「神おっぱいと、おっぱい同盟の夜」
合気武道部 夏合宿六日目・夜:魔王の白衣と、百合と煩悩の同盟
禊を終え、宿泊棟へと戻った深夜。
「……蒼真。起きているか」
「はい……」
暗闇の中、持子にこっそりと呼び出された次期主将・門蒼真は、心臓を早鐘のように打たせながら、月明かりが差し込む縁側へとやってきた。
「ふはは。よく来たな、次期主将」
持子は縁側に腰掛けていた。彼女が身に纏っているのは、先ほどの禊で使った神事用の『白衣と襦袢』、そして下半身は『白い褌』のみである。
しかし、神聖なはずのその装束は、絶世の美女が着崩すことで、どんな露出度の高い服よりも暴力的なセクシーさを放っていた。夜風に揺れる黒髪と、月光に照らされた白磁の肌が、この世のものとは思えないほど美しい。
「あの、持子先輩……約束は……」
蒼真が、ゴクリと生唾を飲み込んで尋ねる。
「うむ。わしは約束を破るようなケチな真似はせん。貴様は今日、見事に代表の座を勝ち取り、わしを唸らせる合気を見せた。……褒美をやろう」
持子はニヤリと笑うと、襦袢の胸元にするりと手をかけた。
シュルル……。
紐が解け、純白の合わせがゆっくりとはだけていく。
「……っ!!」
蒼真は息を呑み、目を見開いた。
月明かりの下、露わになった神が創り出した黄金比のプロポーション。そして、豊かな、あまりにも豊かな双丘が、白衣の隙間から蒼真の視界に圧倒的な質量を持って飛び込んできた。
「ど、どうだ……? わしの、おっぱいは……?」
持子は、わざと妖艶な声で囁きながら、自身の胸を少しだけ下から持ち上げてみせた。
「………………(プシューッ)」
蒼真の鼻から、一筋の赤い血がツツーッと流れ落ちた。
彼の無口で真面目な高倉健フェイスが、完全に限界を突破し、言葉にならない感動と興奮で「無」の境地に達していた。
「……す、すさまじい破壊力だ……。この世のものとは思えない程、美しい……」
蒼真は、鼻血を流しながらも、まるで国宝の仏像でも拝むかのような、極めて真摯で厳かなトーンで呟いた。
「神が作り申した、極上のおっぱい……。大きさも、形も、完璧な……おっぱい。それに、これだけ乳が大きいというのに……なぜ乳輪が大きくならないんだ……!? 乳輪も小さく、そして何より……乳首もピンクで、小さくて、上を向いていて……まさに、神……!」
真面目すぎる男の、一切の嘘偽りない、生物学の常識をも超えた変態的なまでの大絶賛。
「ふははは! そうだろう、そうだろう! 美しいだろう!」
持子は自慢げに豊かな胸を張り、満足そうに頷いた。
「良かったな、蒼真。お前は今日から、この美しいおっぱいを拝んだ者として、誇りを持って部を引っ張るのだぞ!」
「あ、ありがとうございました!! 一生、主将としてこの部を、そして持子先輩のその神のおっぱいに尽くします!!」
蒼真は深々と、90度の完璧なお辞儀をして、フラフラとした足取りで寝室へと戻っていった。
……しかし。
その一部始終を、宿泊棟の物陰から血涙を流しながら見つめている二つの影があった。
代表戦で敗れた、佐藤陽翔と阿部凛花である。
「ギリィィィッ……! そ、蒼真の野郎……抜け駆けしやがって……! 柱の陰からじゃ、俺の角度からは蒼真のデカい背中が邪魔でミリも見えなかったのにぃぃっ!!」
佐藤陽翔が、柱をガリガリと引っ掻きながら、怨嗟の声を漏らす。
「俺だって……! 俺だって持子先輩の神おっぱい、見たかったのにぃぃぃっ!!」
その隣で、阿部凛花は完全に魂が抜けたような、恍惚とした表情で虚空を見つめていた。彼女の隠れていた角度からは、月明かりに照らされた持子の胸元が、4Kの高画質でバッチリと見えてしまっていたのだ。
「はぁぁ……っ、持子先輩の、おっぱい……。この世のものとは思えない程、美しかったです……っ」
凛花は両手で自分の頬を包み込み、身悶えするように身体をくねらせた。
「神が作り申した、極上のおっぱい……! おっぱいの大きさも、形も、非の打ち所がない完璧なおっぱい……! 大きな胸なら乳輪も大きくなるはずなのに、小さくて……その上、乳首もピンクで小さくて、ツンッと上向いてて……あぁっ、まさに神の造形ですぅぅっ!!」
「ぐあぁぁっ! 凛花が羨ましすぎるぅぅっ! なんでお前だけ特等席なんだよぉぉっ!」
佐藤が、頭を掻きむしって悔し涙を流す。
「俺も! 俺もピンクで小さくて上向いてて乳輪小さいやつ見たかったぁぁぁぁっ!!」
すると、恍惚状態から戻ってきた凛花が、フンッと鼻を鳴らして佐藤を見下ろした。
「ふふんっ! 陽翔くん自分の運の無さを怨むのよ!」
持ち前の社交性の高さで、すでに同級生たちを下の名前や愛称で呼ぶようになっている凛花が、容赦なく挑発する。
「はぁっ!? なんでだよ!」
佐藤が猛烈な勢いでツッコミを入れる。
「だいたい、なんで凛花はおっぱい『揉みたい』とか言ってんだよ! お前女だろうが! そっちか!? お前、百合なのか!?」
「ゆ、百合じゃないわよ!!」
凛花がボフンッ! と顔を真っ赤にして反論する。
「モデルやっていて、あの完璧な持子先輩に憧れないバカはこの世にいないのよ! あの美しすぎる身体の秘密を知りたい、触れてみたいって思うのは、美を追求する者としてあたりまえの欲求でしょう!?」
「いや、ピンクで小さくて上向いてるとか言ってる時点で、完全にスケベの目線だろうが!!」
「う、うるさいわね! ……でも」
凛花は、モジモジと長い指を絡ませながら、とろけるような笑顔を浮かべた。
「持子先輩になら……私、百合でも良いかも……えへへ♡ でも、陽翔くんはダメだからね!」
「俺に飛び火させんな!! 完全に目覚めちゃってんじゃねーか!!」
佐藤の魂からのツッコミが響く中、鼻血をティッシュで詰めた蒼真が戻ってきた。
「……すまん、陽翔。俺だけ先に見せてもらった」
「蒼真この野郎! どんなだった!? なぁ、マジで神だったのか!?」
「ああ……。俺のボキャブラリーでは表現しきれない。この世の奇跡だった……」
「蒼真くん良かったね! !」
「……凛花も、次は頑張れ」
おっぱいという強烈な秘密(そして目的)を共有したことで、門、佐藤、阿部の三人の間に、謎の熱い連帯感と同盟関係が生まれ、かつてないほど仲良く肩を叩き合っていた。
……しかし。
そのさらに後ろの暗闇から、南原紗良が、ギリッと唇を噛み締めながらその様子を見つめていた。
(……なんで、なんであんなバカみたいなおっぱいの話で、佐藤くんたちあんなに盛り上がって、仲良くなってるんですか……)
紗良は、自分だけがその『おっぱい同盟』の輪に入れない疎外感と、何より佐藤が凛花や蒼真と下の名前で呼び合い、ワイワイと親しげにしていることに、胸の奥がチクチクと痛むのを感じていた。
(私だって、佐藤くんが私に『おっぱい見せて』って言ってきたら……見せないですけど、でも……ああもうっ、悔しいです!)
紗良は、複雑な乙女心と嫉妬を抱え、フイッとそっぽを向いた。
「おい、陽翔。凛花。そして蒼真」
「「「ビクゥッ!?」」」
物陰で盛り上がっていた三人の背後から、不意に持子の声が降ってきた。
振り返ると、そこには白衣の合わせをキッチリと締め直した持子が、腕を組んで立っていた。
「最初から気づいておったぞ。……悔しいか?」
持子の黄金の瞳が、佐藤と阿部を射抜く。
「く、悔しいっす……! 俺も、ピンクで上向いてるやつ、生で見たかったっす……!」
「私もですぅぅ! 私は見るだけじゃなくて、直接揉みたかったですぅぅ!」
二人は正直に、煩悩まみれの悔しさをぶちまけた。
持子は、ふっと息を吐き、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
(ふはは。こいつらにも今ここで見せてやろうかと考えたが……いや、ダメだ。この『おっぱいという最強の餌』は、こいつらがさらに強くなるためのモチベーションとして残しておいた方が、間違いなく化ける!)
「ふははは! ならば、さらに死ぬ気で稽古に励め!」
持子は二人に向かって、ビシッと指を突きつけた。
「合宿が終わっても、わしは貴様らを見ているぞ! いつか、貴様らがその実力で、わしを本気で認めさせた暁には……! お前たちにも、わしのおっぱいを見せて、存分に揉ませてやる!!」
「「!!!!!?」」
その瞬間、佐藤と阿部の瞳に、凄まじい業火が灯った。
「うおおおおおおおっ!! やります!! 俺、絶対強くなってみせますぅぅぅっ!!」
「私もぉぉぉっ!! 持子先輩のおっぱいを揉むためなら、悪魔に魂だって売りますぅぅぅっ!!」
深夜の氷川神社に、煩悩という名の狂戦士たちの雄叫びが響き渡る。
「ふはははは! 良いぞ、その意気だ! 吠えろ、吠えるのだひよっこ共!」
「俺も、次期主将として二人の鍛錬に付き合おう」
「蒼真! お前いいやつだな!」
「蒼真くん、頼りにしてるね!」
……その狂乱の様子を、暗闇の奥から見つめていた紗良は、呆れたようにため息をついた。
(……やっぱりバカみたいです。おっぱいで連帯感を強めるなんて、最低です。……でも、少しだけ羨ましいなんて、絶対に思いませんからね!)
紗良はツンと鼻を鳴らし、一人寝室へと戻っていった。
一方、その頃。
高橋玲央はというと。
(クソッ……! 蒼真め、次は絶対に私の完璧な型で勝ってみせる……! 待ってろよ次期主将!!)
(それにしても、あいつら外でなんであんなに気合入って吠えてるのよ。……ま、いいわ。どんな理由であれ、私もあいつらには絶対に負けないんだから!)
おっぱいの件など微塵も知らない玲央だけが、合気武道部の一年生の中で唯一の『まともなバランサー』として、純粋に武道家としての敗北を噛み締め、布団の中で一人熱い闘志を燃やしていた。
魔王の高笑いと、一年生たちの狂気的な咆哮。
合気武道部の熱い夏合宿。
ひよっこ達の成長と絆、そして魔王の新たなる覚醒(と絶対的なセクハラ教育)を乗せて、いよいよ明日、全ての集大成となる最終日を迎えるのだった。




