90 僕の方が強い
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エデルがA班bへの指導方法を指導員と共有し、指導員にあとは任せ、A班aがいるところに戻ってきた。
「待たせたな。それではこれからA班aの指導方法を説明する。この班は、剣術指導では教師たちから教えることはない。もうだいぶ剣術が確立されているからだ」
「では、どうするかというと、今日は軽く打ち合いをする。明日以降は、実践形式を取り入れて、自身の欠点を克服しする。試合をしながら得意不得意を見つけるようなものだ。それと同時に魔法の習得も開始する。A組ではこのA班が剣術大会で一番有力候補ということだな」
ニイっと笑うエデルは、バトンの父というよりも幼く見え、私たちと同じ学生のような感覚になった。
「まずは生徒同士でやってみようか。できれば早くに魔法習得に以降したい。剣術と合わせるとかなり技も増えて楽しみが増えるぞ」
それからフィリティは、ヴァランティーヌと打ち合いをした。
エデルは、軽くと言っていたが果たしてこれは軽くに入るのだろうか。
周りで見ていた男子らもフィリティとヴァランティーヌの打ち合いに互いの手が止まり見入る。
男同士の打ち合いは、むさ苦しく感じるのだが、女子二人の打ち合いは、芸術のようだ。
身のこなしが軽く、柔軟性があり、まるで蝶のように舞い、なかなか軌道を教えてくれない印象のフィリティに対し、狙いを定め、獲物を捕まえようと跳躍力を使い、間合いを詰める姿が猫のようなヴァランティーヌの剣技。
ヴァランティーヌの赤髪が舞う事に華が生まれる。アルドルトとバトンは、フィリティの小麦色の髪を蜜色に変換し、華の蜜を求めて舞うミツバチのようだと惚れ惚れとしていた。
息も切らさず、打ち合っている。
「フィーは、誰も傷つけたくないんでしょうね」
「フィーらしいといえばらしいがな」
女子二人の打ち合いに見入りながら冷静に分析するレジェンにバトンが返答している。
フィリティの剣術は、逃げに近い。受け流して受け流して、だけれど隙を与えない。だからこそ、相手にとっては長期戦で辛い。
ヴァランティーヌは、攻めの一点だ。予想外のところに一撃を打ってくる。今まで対面に振り下ろしていたかと思った矢先、逆手に木剣を持ち替え、自身の背後から打ち込んでくる。
普通ならこの速度でその動きをする気にはなれない。ヴァランティーヌは意外性のある剣術が好みのようだ。これに魔法が加わったらと想像すると面白い戦いになるだろう。
「我々も再開しよう。彼女らに負けられない」
「ああ。俄然やる気になったぜ」
そう言いながら木剣を構えるレジェンとバトン。
こちらの打ち合いも軽くではない。
「皆、初日から真面目だな」
エデルが二組の打ち合いを見ながら言葉を漏らした。
「あなたが適当すぎるんですよ」
アルドルトが言葉を返す。
セリフォスと打ち合いをしていたアルドルトだったが、腹痛を訴えたセリフォスが席を外してしまって、手持ち無沙汰だった。
アルドルトから発せられた一言で二人の空間だけ防音魔法が張られた。姿勢はそのままに、口調だけ崩し、エデルは、返答をする。
「あー、もうバレてんだもんなぁ。つまらんねぇ」
「いやいや、隠す気全くないでしょう?バトンが彼の身の心配をしていましたから後ほど説明してくださいね。あまりにも殺気だっていたんで身近な人とだけ伝えておきましたから」
「はいはい。それで?俺たち今やる?打ち合い」
「んー。遠慮しておきます。僕の方が強いですから」
「なんかムカつくな。その言い方」
「事実です。フィーリにバレないように気を付けてくださいよ。お義兄さま」
「その言い方はここでもやめろ。さすがにバレるだろうが。せっかく優等生のアルを拝める機会だってのに。さてとっ、教師業も頑張りますかね」
* * *
入学式当日、フィリティとバトンが生物室を訪れたそのしばらく後。
生物室に訪れたのは、アルバート・アンジュールだった。
父ジョーカスがアルバートの身の危険を考慮し、たどり着いた結果がバトンの父エデルの協力のもと、魔法でなりすまし、学園へ潜入する方針で固まったのだ。
エデルから“すぐに気づかれる”と言われていたがまさにその通りである。
バトンもアルドルトも手合わせの一手目でエデルではないと見破られ、一時はバトンから殺気まで受ける始末だった。
その後も、かくまうようにしてフィリティを遠ざけるバトンの姿は、兄として嬉しく思った。妹の危険がすでに一度起こってしまった後だから尚更だ。
入学2日目に襲われた事実に、自室で後悔の念に駆られていたのは、アルドルトだけではない。アルバートも己の無力さを思い知り、珍しく声を荒げて感情を爆発させた。
残念ながら、父ほどの剣術の腕も、母ほどの魔法の才もないアルバートは、なんだったら妹を守ってやれるのか…分からなかった。
母ミシェルからは、アルバートの存在自体がフィリティにとって大事なのだと言い聞かされた。
『『心の拠り所』になって欲しい』
母にとっては兄妹に対する何かしら想いがあるのだろう。
『きっとアルドルトには勝てなさそうだけど』
不貞腐れて投げやりに放った言葉は自傷じみたものだった。
『そんなことはないわよっ!お兄ちゃんは無敵なんだからっ』
その自信はどこからくるのか。
凹んでいても敵は今もフィリティを狙ってる。
――母さんの言葉を全て信じる訳じゃない。
ただ…《お兄様っ!》
フィーが俺を呼ぶなら、『心の拠り所』ってやつの一つになってやろうと思うよ。
* * *
「そこまでっ!!」
「今日はここまでだ。初めての転移に初めての剣術授業。皆疲れたはずだ。帰りの転移酔いに注意しながら学園に戻る。ついたら昼だぞ。しっかり食べて体力削られないようになっ!」
エデル先生から今日の実技は終わりだと告げられる。
私も使っていた木剣を先生に返し、帰還のため、隊列を取り始めた方へ合流する。
セリフォスは、あの後戻ってきてから調子が上がり、他の二組よりも激しく打ち合いを見せ、圧倒させた。
アルドルトについて行けるセリフォスは、さすがだ。未来の側近候補の名は伊達ではない。
あの激しい打ち合いにも関わらず息も上がらない姿は、アナスターシャが見たら見直すこと間違いなしとフィリティは思った。
「それでは、今度は後発から帰還する。十一名はこちらへ」
バトンにアナスターシャ、ナタレイシアが他のクラスメイトと一緒に転移用のスペースに移動するのを眺める。
「私は後発と一緒に先に帰還するが先発にはキース先生がつくから安心しなさい」
エデルと目が合いニコッと微笑む。きっと心配しないように配慮してくれたんだろう。先生の気遣いがフィリティは、嬉しかった。
「では…また後ほど」
魔法陣が起動し、眩しいぐらいに光が満ちる。
エデル先生がバトンに話しかけ、目を見開いたかと思ったら消えてしまった。
(バトンは、先生に何にを言われたのかしら)
【55 バトンの父】の話から繋がります。




