されたことで、「今の弱い自分を鍛え直す」べく、単身ヨーロッパへと渡ったのだ。そしてベアトリスの部下として、命懸けの死闘に身を投じてきた。


そんな二人を強く、そして固く結びつけている最大の理由は――お互いが、『恋問持子』という圧倒的な光に深く惹かれているからだ。


(……本当に、この極東の魔王め。どうしてこうも人の心を惹きつけるのかしら)

ベアトリスは、無邪気に笑う持子を見つめながら、内心でそっと、愛おしむように目を細めた。

かつての死闘で、持子は圧倒的な力でベアトリスをねじ伏せながらも、決して命を奪わず、深い慈悲を見せた。そして何より、「お前のその美しい顔、わしは好きだぞ」と、ベアトリスの誇りである容姿をド直球に褒め称え、彼女の心を完全に鷲掴みにしたのだ。

同じ持子を敬愛する者同士、異国の地で共に血を流し、背中を預け合ううちに、ベアトリスと流星がお互いに特別な感情を抱くようになるのは、ある意味で温かい必然であった。



【魔王のセクハラと、騎士の甘〜い微笑み】


「ふははは! 照れるな照れるな!」

持子は、用意された主賓席にどっかりと腰を下ろすと、ニヤニヤと悪戯っ子のような笑みを浮かべて二人を交互に見た。


「しかし、ベアトリスよ。お前が流星とそんなに良い仲になると知っていれば……わしがさっさと手を出しておけばよかったわい! じゅるりっ」


「なっ……!?」

突然のセクハラ発言に、ベアトリスが目を真ん丸にする。


「お前のその気高く美しい顔が、快楽にどう歪むか……一度、この目でじーっくりと見てみたかったからな! ふはははは!」

持子がエロく舌なめずりをしながら、堂々たる変態発言をかます。


「こ、この魔王……っ! 一体何を言い出す! 淑女に向かって……っ!」

ベアトリスは顔を限界まで真っ赤にして、ワナワナと小刻みに震え出した。


「「「あははははっ!」」」

持子の容赦のない冗談に、同席した極東組(鮎やルージュたち)からドッと楽しげな笑いが起こる。


「ちょっと持子様! 私というものがありながら、浮気発言は禁止ですぅ! プンスカ!」

「持子様、私の顔ならいつでも快楽に歪ませてご覧に入れますぞ! はぁはぁ!」

鮎とエティエンヌがすかさず両脇からツッコミを入れる中。


「……ふふっ」

ふと。ベアトリスの隣に立っていた流星が、小さく、しかしとても穏やかで甘い笑みをこぼした。


「流星……?」

ベアトリスが驚いて見上げると、流星は、持子の目を見て、どこか誇らしげに言った。

「持子様の仰る通りです。……ベアトリス様は、本当に『可愛い』ですよ。ニコッ」


「〜〜〜〜ッ!?」

ボフゥゥゥゥッ!!

流星の、一切の迷いもないド直球の惚気発言。ベアトリスの頭頂部から、目に見えない真っ赤な蒸気が勢いよく噴き出した。

あの冷酷無比な異端審問官が、両手で顔を覆い、「ば、ばか流星……っ」と身悶えして完全に恋する乙女と化している。


「ふははははは! 言いおるわ流星! お前、ヨーロッパでずいぶんと男を上げたではないか!」

持子はパンパンと手を叩いて大爆笑した。

「ならば、これからはお前が、ベアトリスをしっかりと護ってやるのだな!」


持子のその言葉は、彼が一人の男としてベアトリスに仕えることを心から祝福するものだった。だが――。

流星は、スッと姿勢を正し、右手を自身の胸に当てて、深く、静かに首を振った。


「……いいえ」

流星の瞳に宿る、決して揺らぐことのない絶対的な『信仰』の光。

「僕の『王(神)』は、永遠に君(持子)です。……僕が持子様の『騎士』であることは、これからも絶対に変わりません」

それは、たとえベアトリスと心を通わせようとも、彼の魂の根源は常に持子に捧げられているという、重く、そして美しい誓いであった。


「……うむ。そうか」

持子は、流星の真っ直ぐな瞳を真正面から受け止め、満足げに深く頷いた。


「流星の言う通りよ。この子は、あくまで私の部下として預かっているだけ」

顔の赤みを引かせたベアトリスが、ふんっと誇り高く腕を組んだ。

「持子。あなたに何かあれば、いつでも私に連絡してきなさい。ヨーロッパの裏社会を総動員して、また助けに行ってやるわ」

ベアトリスは、真っ直ぐに持子を見据え、ニヤリと不敵に笑った。

「……だが、東京で『借り』は完全に返した。貸し借りはもうないからな。次からは、きっちりと『金』を取るわよ?」


「おう! 望むところだ! その時はリジュのカードでたーんまり払ってやるわい! がははは!」


パシィィィッ!!

極東の魔王と、ヨーロッパの女傑。二人は互いの力を認め合い、信じ合うように、テーブル越しに力強く、固い握手を交わした。



【暴食の天使と、優しき(?)プレッシャー】


「さあさあ! 飯だ飯だ! カンパーイだーっ!」

持子の号令と共に、星付きレストランの極上のフルコースが次々と運ばれてきた。

カチン、カチン、カチィィンッ! とグラスが楽しげに触れ合う音が響き、広々としたフロアはたちまち賑やかで温かい喧騒に包まれる。


「……おお、美羽よ」

持子は、テーブルの端で、両手にフォークとスプーンをギュッと握りしめている小さな暗殺者、花園美羽の元へと歩み寄った。


「モグモグモグ……あ、もちこしゃま! この仔羊のロースト、ほっぺたが落ちそうですぅ……! きゅるんっ」

美羽の顔には、いつものふわふわとした、血色の良い最高に可愛い笑顔が完全に戻っていた。


「うむうむ。お腹の調子も完全に治ったようだな。見事な食いっぷりだ! ぷにっ」

持子は安心したように目を細め、美羽の柔らかい頬をつついた。

「お前はな、そうやって『ぷにっ』としていて、美味そうに飯を食う可愛い顔をしていなければダメだ。……これからは、絶対に道端のキノコなど拾い食いなどするなよ?」


「はいっ! 持子様、だぁい好きですっ! ぎゅーっ!」

美羽は満面の笑みで、持子の腰に抱きついた。

ほのぼのとした、主従の最高に温かい光景。だが、そんな二人の背後から、氷のように冷たくも優しい声が降ってきた。


「……ええ。存分に食べておきなさい、美羽先輩」

「ビクゥッ!?」

美羽の背筋がピーンと凍りつく。振り返ると、そこにはナイフとフォークを優雅に構えた風間楓が、一切の感情を排した美しい微笑みを浮かべて立っていた。


「私たちは、今夜にはこのパリを発ち、次の目的地へ移動します。……もう二度と、地下でキノコを食べなくて済むように。今のうちに、しっかりと『悔いなく』食べておくことです。ニコッ」


「ひぃぃぃっ……! か、楓ちゃんの目が、笑ってないですぅ……っ! ガクガクブルブル!」

楓の放つ無言のプレッシャー(次拾い食いしたら殺す)に、美羽が震え出す。


「ふははは! 楓は相変わらず厳しいな!」

持子は笑い飛ばしながら、楓、霞、鶴子の三人に向かって、真剣な顔で頷いた。

「楓、霞、鶴子。……このアホな猫のこと、これからも頼んだぞ」


「……ええ。お任せください、持子先輩」

「合理的かつ安全に運用してみせます。クイッ」

「私もしっかり見張っておくからね! えへへっ」

三人が、頼もしく、力強く頷き返す。


「よし! ならば心置きなく食うぞ! すみませーん! この牛フィレ肉、おかわりだ!」

「私もお肉おかわりですぅ! モグモグ!」

「美羽先輩、少しは野菜も食べなさい」


パリの美しい日差しが燦々と差し込む星付きレストラン。

過酷な戦いを乗り越えた極東の魔王と、その大切な仲間たち。

彼らのテーブルからは、いつまでも絶えることのない、温かく、和気藹々とした笑い声が響き渡っていた。


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