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『二郎とゲーセン、そして最高の相性』

✴︎『退院祝いは、嵐の予感?』


真夏の帝都。陽炎が揺れるアスファルトの街へ、二人の「絶世の美少女」が並んで歩き出す。


一人は、最高峰のブランドが仕立てたスポーティ・カジュアルを着こなす、黄金の瞳を持つ長身の美女(中身は暴食の魔王・董卓)。

もう一人は、透き通るような白い肌と色素の薄い髪を揺らす、風が吹けば飛んでいきそうなほど儚げな美少女(中身はゴリゴリの肉食系男子・陰陽師の朔夜)。


すれ違う人々が、あまりの顔面偏差値の暴力に次々と振り返り、ため息を漏らす。だが、当の本人たちは周囲の視線など一ミリもお構いなしだ。


「なぁ持子。腹、減ってない?」


朔夜が隣を歩きながら、ふと顔を覗き込んでくる。

その瞬間。


――ぐきゅるるるるるるるるるるるるるっ!!


持子の神が創り賜うた黄金比のプロポーションから、全く似つかわしくない、猛獣の咆哮のような腹の虫が盛大に鳴り響いた。


「なっ……!?」

「あははははっ! すっげー音! さすが暴食の魔王様だね!」

「う、うるさいっ! わしは朝から何も食っておらんのだ! この底なしの胃袋を満たせるなら、今すぐ牛の一頭や二頭、丸呑みにしてやるわ!」


カァァッと顔を赤くして吠える持子。

そんな彼女を見て、朔夜はニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべ、ビシッと進行方向を指差した。


「よし、じゃあ決まりだ! 退院祝いの初デート、まずはあそこでエネルギー補給しようぜ!」

「……あそこ、だと?」


朔夜が指差した先。

そこには、黄色い看板に黒々とした太文字で書かれた、一部の熱狂的信者を生み出す魔境の名前があった。

数十メートル先からでも漂ってくる、暴力的なまでに強烈な豚骨とニンニクの匂い。


「な、ラーメン二郎だと……!?」


持子は目を丸くした後、隣の朔夜をジロリと見下ろした。


「おい朔夜、貴様正気か!? お主、今日退院したばかりの病み上がりであろうが! 胃袋に致死量のダメージを与える気か!?」


いくら中身が男とはいえ、朔夜の今の見た目はひどく繊細だ。そんな病み上がりの身体で、あの凶悪なカロリーの権化に挑もうというのか。


「へっへー! 大丈夫だって! この時のために、俺、昨日から病院食をスルーして何も食べてないからね! 胃袋のコンディションは完璧だ!」

「いや、逆にそれは一番胃に悪いのではないか……!? 貴様、本当に命知らずだな!」


呆れつつも、持子自身も強烈なジャンクフードの匂いに誘惑され、口の中にじゅるりと唾液が湧いてくるのを止められなかった。



     * * *



「ニンニクアブラカラメマシマシで!!」


ドンッ!!

油で滑るカウンターに置かれたのは、もはや丼の形を成していない、モヤシとキャベツと分厚い豚肉チャーシューがエベレストのようにそびえ立つ暴力的な一杯だった。


持子は高級ブランドの袖を躊躇なくまくり上げ、割り箸をバチンッ! と割る。


「ふはははは! このジャンクな匂い、たまらんぞ! さあ、魔王の胃袋の恐ろしさ、とくと見るがいい!」


ズズズッ! ワシワシワシッ!! ゴクンッ!

持子は、トップモデルとしての品格など一瞬で投げ捨て、凄まじい勢いで極太麺とヤサイを胃袋へと流し込んでいく。


その横で。

「俺は、ニンニクアブラマシで!」


朔夜の前にも、一般人なら確実に胃もたれを起こすであろう特大の一杯が置かれていた。

儚げな美少女が、無骨な丼と格闘するあまりにもシュールな光景。


「はふっ、はふっ! うまっ! やっぱこれだよね!」

「おいおい……本当に食っておるぞ。無理するなよ、朔夜。残したらわしが食ってやるからな!」

「舐めんな持子! 俺だって男だ、これくらい余裕だっての!」


ズルズルズルッ! むしゃむしゃむしゃっ!

黄色い看板の店内に、絶世の美少女二人が一心不乱にラーメンを啜る音が響き渡る。


そして、数十分後。


「ごちそうさまでしたーっ!」


カンッ、と。

朔夜は、見事に空っぽになった丼をカウンターの高台へと置いた。その額には薄っすらと汗が滲んでいるが、表情は晴れやかそのものだ。


「ぷはーっ! 食った食った! 大満足!」

「おおおっ……!」


持子は自身のマシマシ丼をとうの昔に平らげた後、信じられないという目で朔夜を見つめた。


「マジで食いきりおったわ! 退院直後にマシを完食するとは……お主、なかなかやるではないか!」

「へへんっ! 気合いだ、気合い! 持子とのデートを万全の状態で楽しむための気合いだよ!」


朔夜がガッツポーズを作ってウインクすると、持子は「ふっ、生意気な奴め!」と言いながらも、なぜか胸の奥がクスリと温かくなるのを感じていた。



     * * *



腹を満たした二人が次に向かったのは、けたたましい電子音と極彩色のネオンが明滅する巨大なゲームセンターだった。


ピコピコピコッ! ギュイィィィン!!


「ふはははは! そこだ! わしの必殺コンボを喰らうが良い!!」

ガチャガチャガチャガチャッ!! ターンッ!!


「うわっ、ズルいぞ持子! 今のタイミングでハメ技とか鬼畜かよ! くっそ、シールド展開してカウンターッ!」


対戦格闘ゲームの筐体に並んで座り、二人は親の仇のようにレバーとボタンを弾きまくっていた。

持子の容赦ない猛攻を、朔夜がギリギリで躱して反撃に出る。


「むっ!? やるな朔夜!」

「俺の反射神経を甘く見んなよ!」


格闘ゲームで熱く燃え上がった後は、協力プレイのガンシューティングゲームだ。


ドドドドドッ! バキュンッ!!


「持子、右から敵の増援! 3体!」

「任せておけ! 蜂の巣にしてくれるわ! 朔夜は左のボスを抑えろ!」

「了解! リロードするから3秒カバー頼む!」

「うむ!!」


背中を預け合い、息の合った連携で次々とステージをクリアしていく。

言葉を交わさなくても、お互いの次にしたい動きが手に取るようにわかるのだ。


(……なんだ、この圧倒的なやりやすさは)


持子はプラスチックの銃を構えながら、隣で真剣な横顔を見せる朔夜をチラリと見た。


クレーンゲームをやれば、朔夜がアームの癖を瞬時に見抜いて持子の欲しがっていた可愛いぬいぐるみを一発でゲットし、「はい、プレゼント!」とサラリと渡してくる。

音楽ゲームをやれば、二人で息を合わせてハイスコアを叩き出し、終わった瞬間に「イェーイ!」と自然にハイタッチを交わす。


何のゲームをやっても、信じられないくらいに楽しいのだ。


「あー、笑いすぎて腹痛い! 持子、あのシューティングの時の叫び声、完全に魔王だったぞ!」

「ふ、ふんっ! わしはいつだって魔王だ! しかし、貴様もなかなか良い腕をしておったぞ。褒めてやろう!」


ゲームセンターを出て、夕暮れ時の街を歩きながら、持子はもらったぬいぐるみを抱きしめて密かに口元を緩めた。


(……悔しいが、認めざるを得んな)


出会い頭に胸を揉んできたり、からかって挑発してきたりと、ペースを乱されることばかりだが。

一緒にゲームのコントローラーを握っている時。こうして並んで歩いている時。

持子と朔夜の間には、決して言葉では説明できない、パズルのピースがカチリとハマるような『最高の相性』があった。


魂の波長が、ぴったりと重なり合っているような、そんな不思議な居心地の良さ。


「……ねぇ、持子」


ふと、朔夜が足を止め、夕日に染まる横顔で持子を見つめてきた。

先ほどまでのふざけた態度とは違う、少しだけ真剣で、真っ直ぐな瞳。


「今日のデート、楽しかった?」


ドキッ、と。

持子の心臓が、ゲームの時とは全く違う理由で、大きく跳ねた。


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