28 おまえ嫌い
一部、加筆しました。R6.9.7
ミシェルがキースのもとへ足を向けてから、フィリティとバトン、アルールは縁側へ。
一度、庭に降りて雪の積雪状態を確認した。
「オレとこいつで雪かきするからフィーは中にいろよ。冷えるからこれでも持ってけ」
バトンから差し出された手の中には、魔石で出来た懐炉があった。バトンの手には小さい。フィリティが受け取ると同じものとは思えないほど大きく感じた。
「いいの?バトン寒く…ないの?」
薄いシャツの袖すらもまくり上げる彼には愚問だった。声に乗せてしまったものは飲み込むことができず、素直に聞いた。
「今のところはなっ!母さんと姉ちゃんがいうには女は冷えやすいらしい。頼むから風邪引くなよ?」
ほいっ
予告なく投げられて慌てて受け取った。ちょうどいい暖かさでフィリティはズボンのポケットに大切にしまう。
「ありがとう!借りるね」
仲の良さをアピールされた気分になったアルールは、微笑みを張り付けまま、バトンの後を追ってアルールは屋根に登った。二人が登ってから程なくして、雪を降ろしを始める。シャリッとスコップを雪に差し込む音がリズミカルに庭に響く。
音を聞きながらフィリティは、二人のために暖かいスープでも作ることにして、台所に向かって歩みだした。
屋根の上でどんな事が起きていたかフィリティは知る由もない。
*
「アルと言ったか?お前雪下ろしとかできんの?」
サクサクとスコップを忙しなく動かすバトンは、足元から視線を外すことなく話しだした。
「…みんなアルって呼んでる…雪下ろしはできるよ」
(アルールだって言った方がよかったか?それに魔法使った方が雪下ろし早いけど…)
「そうか。じゃぁ、オレもアルって呼ぶわ。オレのことはバトンで」
「……わかった…」
(随分、自由な奴だな)
アルールは、バトンがどんな人物なのかまだまだ見極められずにいた。
フィリティとは仲が良いっていうのは、最初のやり取りでもすぐにわかった。さっきのやり取りが必要だったのかについては…不明だ。
「アルって兄弟いる?」
唐突な質問に疑問符が頭をよぎる。ここは素直に答えておこうと、アルールは怪訝な表情のまま、雪下ろしの手は止めずに答える。
「…いるよ」
「ふぅん。オレは姉貴が一人いる。アルは?」
「……兄と弟が二人…」
(だからなんなんだ?)
「男所帯かよ。じゃぁ女心わかんねぇよな」
「………」
「オレさ、妹欲しかったんだよ」
「…そうなんだ」
「フィー…可愛いじゃんって!おいおいっそんなに睨むなよっ」
「………」
「…アルって、フィーのこと好きだろ?」
「好きだよ」
「即答かよっ!…まぁそうだな………オレさ、おまえ嫌いだわ」
「………」
「だってよ……フィー、連れて行くんだろ?」
「っ!!!」
初対面なのに
こんな自由な会話の流れで、イマイチつかめない奴にまさかこんなこと言われるなんて想像していなかった。
「なんだよ。その顔、おもしれぇぞ?」
(おまえが…バトンが…よくわからない…)
「オレもフィー、好きなんだわ」
「………」
「でも、それがアルの好きと一緒かどうか…オレにはまだわからねぇ」
今までフィリティに対する気持ちがどんな気持ちなのか突き詰めて考えることをしなかった。今日アルールがこの家に来たことで何となく恋愛感情ではないのではないかと感じ始めていた。
「ただ、言えるのはアルがフィーを悲しませることがあればオレが奪ってやるから後は任せろ」
「っんなことになんてならないっ」
「ははっ!その顔いいね!!だから…仲良くやろうぜ」
(奪うとか任せろとか仲良くとかよくわかんないことばかり言うな…)
アルールの心がからっ風が荒れ狂うように感情を巻き上げていく。こんな人に会ったことがない。
「でさ、アル…魔法得意だろ?この雪なんとかしくんねぇ?」
「っ!!な、なんで…」
「わかるよ」
(それでさんざん嫌な思いしてきたんだからよ…)
バトンの容姿を知れば、今まで周りからどんなことをされてきたか想像にたやすいところ。恋敵認定した彼のことを考える余裕がアルールになかった。
「オレさ…こんなだからさ。今まで理不尽なことが人より多いわけ。それでさ、何となく魔法が使えるやつがわかるっつーかさ」
「……悪かった。そんなこと言わせるつもりじゃなかったんだ」
「いや良いよ。別にオレにはもう過去のことにしてるし。フィーがいてくれればそれで」
「………」
「で?魔法使ってくれねぇの?」
「……わかった」
アルールが魔法を使って屋根の上の雪をとある場所まで転移させた。
一瞬で無くなった雪に自分から言ったにも関わらず、いざ目の前で起こるとバトンは驚いた。
「すっげーな!」
瞳をキラキラさせて、初めて雪をみた子供みたいにはしゃぐバトンは、ふっと不敵な笑いを浮かべてアルにこう告げた。
「これでフィーとの時間が増えたな」
「っ!!」
当ったり前じゃんっと二カッと笑った。
「僕もおまえ、嫌いだ」
さっと屋根から庭に降りたバトンの背中に向かって、アルールはつぶやいた。
*
バトンが屋根から降り立つのと同じころ、ミシェルが奥の部屋から縁側にやってきた。
「あら!屋根の雪下ろし終わったの?」
「おばさん!終わったよ!フィーが来たから早く終わらせたくってさっ!張り切ったぜ!」
バトンが言い終わるころにアルールが屋根から降りてきた。
なんとなく手柄を横取りされたように感じたアルールだったが魔法を使ったことを黙っていたかったのでそのままバトンの手柄として話を合わせた。
「おばさん。終わりました。フィーリは台所にいると思いますよ」
「二人ともお疲れ様。今、キースがここに来るからちょっと椅子を用意しようと思って。バトン椅子の場所わかる?」
「ええっ!!じいさん元気になったのか!?い、椅子?こっちにあったような…ちょっと見てくるなっ!」
慌てた様子で椅子がありそうな場所へ駆けていく。
ミシェルは、その後ろ姿を見つめ、アル―ルに視線を戻した。
「バトンとは仲良くできそうかしら?」
「……さぁ、どうでしょう。バトンは…あいつは…ちょっと苦手かもしれません」
(ふふっその言い方、すでに仲がよさそうじゃないの)
「そう。でも…きっと一番の仲良しになると思うわよ。うふふっ」
奥からガタガタと音を鳴らしながら椅子を抱えたバトンが戻ってきた。
「こんなのでいいのか?」
「えぇ。ありがとうバトン。ちょうど来たみたい」
「バトン、椅子をこちらへお願いします」
キースを抱えたゼンがゆっくりと歩いて来た。
キースの顔色も先ほどより良くなったと一目でわかったのだろう。バトンがふぅと息を吐いた。
暖かい暖炉のある部屋に椅子をおろして、キースの負担にならないようにクッションを背もたれに置いた。
「おいっ!じじい。心配させんなよ」
「ほら、もっと怪我人に優しくしなさいな」
ミシェルがバトンを諫めるがお互いに口元が緩んでいる。朝方まで生気のない青白い顔色だったキースが赤身のある顔色に変わっていれば無理もない。
そこへ台所で作業をしていたフィリティがひょっこり顔をのぞかせた。皆の視線を感じ、その中にキースがいると気づくとキースの前まで勢いよく飛んでいく。
勢いを殺すことなく突っ走るフィリティを見事にバトンがギューっと後ろから抱きしめて静止する。
「「「っ!!」」」




