↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/309

89 取引





「次!バトン・カイティオ 前へ」


親父に言われて俺は前に出た。

いつものように木剣を構え、合図を待つ。


親父がフッと笑った。


「こい」


オレは、ここ一番の一打を打った。

そして、受け止められる。


が、そこで違和感を覚えた。


(親父?)


この手の一打はよくある。なんせオレは、この一打で親父を挑発したいんだ。

だけど…今日は査定もあるからなのか?いつもと受け取り方が違う。


さらに一打と親父に向かって踏み込む。


「ッ!!!」


(親父じゃないっ!)


親父は、こんなに受け流せない。全力で受け止めて全力で返す。それが親父だ。

親父の仮面をかぶった別人。


それからは無我夢中で打ち込む。


相手からの切り替えしが親父だと思っていたから油断した。立て直す間もなく次が来る。交わしながらどこに打ち込むのが最適なのかを瞬時に思考し、木剣に乗せる。


(親父はどこにいる!?)


(こいつは誰だっ!!)


ふとした時、フィーが浮かぶこの太刀筋…思わず女子の方を見てしまった。

水色の瞳がオレを映してる。


(くそっ)



「はぁ、はぁ、はぁ」


「バトンはA班へ」


「はい」



返事をするがオレは、得体のしれないやつを信用するほど人間が出来ていない。今すぐ胸ぐらをつかんで問い詰めたい。

親父は…無事なんだろうな。





「次!アルール・オルフェッディオ 前へ」


彼が査定をする姿をずーっと眺めていた。

なんとなく、誰かに似ているようで…でも誰だかわからない。

そして、僕はエデル先生とは初対面なはずなんだ。この不思議な感覚はなんだろうか。


「よろしくお願いいたします」


「では、こい」


心の中で一拍したのち先生に向けて踏み出す。

カーーーーンっと空に響く気持ちのいい音が僕の耳に響いたとき、閃いた。


「っ!!!」


「どうした?そんなものか?」


そこで思わず間が空いてしまった。


(そうか、そうだったのかっ)


そういえば、入学してから()()()()会えていなかったな。

思わず楽しくなって、ちょっと本気で間合いを詰めそうになった。


だって、彼は僕より弱い。


(手加減ってどうするんだっけ?)


そんなことを考えていたら、迷いのある剣捌きになってしまった。


ねぇ、これもサプライズなの?ずるくないかなぁ


カンッ


フィーリに気づかれたらどうするんですかねぇ


カカカッ


この後もフィーリと手合わせとかしちゃうんでしょう?


カンカンッカッ


手取り足取りってやつ?僕が許すとでも?


カーンッカカカンッ


この後の魔法指導もなさるんですよね?職権乱用ではないですかっ!!



「そこまでっ!」


「アルール、A班へ」


「……はい」


あとでしっかり話をさせてもらいましょうか。



* * *



 セリフォスは基礎の型に忠実で淡々と査定を受け、A班になった。男子も班分けが終わり、A班が六名、B班が五名になった。

男女合わせると、A班が十名、B班が五名、C班が三名となる。C班は、握り方から指導となるが、B班と一緒に行動する。


各自の実力を調べている間に四名の指導員が転移してきた。各班二名の指導員がつけるようにとの配慮だそうだ。A班は、エデンに連れられてB班C班と距離を取って指導が始まった。


「実力査定の結果から、A班内でもさらに分けることにする。名前を呼ばれたものは前へ。アルール・オルフェッディオ、バトン・カイティオ、レジェン・デオロ、セリフォス・フロンジャート、フィーリ・ミロ―リンデ、ヴァランティーヌ・ゴーリック以上だ」


フィリティは自身の名前が呼ばれ、前に出る。バトンがなぜか手首を取り、背後に隠れるように誘導する。


「えっ?あの、バトン?」


バトンが醸し出す雰囲気がネズミを見つけ、毛並みを逆立てながら威嚇する猫にしか見えない。


《どうしたの?》


聞こうとして口を開いたのだが声に乗せる直前に、掴まれていた手がサラっと離れ、代わりにバトンの隣にいたアルドルトが後手にフィリティと手を繋ぐ。

フィリティの前にバトンとアルドルトが壁を作るように立った。二人ともフィリティよりも身長が高いため、表情はうかがえない。

そのまま、アルドルトがバトンに何かを耳打ちして、ハッとバトンがアルドルトに反応していた。

そこからバトンの雰囲気がガラリと変わる。


(あれ?いつものバトンに戻った?かな)


ヴァランティーヌが後からフィリティの隣に着く。

なんだかニヤニヤしていて、全くこの状況に心当たりがないフィリティは、小首をかしげるしかなかった。


「今呼ばれた六人はいA班aとし、他四人はA班bとする。A班bの者たちが上達するとaと合流すると思ってくれ。先にA班bを指導する。aはそのまま待機」


エデルは、もう一人の指導員と一緒にそのままA班bの四名を連れて、少し離れたところに行ってしまった。アナスターシャとナタレンシアとは、壁になっている二人の横からひょいっと頭を出して、目線で意思の疎通を交わし、アルドルトと繋いでいない方の手で小さく振って別れた。

エデルが遠ざかって行くのをバトンたちは、確認してやっとフィリティは壁から解放される。


「ねぇ…さっきのなんだったの?」


ツンツンとバトンの腕を突きながら、少し膨れたように問う。


「あー…あれは…だな…なんとなくというかぁ」


ハッキリしない口調で頬をポリポリ掻きながら、明後日の方向に視線を向ける。その様子を隣で見ていたアルドルトが肩を揺らし、笑いに耐えている。


「もう!アルもっ!!何、そんなに笑ってるの!?」


「ふふっ、ふぃっ、ふぃーりっ、ははっ、もうっ、笑わせないでっ、ふふっ」


必死に耐えるアルドルトに冷たい視線を向けたが逆効果のようだ。

そんなやり取りをしている足元でセリフォスだけが虫探しに夢中になっていた。夏休みの習慣がまだ抜けきっていないらしい。


「アル、ここ虫いねぇのかな?なぁ?聞いてる?」


「はぁーおかしい。お腹痛い、聞いている聞いている。いるかはわからないよ。こんなところでも虫を探すなんて本当すきだよね。いるかいないかは自分で確かめてみなよ。いい発見があるかもよ」


その言葉にキラキラと瞳を輝かせながら“探してみるよ!”とノリノリになった。


「なんだか楽しそうだな」


「そうだねぇ、なんか仲間に入れない感じがムッとするよね」


二、三歩離れたところで三人のやり取りを眺めていたヴァランティーヌとレジェンが言う。ふと思い出したようにヴァランティーヌがレジェンに向き直り話し出した。


「レジェン、お前の剣術見事だった。是非、私にも教えてほしい」


「ティーヌ譲に?」


「ああ。素晴らしかったからな。あれならフィーリも驚かせられるだろう」


「そう言ってもらえて嬉しいよ。そうだなぁ…では、取引と行きましょうか」


「取引?まぁ相応の対価は必要か…何を望む?」


「そうだなぁ、んー」


わざとらしく、顎に手を置いて、考える素振りを見せたレジェンがポンと手を打ち、ヴァランティーヌを手招きして耳打ちする。


「では、フィーとの二人だけの時間を」


ニヤっと悪戯が思いついた顔をするヴァランティーヌは、二つ返事で了承した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。