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『夜の王、蹂躙開始』

【王の帰還、極黒の蹂躙劇】


パリ郊外。かつて貴族が狩猟の拠点として使っていた、鬱蒼と茂る森の奥深くにある廃城。

現在そこは、ドイツ方面から南下してきた吸血鬼の永遠の天敵・人狼の武闘派クラン『黒いシュヴァルツヴァルト巨大狼鬼ルー・ガルー』の前線基地と化していた。

月が分厚い雲に隠れた、完全なる闇夜。

廃城の大広間では、数百に及ぶ巨大な人狼たちが、血の滴る生肉を貪りながら下品な宴を催していた。


「ガハハハッ! パリの地下も随分と脆くなったもんだ! 今夜あたり、リュクス・アンペリアルの本拠地に乗り込んで、リジュの女帝の首を掻き切ってやるぜ!」


「吸血鬼の『夜の王』が不在となれば、奴らなどただの貧弱なコウモリの群れだ! 噂によれば、エティエンヌの奴は極東の島国で『女』に成り下がったらしいからな!」


「ヒャハハハ! ならば俺たちの慰み者にして、犬の孕み袋にしてやるよ!」


下劣な嘲笑と遠吠えが広間に響き渡った、まさにその時であった。


ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!

分厚い鋼鉄の城門が、まるで紙切れのように内側へと吹き飛んだ。


「なっ!? なんだ!?」


「敵襲か!?」


土煙と粉塵が舞う中。

コツン、コツンと、優雅なヒールの足音が響く。

現れたのは、プラチナブロンドの長い髪を揺らし、185センチの黄金比のプロポーションを誇る、絶世の美女。

真紅のドレスに身を包んだ真祖の吸血鬼、エティエンヌ・ド・ロシュフォール=ノクティスであった。その後ろには、洗練されたスーツ姿の吸血鬼の部下たちが数名、影のように静かに控えている。


「……ごきげんよう、犬畜生ども。あなたたちの無様で下品な遠吠え、パリの地下まで届いていましてよ」

エティエンヌの血のように赤い真紅の瞳が、広間の人狼たちを冷徹に見下した。


「エ、エティエンヌ……!? 貴様、本当に女の姿に……!」


「チッ、ノコノコと帰ってきやがったか! 女の細腕で俺たちワーウルフの群れに勝てると思っているのか!」


人狼たちが一斉に牙を剥き出しにし、筋骨隆々の獣の姿へと変貌する。その数、およそ三百。

しかし、エティエンヌは微塵も動じることなく、扇情的に唇を舐めた。


「……持子様以外の雄が、この私に下劣な言葉を吐くなど。万死に値しますわね」


次の瞬間。

ブワァァァァァァァァァァッ!!!!

エティエンヌの身体から、ヨーロッパの闇の住人たちがかつて見たこともない、次元の違う魔力の嵐が爆発的に噴き出した。

真祖としての『真紅の魔力』。

絶対の主・恋問持子から直接注ぎ込まれた、暴君の覇気たる圧倒的な『極黒の魔力』。

さらには、持子の魂の奥底にあった『ほんの少しの神聖な光の魔力』までもが混ざり合い、漆黒と真紅と黄金のオーラとなって、廃城の空間そのものを軋ませた。


「な、なんだこの禍々しい重圧は……ッ!?」


「ひぃっ!? 息が……息ができない……ッ!」


吸血鬼の天敵であり、優れた魔力耐性を持つはずの人狼たちが、その場に叩き伏せられるほどの超重力。


「アハハハハハハッ!! さあ、持子様の御名にかけて、塵一つ残さずすり潰して差し上げますわ!」


エティエンヌが美しい指先を軽く振るった。

ズバァァァァァァァァァッ!!!

放たれた極黒の魔力の刃が、空間ごと人狼の群れを薙ぎ払う。


「ギャアアアアアアアアッ!?」


「腕がっ! 俺の腕がぁぁっ!!」


圧倒的な身体能力と再生力を誇るはずの『ルー・ガルー』の肉体が、豆腐のように両断され、極黒の呪詛によって再生を完全に封じられていく。

血飛沫が舞い、絶叫が響き渡る。

エティエンヌは、まるで優雅なワルツを踊るかのように、人狼の群れの中を舞いながら虐殺を繰り広げた。

ズドォォォォン! メキッ! ギュルルルルッ!

首が飛び、胴体が弾け、内臓がぶちまけられる。それは戦闘などという生易しいものではない。一方的で、残虐極まりない『蹂躙』であった。


「ひぃぃぃっ! ば、化け物だ! 逃げろ、逃げ――!」


恐怖に駆られ、広間の窓から逃げ出そうとした人狼の背後に、影がスッと寄り添った。


「エティエンヌ様の御手を煩わせるな。ゴミは我々が片付ける」


シュガァッ!

冷酷な声と共に、エティエンヌの部下が銀の刃で逃亡者の首を的確に刎ね飛ばす。殺し損ねた敵、戦意を喪失した敵のトドメは、優秀な部下たちが一切の慈悲なく冷酷に処理していった。

伝説の巨獣との激闘


「……チィィィィッ!! 調子に乗るなよ、吸血鬼ィィィッ!!」


突如、廃城の奥から地盤を揺るがすような咆哮が轟いた。

広間の壁をぶち破って現れたのは、通常の人狼の三倍はあろうかという、異形にして巨大な獣。

フランス史に残る伝説の人喰い獣の血を引く突然変異体――『ジェヴォーダンの獣の末裔』である。


「おお……ボス! 奴を殺してください!」


生き残った数匹の人狼が歓喜の声を上げる。

ジェヴォーダンの巨獣は、血走った眼でエティエンヌを睨みつけると、大砲のような勢いで突進してきた。通常の武器や魔法を完全に弾き返す、呪われた硬い毛皮と、桁違いの質量。


ガアアアアアアアアッ!!!

ズドォォォォォォォォォォンッ!!!

巨獣の太い腕がエティエンヌを捉え、彼女の身体を大広間の石壁の奥深くへと叩き込んだ。

瓦礫が崩れ落ち、もうもうと土煙が上がる。


「……エティエンヌ様っ!」


部下たちが一瞬、息を呑んだ。いくら真祖とはいえ、あの巨獣の直撃を受ければただでは済まない。

しかし。


「……あ、あぁんっ……♡」


崩れ落ちた瓦礫の奥から聞こえてきたのは、悲鳴ではなく、甘く熱っぽい、極上の恍惚に満ちた艶やかな吐息だった。


「……はぁっ。なかなか、良い一撃ですわ……っ。骨が数本、綺麗に砕けましたわね」


ガラガラと瓦礫を押し除け、エティエンヌがゆっくりと立ち上がる。その顔には、苦痛など微塵もない。むしろ、頬をサクラ色に紅潮させ、よだれを垂らさんばかりにだらしなく笑っていた。


「でも……持子様の、あの魂が粉砕されるような理不尽な鉄拳によるお仕置きに比べれば……まるで、春のそよ風のようですわねぇっ!!」


究極のドMであるエティエンヌにとって、この程度の痛みは快楽へのスパイスであり、愛する主の強さを再認識するための比較対象に過ぎない。

彼女の身体を覆う真紅の魔力が輝き、砕けた骨が数秒で完全に修復される。


「さて。少し痛い思いをさせられたのです。……たっぷりとお返しをしなければ、持子様の愛の下僕としての名折れですわね」


ヒュンッ!

エティエンヌの姿が、巨獣の視界からブレて消えた。


「ガウッ!?」


巨獣が背後に気配を感じて振り向くよりも早く。


「遅いですわ」


巨獣の頭上に舞い上がったエティエンヌが、両手に『極黒の魔力』を限界まで圧縮させた。相反する二つの力が反発し合い、莫大な破壊エネルギーを生み出す。


「消し飛びなさい――『極黒・ノクティス・パニッシュメント』!!」


ズドォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!


エティエンヌの両手から放たれた極太の破壊光線が、ジェヴォーダンの巨獣の背中に直撃した。

いかなる魔法も弾くはずの伝説の毛皮が、極黒の覇気と光の魔力の複合属性の前に悲鳴を上げ、ジュワァァァァッと焼け焦げていく。


「ギャガアアアアアアアアアッ!?」


床がクレーター状に陥没し、巨獣はその凄まじい超重圧と激痛に耐えきれず、ついに四つん這いになって地に伏した。


「ハァッ……ハァッ……」


巨獣は口から大量の血を吐き、全身の骨を砕かれ、もはや指一本動かすことすらできない状態にまで追い詰められていた。

時間はかかったが、エティエンヌの完全なる勝利である。

慈悲と王の帰還


「……ふふっ。見た目ほどではありませんでしたわね」


エティエンヌは優雅に巨獣の鼻先へと歩み寄り、冷たい真紅の瞳で見下ろした。

部下の一人が、スッと銀の剣を構えて進み出る。


「エティエンヌ様。この獣の首、私が刎ねましょう」


いつもの冷酷な『夜の王』であれば、間違いなく「ええ、やりなさい」と命じ、その心臓をえぐり出していただろう。

しかし、エティエンヌはスッと右手を挙げて部下を制止した。


「……いいえ。待ちなさい」


エティエンヌの脳裏に、自身の絶対の主である恋問持子の姿が浮かんだ。

敵であった自分を殺さず、すべてを包み込み、そして愛という名の絶対的な支配で屈服させた、あの底知れぬ器の大きさ。


(持子様ならば……ここで無駄な殺生などせず、暴君としての圧倒的な器を示されるのでしょうね)


エティエンヌはふっと優しく、それでいて底冷えするような笑みを浮かべ、地に伏して震える巨獣の耳元で囁いた。


「特別に情けをかけて差し上げますわ。……選ぶが良いですわ、愚かな獣よ」


「グルル……ッ」


「私に『屈服』し、この靴の裏を舐めて永遠に這いつくばるか。

 この場で誇り高く『死』を選ぶか。

 それとも……尻尾を巻いて『逃走』するか」


突きつけられた、残酷な三択。

巨獣は本能で理解していた。目の前の怪物は、自分など足元にも及ばない絶対的な存在であり、自分を生かすも殺すも自由自在なのだと。

死の恐怖。そして、生き延びたいという生物としての根源的な本能。


「……キャンッ!」


伝説の人喰い獣の末裔は、ひどく情けない子犬のような悲鳴を上げると、這うようにして身をよじり、崩れた城壁の隙間から、暗い森の奥へと必死に逃げ出していった。

二度と、パリの裏社会に牙を剥くことなどないだろう。その魂には、真祖への絶対的な恐怖が永遠に刻み込まれたのだから。


「……逃げましたね。よろしいのですか、エティエンヌ様」


「ええ。アレはもう、戦意を完全に喪失していますわ。……それに、あの逃げ出した獣が、他の愚物どもに触れ回ってくれるでしょう?」


エティエンヌは、月明かりの差し込む廃城の大広間で、長いプラチナブロンドの髪を優雅に掻き上げた。

その背中で、持子から与えられた極黒の魔力が、王の威光を示すように揺らめいている。

「『夜の王が、以前よりも遥かに強大な化物となって帰還した』とね」


「……御意」


部下たちが、エティエンヌの底知れぬカリスマと狂気に完全に当てられ、深く、恭しく平伏する。

王の帰還。

ヨーロッパ全土の裏社会を震え上がらせる、極東の魔王の威光を背負った真祖の無双劇は、こうして最も派手で残酷な形で幕を開けたのであった――。


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