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『ポンコツ主将と魔王の合宿計画』

少し時間を巻き戻して


季節は夏。照りつける太陽がアスファルトをじりじりと焼く、夏休み直前の私立聖ミカエル学園。

合気武道部の部室には、今年から同好会から部に昇格し、念願の部費を手にした3年生3人の姿があった。


「ごめん持子ぉ! 校内の合宿所、もう全部日程が埋まってて取れなかった!」


小柄で童顔、しかし技のスピードは最速を誇る主将の千手美貴が、両手を合わせて平謝りする。


「な、なんだと!? 貴様ら、主将と副主将であろう! なぜもっと早く動かんのだ!」


絶世の美貌と黄金の瞳を持つ魔王にして、部内最強の技術を持つ恋問持子が、腕を組んで声を荒らげた。

その凄まじい威圧感に、長身で細身のマッチョである副主将の森盛夫が冷や汗を流しながら言い訳をする。


「いや、あの……今年から部に昇格して部費が下りたから、校内で合宿できるって油断してて……」


「ふははは! なまらポンコツではないか! 貴様ら、合気武道の技はあんなに凄いというのに、事務能力はスライム以下だな!」


持子は呆れ果ててため息をついた。


「うぅ……だって、去年までは全部、卒業した岩田先輩がやってくれてたんだもん……」


「そうそう! 去年は岩田先輩が、千葉にある親戚の海岸の土地を貸してもらって、テント張ってキャンプして、砂浜で1週間も稽古したんだよな。準備から何から全部岩田先輩がやってくれたから、俺たち合宿のやり方なんて全然分からないんだよ!」


「ええい、岩田が凄すぎたから悪いと言い張る気か! ったく、世話の焼ける奴らだ!」


持子はふんぞり返りながらも、頭をフル回転させた。中身は三国志の暴君・董卓の魂を持つ彼女だが、仲間を見捨てるような真似はしない。


(そうだ。以前、わしが後輩の楓の修行で禊を行った、あの氷川神社の土地があるではないか!)


持子はさっそく、学園の廊下で風間楓を捕まえた。

楓は氷川神社の巫女であり、聖ミカエル学園一般科の2年生。漆黒の長髪を揺らし、氷のように冷徹で凛とした美貌を持つ彼女は、TIAの特級エージェントでもある。


「というわけなのだ、楓! 合気武道部の夏合宿のために、あの神社の土地を使わせてもらえんか?」


「……はぁ。先輩のところの部活は、計画性というものがないんですか?」


「わしのせいではない! 千手と森がポンコツなのだ! 頼む、この通りだ!」


楓は小さくため息をつきながらも、持子に甘いところがあるため、快く承諾した。


「……分かりました。いいですよ。神社の土地に温泉もあるので、好きに使って構いません。禊場からは少し離れていますが、板の間の道場もあるので使っていいです」


「おお! なまら助かるぞ、楓! さすがわしの可愛い後輩だ!」


「ただし、ここ数年使っていないので、使うなら自分たちで掃除するようにしてください。それと、道場は板の間なので、強い投げとかは怪我をしますから十分に注意すること」


「分かっておる! 合気の受け身は完璧に叩き込んでおるからな!」


楓はスッと目を細め、冷徹な視線を持子に向けた。


「それから……あそこは東京の端にある極秘で神聖な土地ですから、絶対に悪さはしないように。特に、先輩、いかがわしい事はしないでくださいね?」


「なっ!? わしがいついかがわしい事をしたというのだ! いかがわしいことをするのは、付き合っておる千手と森の方だわ! あやつら、また房中術の教えを請いに来たらどうしてくれる!」


「……知りませんよ、そんなこと。とにかく、電車で近くの駅まで行って、そこから歩いて1時間ほどかかりますけど、大丈夫ですか?」


「ふはは! 大丈夫だ! 1時間の行軍など、合気武道の稽古に比べれば朝飯前よ!」


持子は自信満々に胸を張った。


***


しかし、持子は内心激しく焦っていた。


(……よく考えたら、部員9名分の寝具や調理器具、1週間分の食料を抱えて1時間も山道を歩くなど、物理的に不可能ではないか! しかもあそこは電気が通っておらん!)


持子はすぐさまスマートフォンを取り出し、ある人物に連絡を入れた。

『株式会社スノー』に所属するインテリタレントであり、持子の「第一下僕」を自称する元トップモデル、本多鮎である。


『はいっ! ご主人様! 鮎です! 何かご命令でしょうか!?』


「おう鮎! 実はかくかくしかじかでな。車を出して、物資を運んでほしいのだ」


『お任せくださいませ! ご主人様のためなら、火の中水の中、どこへでも馳せ参じますわ!』


数日後。合宿前日の準備日。

東京の端にある氷川神社の秘境。道なき道のような林道を、鮮やかな赤いマツダのCX-5が土煙を上げて進んでくる。

キキィッ! と豪快に車を停め、運転席から降りてきたのは、ピンク色の髪を揺らす本多鮎だった。


「ご主人様〜! お待たせいたしましたわ!」


「おお、鮎! 助かったぞ! さすがわしの忠犬だ!」


鮎は車のトランクと後部座席を開け放った。そこには、持子が事前にリストアップしていた物資が完璧に揃えられていた。


「ご指示通り、大容量のJackeryジャクリポータブル電源と、充電用のソーラーパネルをお持ちしましたわ! これで電気がなくても安心です! さらに、ポータブル冷蔵庫、常温でも保存可能なレトルト食品や食材を1週間分、調理器具やLEDランプなど、完璧に揃えております!」


「ふははは! 素晴らしい! これなら電気のない山奥でも、文明の利器を使って快適な合宿ができるというものだ!」


「さらに、野生動物に食料を荒らされないよう、頑丈なコンテナボックスと防臭袋も用意してありますわ。これで熊やイノシシ対策もバッチリです!」


「なまら有能ではないか! よくやった、鮎!」


持子はご機嫌で、鮎のピンク色の頭をガシガシと撫で回した。


「あぁっ……! ご主人様の、力強くて大きなお手が私の頭を……っ! 最高ですわ、もっと、もっと撫でてくださいませぇっ!」


鮎は目を潤ませ、恍惚とした表情でハァハァと荒い息を吐き始めた。インテリタレントとしてのプライドはどこへやら、完全に発情したマゾヒストの顔である。


***


二人で協力して、重いポータブル電源や大量の食料を道場や宿泊棟へ運び込む。夏の厳しい日差しの下、草刈りや埃まみれの道場の掃除もこなしたため、二人はすっかり汗だくになっていた。


「ふぅ……暑い! 汗でベタベタだ! そうだ、楓が言っておった温泉に行こうではないか!」


「温泉! はいっ、ご主人様のお背中は、この私が隅々までお流しいたしますわ!」


神社の敷地の奥、木々に囲まれた場所に、大きめの露天風呂が一つ、岩で作られたシンプルな姿で佇んでいた。

持子は服を脱ぎ捨て、絶世のプロポーションを露わにして岩風呂に近づいた。


「おお! 秘湯という感じでなまら良い雰囲気ではないか! さっそく入るぞ……アツッ!!」


持子が足を入れた瞬間、ビリビリとした熱湯の刺激が走った。


「なんだこの温度は! 人間を茹でダコにする気か!」


「お待ちくださいご主人様! 楓さんから聞いてます! 近くを流れる川から水を引いて温度を調節する仕組みになっているそうです!」


鮎が岩風呂の脇にある大きめの石をどかすと、ザーッと冷たい川の水が勢いよく湯船に流れ込み始めた。


***


秘湯の契り――魔王の寵愛と忠犬の悦楽


岩風呂の温度は、冷たい川の水を引いたことで、肌を心地よく刺すような適温へと変わっていた。

立ち込める湯気の向こう、持子は岩に背を預け、湯船にその肢体を沈めた。湯面に浮かぶ白磁の肩、そして黄金の瞳が湿り気を帯びて妖しく光る。


「……鮎。そこへ直れ」


持子の声は、日中の尊大な響きに、どこか低く、ねっとりとした温度を孕んでいた。

その瞳の奥では、三国志の暴君・董卓が目を覚ましている。絶世の美女の皮を被りながら、その魂はかつて後宮を支配し、己の欲望のままに花々を摘み取ったオッサンのそれであった。


「はっ……はい、ご主人様……っ」


鮎は、のぼせたのか、あるいは別の熱に浮かされたのか、顔を真っ赤に染めて持子の目の前に膝をついた。

豊かな胸が激しく上下し、お湯から露出したピンク色の髪が、汗と水滴で首筋に張り付いている。


「今日は実によく働いた。わしはな、忠実な犬にはたっぷりと褒美をやる主義なのだ」


持子は不敵に口角を上げると、濡れた右手を伸ばし、鮎の顎を強引にクイと持ち上げた。

抵抗を許さない、絶対的な捕食者の手つき。


「あ、あぁ……ご主人様、そんな……目が、怖いですわ……でも、堪りません……っ!」


鮎の瞳がトロンと溶け、熱い期待に潤む。

持子はそのまま、自身の顔を鮎の唇へと近づけた。


「……ん」


不意に、二人の唇が重なった。

それはソフトな挨拶などではない。持子(董卓)の強引な舌が、鮎の防壁をあっさりとこじ開け、口内の隅々までを蹂躙し、支配するような濃厚な接吻。

鮎の脳内で、理性がパチンと弾け飛ぶ音がした。


「ふ、んんぅっ……! ん、はぁ……っ!」


鼻を鳴らし、鮎は持子の逞しい腕にしがみついた。持子の魔力が、接吻を通じて鮎の体内へと流れ込み、彼女の生気を激しく掻き乱す。


「ふはは……どうだ? これがわしが漢の宮廷で培った、女を蕩けさせる寵愛の味だ」


唇を離した持子は、銀の糸を引く鮎の口元を親指でなぞり、そのまま彼女の耳元で低く囁いた。


「鮎……貴様はわしの下僕であり、わしの所有物だ。その瑞々しい体も、狂った魂も、すべてわしが喰らい尽くしてやろうぞ」


「あぁっ……! 召し上がってください、ご主人様……! 骨の髄まで、私を、私を、あなたの色で汚してくださいまし……!」


鮎は持子の首に腕を回し、お湯の中でその身をぴったりと密着させた。

持子の大きな手が、鮎の濡れた背中を、そして弾力のある腰を、力強く、時に執拗に愛撫する。

温泉の熱気と、二人の吐息。

董卓としての飽くなき欲望が、持子の美しい指先を通じて、鮎という「獲物」を徹底的に攻略していく。


「あ、あぁんっ! そこ……そこはダメですわっ、持子様ぁ……っ!」


「ふはは! 口ではそう言いながら、わしの指を求めておるではないか。正直な奴め」


持子の黄金の瞳が、獲物を仕留めた愉悦に細められた。

水面を激しく揺らす、主従の秘め事。

静寂な森に囲まれた露天風呂は、いつしか外界から切り離された、二人だけの淫靡な桃源郷へと変わっていた。


「……はぁ、はぁ。ご主人様、もう、立てませんわ……」


しばらくの後、鮎は持子の膝に頭を乗せ、力なく横たわっていた。

その肌は、さっきまでの「愛の熱」でピンク色よりもさらに赤く染まり、瞳は完全に虚空を見つめている。


「ふはは! 案外に早かったな。だが、なまら良い声であったぞ、鮎」


持子は満足げに、鮎の濡れた髪を優しく、そして支配的に撫でた。

この後、鮎はフラフラになりながらも「最高の思い出ですわ……」と呟き、鮎は深々と一礼すると、赤いCX-5に乗り込み、名残惜しそうに何度も手を振りながら、林道を下っていった。

一人残された持子は、静寂に包まれた氷川神社の秘境を見渡した。


「さて……明日からはいよいよ、千手、森、そして1年生のひよっこ共を鍛え上げる地獄の夏合宿だ! わしの合気武道で、たっぷりと可愛がってやろうではないか! ふはははは!」


極黒の魔王の高笑いが、夏の夕暮れの空に吸い込まれていった。

合気武道部の、波乱と筋肉と汗にまみれた夏合宿が、今まさに幕を開けようとしていた。


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