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「雨上がりの鍋と、魔王の新たな光」

ザァァァァァ……ピチョン、ピチョン。

昼間、氷川神社の秘境を狂ったように打ち据えていた豪雨は、夕刻を迎える頃にはすっかり上がり、嘘のように澄み切った青空が顔を覗かせていた。

雨水を含んだ木々からは青葉の瑞々しい匂いが立ち上り、ひんやりとした心地よい山風が、合宿所の境内に吹き抜けていく。

温泉での「魔王の恋愛(支配)遍歴発表会&大号泣事件」を経て、身も心もさっぱりとした女子部員たちは、宿泊棟の広間へと戻ってきていた。


「いやー、雨上がってよかったね! これなら明日は外で稽古できそう!」


主将の千手美貴が、タオルで濡れた髪を拭きながら明るく言う。


「そうですね。……それにしても、お腹が空きました」


南原紗良が、冷静な顔のまま、キュルルルと小さくお腹を鳴らした。

時計の針は午後五時半を回っている。


「うむ。わしも限界だ。昼は雨で適当な携行食しか食っておらんからな」


ドカッと座布団にふんぞり返った恋問持子が、腕を組んで宣言する。その黄金の瞳は、すでに「夕食」という名の獲物を狙う猛禽類のようにギラギラと輝いていた。

普段の合宿では、頼れる三年生である千手と森盛夫が率先して食事の準備をしてくれている。しかし、今日は大雨のドタバタや温泉での騒動もあり、先輩二人をこれ以上働かせるわけにはいかない。


「よし! 千手、森! 貴様らは今日はいろいろと疲れたであろう! 今日はわしと、この可愛いひよっこ共(一年生)で夕食を作ってやる! 貴様らは座って待っておれ!」


持子の尊大な、しかし先輩を気遣う優しい提案に、一年生たちも「はいっ!」と元気に返事をした。

休養していた男子一年生、門蒼真と佐藤陽翔も台所に合流し、総勢六名による「合気武道部・夕食特命チーム」が結成されたのである。


***


宿泊棟の広い土間にある台所。

エプロンを身につけた一年生たちを前に、総監督たる持子が腕を組んで仁王立ちになった。


「さて! 何を作るかだが……雨上がりで少し肌寒いし、みんなでワイワイつつける『鍋』が良いな! わしは『石狩鍋』が食いたいぞ!」


持子の鶴の一声で、メニューは石狩鍋に決定した。

実は、事前に本多鮎が用意してくれた一週間分の備蓄食料の中には、「持子様の栄養補給のために」と、北海道産の立派な鮭や野菜、果ては瓶詰めのイクラまで、豪華な食材が大量に仕込まれていたのだ。


「石狩鍋ですか。いいですね、体が温まりそうです」


プライドが高く、何事も完璧な型を好む高橋玲央が、エプロンの紐をキュッと結び直しながら言った。


「じゃあ持子先輩、さっそく指示をお願いします。完璧なレシピを教えてください」


玲央のキラキラした瞳に対し、持子は堂々と胸を張り、自信満々に言い放った。


「……知らん!」


「「「…………はい?」」」


台所の時が止まった。


「いや、知らんものは知らん! わしは食べる専門だからな! 料理など、前世でも今世でもまともにしたことがないわ!」


「い、威張っていうことじゃないですよ!? レシピなしでどうやって作るんですか!」


玲央がパニックになる。彼女は「教科書通りの型」がないと動けないタイプなのだ。


「……持子先輩、使えないですね」


紗良が、極寒のシベリアのような冷たい視線と毒舌を、容赦なく持子に突き刺した。


「なっ……! さ、紗良、貴様言い方というものが……!」


持子が黄金の瞳を泳がせてたじろぐ中、無口で真面目な門蒼真が、スッと静かに手を挙げた。


「……俺、親父が北海道出身だから。一度、家で食べたことがある。うろ覚えだけど、作り方はなんとなくわかる」


「おおっ! さすが門だ! 頼りになるぞ!」


持子がパァッと顔を輝かせる。


「味付けと具材は、わしも記憶しておる! 味噌味で、鮭の切り身、じゃがいも、キャベツ、玉ねぎ、バター! あとは……なんかキノコとか豆腐とか、美味そうなものを手当たり次第にぶち込めば完成だ!」


持子の超アバウトな知識と、門のうろ覚えの記憶。

不安しかない状況だが、料理の得意な門、そして真面目な玲央、器用な凛花、理論派の紗良が揃っていれば、なんとかなるだろう。

唯一の不安要素は、持子と、料理スキルゼロのお調子者・佐藤陽翔の二人であった。


***


「よーし! 俺も男を見せるっすよ! 料理男子はモテるって言うしな!」


陽翔は意気揚々とピーラーを手に取り、じゃがいもの皮むきに取り掛かった。

しかし、持ち前の不器用さが災いし、皮どころか実の半分以上を削り落としてしまうという大惨事を引き起こしていた。


シュバッ! シュバッ!


「ほらどうだ! この高速の皮むき……って、あれ? じゃがいもがピンポン玉みたいに小さくなっちまったぞ?」


「……佐藤くん」


背後から、地を這うような低い声がした。

振り返ると、そこには包丁を握りしめた南原紗良が、般若のような恐ろしい顔で立っていた。


「ひえっ!? さ、紗良ちゃん……?」


「……汚いです。切り口もガタガタ、皮は飛び散り、何より食材に対する敬意が全く感じられません。不器用を通り越して、もはや犯罪的です」


「えええ!? 犯罪!?」


紗良の毒舌の機関銃が、陽翔を無慈悲に蜂の巣にしていく。


「だいたい、佐藤くんはいつもヘラヘラしていて、真剣さが足りないんです。合気の稽古もサボるし、料理も適当。あなたの存在自体が、この神聖な台所のノイズになっています。ちょっとそこどいてください」


グサッ! グサグサッ!!


紗良の容赦ない言葉の刃に、陽翔は心の中で血の涙を流した。


(お、俺なりに一生懸命やってるのに……! なんなんだよ! なんで俺、紗良ちゃんにこんなにボロクソに言われなきゃいけないんだ!? 何!? 俺、前世で南原紗良の両親でも殺したの!? それとも村でも焼いたの!? なんでそんなに俺のこと嫌いなんだよぉぉっ!!)


悲痛な心の叫びを上げながら、陽翔は泣きそうになりながら玉ねぎの皮を剥き始めた。

しかし、その様子を少し離れたところから見ていた女子三人(玲央、凛花、持子)の脳内には、全く同じ『ツッコミ』がシンクロしていた。


(((お前のことが好きなんだよ!!!)))


温泉での「佐藤くんがかわいい」発言を思い出し、玲央と凛花は生温かい目線を送る。

好きな男子を前にして素直になれず、ついキツく当たってしまう不器用な紗良。そして、それに全く気づかない鈍感な陽翔。

持子に至っては、黄金の瞳を細めてニヤニヤしながら、心の中でさらにツッコミを重ねていた。


(ふはは、佐藤の阿呆め、全く気づいておらんわ。だが……南原、お前も悪いぞ! いくらなんでも好意の裏返しにしては、言葉の殺傷能力が高すぎるわ! 不器用にも程がある!)


当の紗良はというと、口では「邪魔です」「使えませんね」と文句を言いながらも、陽翔の隣にピタリと陣取り、彼が落としたじゃがいもの欠片を器用にリカバリーしながら、なんだかんだと楽しそうに(耳の先をほんのり赤くして)調理を進めているのだった。


***


一方、メインの調理台。


「……ここは、大根を銀杏切りに。鮭は、霜降りにして臭みを抜く」


トントントントンッ……。

門蒼真が、丸太のような太い腕から繰り出すとは思えないほど、繊細でリズミカルな包丁さばきを見せていた。無口で真面目、そして一切の無駄がないその動きは、まるで熟練の板前のようである。


「す、すごいです門くん……! 完璧な型です! 私もその『銀杏切り』という技を教えてください!」


完璧主義の玲央が、目を輝かせて門の横に並ぶ。


「……ああ。まず縦に十字に切り込みを入れて、端から一定の幅で切る。やってみろ」


「はいっ! ……くっ、一定の幅に切るのが難しい……!」


「……力を抜け。包丁の重みだけで切るんだ。合気と同じだ」


「なるほど……!」


不器用で高倉健のような雰囲気を持つ門と、真面目に教えを請う美少女の玲央。二人の周りには、まるでお料理教室のような、穏やかで真剣な空気が流れていた。

そして、持子を狂信的に崇拝する阿部凛花はというと。


「門くん、お鍋のお水、沸騰しましたよ! お味噌溶きますね!」


「……頼む」


持ち前の異常な身体の柔らかさを活かし、凛花は台所を軽やかに舞うように動き回り、門の手伝いをテキパキとこなしていた。

しかし、彼女の視線の先は、常に「あの人」に向けられていた。


「持子先輩っ! 鮭の塩加減、これでどうですか!?」


「む? どれどれ……」


持子はというと、腕を組んでふんぞり返り、完全なる「味見係(つまみ食い)」のポジションを確立していた。


パクリ。


「うむ! なまら美味い! 凛花、貴様は天才か! わしの下僕シェフとして雇ってやってもいいぞ!」


「きゃあぁっ! 持子先輩に褒められましたぁっ! 私、一生ついていきますぅっ!」


凛花がボフン! と顔を真っ赤にして身悶えする。


「ふははは! 苦しゅうない! さあ、総監督たるわしからの差し入れだ! 貴様ら、お茶を飲んで一息入れい!」


持子は全く料理を作っていないくせに、どこからか淹れてきた冷たい麦茶をみんなに配り歩き、さも自分が一番働いているかのようなドヤ顔をキメていた。


「……持子先輩、本当に味見とお茶くみしかしてませんね」


紗良がジト目で呟く。


「でも、なんか持子先輩がいると、不思議と活気が出るっていうか……楽しいっすね!」


陽翔が玉ねぎでボロボロ涙を流しながら笑うと、玲央も門も、小さく頷いた。

大雨の鬱憤を晴らすかのような、賑やかで温かい、合宿の夕食作り。

ドタバタと騒がしいながらも、一年生たちと魔王の連携は、見事な化学反応を起こしていた。


***


「完成だぁぁぁーーっ!!」


午後七時。

宿泊棟の広間の大きな座卓の上に、カセットコンロが二つ並べられ、その上に湯気をもうもうと立てる大きな土鍋が二つ、ドカンと置かれた。

千手と森も席につき、全員が揃って食卓を囲む。


「おおーっ! すっごいいい匂い!」


千手が目を輝かせて拍手をする。


「……見事だ。一年生だけで、これだけのものを作るとは」


寡黙な森も、感心したように深く頷いた。


「ふははは! 刮目せよ! これがわしたちの力作だ!」


持子がバサァッ! と土鍋の蓋を同時に開けた。

モワァァァァァッ!!

立ち上る濃厚な味噌とバターの香り。

一つ目の鍋は、門蒼真の記憶を頼りに、玲央や紗良が完璧に再現した「スタンダードな石狩鍋」。

大きな鮭の切り身、ホクホクのじゃがいも、甘みを増したキャベツや玉ねぎが、特製の味噌スープの中で黄金色に輝いている。まさに王道の美しさだ。

そして、二つ目の鍋は。

持子の「美味そうなものを手当たり次第にぶち込めば完成だ!」という暴君の思想が具現化した、「豪華すぎる極・石狩鍋」であった。

ベースは同じ味噌味なのだが、その上には、鮎がこっそり忍ばせていた『瓶詰めの高級イクラ』が、これでもかというほど山盛りにぶっかけられていたのだ。熱いスープの上で、ルビーのように輝くイクラの海。さらに、バターも通常の三倍は投入されている。


「い、イクラが鍋に乗ってる……!? なんという背徳的で、美しくない……いえ、圧倒的な暴力的な見た目……!」


玲央がゴクリと生唾を飲み込む。


「カロリー計算の限界を突破しています。これはもはや、兵器です」


紗良が眼鏡を押し上げるフリをしながら戦慄する。


「ふはははは! 遠慮はいらん! 食え、食うのだ貴様ら!!」


持子の号令とともに、合気武道部の夕食の宴が始まった。


「いっただっきまーす!!」


全員が、それぞれお椀にたっぷりと石狩鍋をよそい、ハフハフと熱いスープを口に運ぶ。


「――っっっ!!? なまら美味いッ!!」


真っ先に声を上げたのは、やはり持子であった。


「この濃厚な味噌のコク! 溶け出したバターのまろやかさ! そして鮭の脂と野菜の甘みが、口の中で完璧な円の理(合気)を生み出しておる! イクラのプチプチとした食感と塩気が、さらに脳髄を刺激するわぁぁっ!!」


持子は董卓の暴食パワーを全開にし、熱さも気にせずズズズッ! と猛烈な勢いで鍋を貪り食う。


「……うん、美味い。親父が作ってくれた味に近い」


門が、ホクホクのじゃがいもを頬張りながら、少しだけ嬉しそうに目を細めた。


「本当ですね! 門くんの包丁さばきのおかげで、野菜の切り口から味がしっかり染み込んでいます! これは完璧な型です!」


玲央も、上品さを保ちながらも、箸を止めることなく鮭を口に運ぶ。


「あはは、陽翔くんが切ったガタガタの玉ねぎも、意外と味が染みてて美味しいよ!」


千手が笑いながら言うと、陽翔は「やったぁっ! 紗良ちゃん、俺の玉ねぎ褒められましたよ!」と無邪気に喜んだ。


「……たまたまです。次はもっと綺麗に剥いてください」


紗良はぷいっとそっぽを向いたが、彼女のお椀には、陽翔が不器用に切った玉ねぎがちゃっかりと多めに入っていた。


「持子先輩、お茶のおかわり淹れますね!」


「うむ、大儀である凛花! よし、次はうどんを投入するぞ!」


「おおーっ! 最高っすね!」


ザァァァァァ……。

外は再び、静かな夜の雨が降り始めていた。

しかし、氷川神社の宿泊棟の中は、熱い鍋の湯気と、部員たちの絶えない笑い声で満たされていた。

前世で孤独な暴君として破滅し、今世でも孤独な幼少期を過ごした持子。

彼女の黄金の瞳には、湯気の向こうで美味しそうに鍋をつつく、家族のような仲間たちの笑顔が映っていた。


(……悪くない)


持子は、イクラがたっぷり乗った鮭を口に運びながら、密かにそう思った。

誰かから奪った食事ではない。仲間と共に作り、共に笑い合いながら食べる、温かい食事。


(これほど美味い飯は、天下の覇王であった頃のわしでも、食ったことがないな)


「持子先輩! 独り占めしないで、お肉も食べてくださいよ!」


陽翔がお玉を差し出してくる。


「阿呆! わしは魔王だぞ! この鍋の美味いところは、すべてわしのモノだ! ふはははは!」


合気武道部の、波乱に満ちた合宿四日目の夜。

雨上がりの冷たい空気を吹き飛ばすように、持子とひよっこ達の賑やかな宴は、鍋が完全に空っぽになるまで、いつまでもいつまでも続くのだった。


***


食後広間にて。


「よし、全員うつ伏せになれ。わしの魔法のマッサージの時間だ」


持子の号令で、一年生だけでなく、千手と森も畳の上に寝転がった。

持子は、自身の極黒の魔力の邪念を完全に封印し、純粋な「肉体の回復」のみに変換して、一人一人の背中に掌を当てていく。


ポワァン……。


「んんぅ……気持ちいい……」


「持子先輩の手、本当に魔法みたいです……筋肉の繊維が、繋がっていくのが分かる……」


指先から放たれる温かな魔力が、部員たちの疲労を根こそぎ奪い去っていく。

しかし、七人全員に回復の魔力を『与える』行為は、持子の魂と肉体を激しく消耗させた。


(ふぅ……さすがに、全員分はなまら疲れるな……)


持子は額に滲んだ汗を拭いながら、スヤスヤと眠りに落ちた部員たちの寝顔を見て、小さく息を吐いた。



***


深夜。午前二時。

宿泊棟が完全な静寂に包まれた頃、持子はそっと起き上がり、一人深い森へと向かった。

目指すは、昨日も訪れた氷川神社の奥にある滝である。


(……魔力が、空っぽだ。だが、この疲労感、悪くない)


ザアァァァァァァッ!!

月明かりに照らされた滝壺に、衣服を脱ぎ捨てた持子が静かに足を踏み入れる。


「つぅぅぅっ……!」


凍てつくような激流が、魔力を失った体を容赦なく打ち据える。

しかし、持子は慌てなかった。滝の真下で合掌し、己の丹田の奥底へと意識を沈め込んでいく。

他者から『奪う』ことで絶大な力を振るってきた、暴食の魔王・董卓としての魂。

しかし、昨日、そして今日。部員たちに己の力を『与え』、彼らを癒したことで、持子の内側に全く新しい質の力が芽生え始めていた。


(来い……。わしの中から湧き出る、慈しみの光よ)


持子は、皆の安らかな寝顔を思い出しながら、体内に残る僅かな極黒の魔力を圧縮した。

すると、どうだろう。

今日は、昨日よりもずっと早く、そして明確に、その変化が起きた。


バチッ……! ポワァン……!

持子の胸の中心から、淡い純白の光の粒子が溢れ出し始めた。

それは昨日見たような儚い種火ではなく、もう少し大きく、確かな熱を持った光の塊だった。


「おお……」


持子が目を見開く。

光の粒子は持子の体を優しく包み込み、彼女の魂にこびりついていた「奪う業」の穢れを、シュワシュワと浄化していく。

冷たかった滝の水が、たちまち柔らかな温泉のように温かく感じられた。全員を癒して極限まで疲労していたはずの体が、内側から湧き上がる全く新しいエネルギーによって、ジワリジワリと満たされていく。


(見える……! 昨日よりも、はっきりと光の魔力が見えるぞ! そして、感じる……!)


持子は滝の中で、その温かな光を両手で掬い上げるように見つめた。

後輩である風間楓が以前作り出した、天を衝き、絶対的な隔離結界を張るような強大で神々しい「光の柱」には、まだ到底及ばない。

今の持子の光は、暗闇をほんの少し照らすランタン程度の、ささやかなものだ。

だが、確かに進歩している。

他者を癒し、与えることで自身が疲弊すればするほど、その空っぽになった器に、この新しい光の力が流れ込んでくるのだと、持子は確信した。


「ふは、ふはははは!」


持子の高笑いが、水音に混じって夜の森に響き渡る。


「面白い! 実になまら面白い! 董卓として奪い尽くした前世では、絶対に見えなかった景色だ!」


滝から上がった持子は、濡れた髪をかき上げ、雲の切れ間から覗く月を見上げた。

その横顔は、極黒の魔王の禍々しさよりも、どこか清らかで、気高い武道家としての美しさに満ちていた。


「待っておれよ、ひよっこ共。そして、千手、森。この合宿が終わる頃には、わしはさらなる高みへと至ってみせる。貴様らも、死ぬ気でついてこいよ」


持子は、胸の奥に灯った確かな光の温もりを感じながら、足取り軽く宿泊棟へと戻っていった。

合気武道部の熱い夏合宿。折り返し地点を迎え、魔王とひよっこ達の絆は、より一層深く、そして強固なものへと鍛え上げられていくのだった。


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