70 同室
閲覧ありがとうございます。
あえて、アルドルトをアルールと表記します。読みにくかったらすいません!予めご了承ください。
浴衣パーティも終わり、部屋割りを決めて、就寝のために別れた。
フィリティ、ミシェル、キースの順に個室、アルールとバトンは一番奥の部屋で同室となった。
二人の間には余計な話はない。口数少なく就寝のため部屋の明かりを消した。互いに壁を向くようにして、並んだ敷き布団に横になる。雲が点々としているのか月明かりが差したり陰ったりを繰り返していた。
消灯してから三十分ほど過ぎた頃、薄闇の中バトンが話しかけた。
「なぁ…起きてるか?」
「………あぁ」
少しの間があってから短い返事が部屋に響く。
「楽しかったな。今日」
「……ああ。バトンの焼き方もなかなかだった。さすが未来の鍛冶師だな」
素直に称賛され、得意げに「だろ」と普段よりワントーン高い声で返す。
声だけなのにどんな顔をしているのか想像できる仲になっていると気づいたアルールは、口元が自然と緩む。
「オレさ、腕はあるのに披露する場所が今までなかったんだよ。こんな見た目だろ?学園でもたまに避けるやついるし。こっちは慣れっこだからよ。気にしないけどさ…」
「ん」
「……その度にフィーが傷ついた顔すんだよ」
「………」
「されてんのオレなのによ。あいつがさ、すっげぇー傷ついててよ………オレ…あいつのあの顔…忘れらんねぇの」
フィリティが心を痛めることは多々ある。たまたま見てしまったで済ませられないのが彼女。
「………心根が優しくて、感受性も高いんだよね…フィーリは」
「高すぎだろ?」
背中から聞こえてくるバトンの声は、彼女を思い出してか、なんだか優しい。
アルールには嬉しいような悔しいようななんとも言えない気持ちになる。
「アルは、どうなんだよ?」
「……何が?」
「あいつ、図書室に…暗闇に独り閉じ込められたのに泣きもしねぇで、迷惑かけたとかそういうことしかいわねぇ」
(……フィーリらしいな)
「お前、今、あいつらしいなって思ったろ?」
「………あぁ」
バトンは、背中を向けていたがガバっと起き上がりアルールに向き直る。
「それでいいと思ってんのか?」
「っ」
アルールも静かに起き上がり黒い瞳を捉える。
暗闇で外の月明かりは雲が通るからなのか、気まぐれに室内を照らして、また陰る。
互いに目線を交じり合わせたまま、再び月明かりが差した。
「あいつは…フィーは…いつ弱音を吐いてんだよ」
「………」
バトンは睨みつけるようにギラリと光る。うす闇でもわかるほど、憤りが伝わってくる。
「幼馴染なんだよな?聞いたこと…ねぇのかよ」
「………」
アルドルトは、答えられない。
フィリティは、王妃教育も受けた人だ。フォーカーフェイスは身につけている。
それでも普段の彼女はコロコロと表情を変えフォーカーフェイスなんて言葉は似合わない。
「……」
言われて初めて気づいた。
我々王族は、弱音なんか吐かない。吐けない。
でも、ここでは?
っ!
当たり前すぎて…気づかなかった。
雲のいたずらで明かりを遮り表情を曖昧にする。
「ねぇのか…まぁオレもねぇからな。人のこと言えた義理じゃねぇんだけどよ…」
月明かりが足元から差してバトンを照らし、流れるようにアルールを照らす。揺らぐことのない力強い瞳が未来を見据えて告げる。
「どこかで吐き出してやらねぇと…心がいつか死ぬぞ」
アルは、息を呑んだ。
どんなことにも一生懸命で努力家で、欲しい時に欲しい言葉をかけてくれる。
ましてそれが無意識ときた。気づかないうちに周りの人達の心を救っている。
でも、彼女は?
「「………」」
ビィービィービィー
「「っ!!!」」
突如、部屋の中に響くルーの鳴き声に二人してビクッと身体が跳ねて驚く。
「おい…ルー、ビビるじゃねぇか」
「待て」
「??」
バトンがアルールの言葉に怪訝そうな表情で静止する。
ビィービィービィービィービィー
そう鳴くとドアノブに捕まりガチャガチャと音を立てる。外に行きたいらしい。
「………」
「アル?どうかしたか?」
「バトン、お前も来てくれ」
「あ?あぁ…いいけどよ。どこに行くんだ?」
「……フィーリの部屋」
「なっ!!まさか襲おうってわけじゃっ…」
「っ!!んな訳ないだろ!!いいから来てくれ。僕一人じゃダメなんだ」
「…?」
*
布団から立ち上がる。
立ち上がるのを見てルーがドアノブから離れる。扉を開けて廊下に出ると、フィーの部屋の扉が少し空いていた。ルーは一目散にその隙間から部屋の中に消えていった。
オレは、アルと顔を合わせて頷き、廊下を歩く。
フィーの部屋に近づくにつれて息遣いの荒さと呻くような声が聴こえてきた。
その声がはっきり聞こえたのは、部屋の前に着いたときだった。
部屋に入ろうとアルがドアノブに手をかけたとき、隙間からルーが飛び出てきて、オレらの背中を足で掴みながら入室を急かす。
中に入ると月明かりに照らされたフィーが額に汗を滲ませ、掛け布団の縁を力強く握りしめながらうなされていた。
「はっ…はぁ…んん゛ー、や…やめて…」
「っ」
駆け寄りながら声をかけようとしたが、思いとどまる。
じじいが言っていた《うなされていたり、寝言には反応してはいけない》と。なぜか聞くと《あの世界から帰って、これなくなる》だと。どうせ迷信だろうと、あの時は鼻で笑った。
そんなことある訳ないって今も思っている。
けど、いざフィーを前に苦しんでいる彼女をその苦しみから解き放したい衝動と、もし…本当にオレが呼び覚まそうとして二度と目が冷めなかったら…。
背筋がゾッとした。
くそっ
アルは、いつの間にか向いのベッドサイドに静かに腰かけ、苦しそうな表情のまま、フィーの乱れた前髪を撫でるように整えていた。
オレも手前のベッドサイドに近寄り、掛布団の縁を握りしめるオレより小さな手に恐る恐る重ねた。
汗をかいているから熱いのかと思っていたら氷のように冷たい手だった。




