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錬金術師とアクセサリー

「うーん……。これくらいかなあ。あ、蓋が閉まらないや……」


 お店の二階の住宅スペースで、テーブルに向かって作業をしながら独り言を呟く。

 正午が過ぎてすぐの時間だからだろうか、窓から差し込む日差しも強く、そのお陰で手元が明るく作業が捗る。

 しかし同時に眠気も襲ってきており、この作業を終わらせたら一度休憩しようかなと考えていた時だった。


「何作ってるの、レティ?」

「――きゃっ!」


 突然頭のすぐ後ろから声が掛かり、驚きで一気に眠気が吹き飛ぶ。

 動悸する心臓を押えて振り返ると、いつものように気配なく近寄ってきていたロザリーが不思議そうな表情を浮かべていた。

 最近分かったことなのだが、ロザリーは普段飛んで移動しているため足音がなく、また身体も小さいため視界に入り難い。

 そのため、その気がなくてもこうして驚かせてしまうことがあるようだ。


「もう、ロザリー! びっくりするからもう少し前から声掛けてって」

「ごめんごめん、ついそれが気になっちゃって。今度からは気を付けるよ」

「お願いね?」


 申し訳なさそうに頭を掻くロザリーに、私は表情を和らげるとそう伝える。

 そして左手に持ったままの物――二枚貝のように薄い円形の金属が一部で留められた物――を持ち上げた。


「で、これだったよね?」

「うん。懐中時計……じゃないよね?」

「違うよ。これはこっちの石を嵌め込む用の入れ物かな」


 そう言って今度は右手でテーブルの上に置いてある指先大の緑色の石を指差す。

 石は少しだけ透明度があり、太陽の光を浴びて僅かに輝いている。

 しかしこのままではただの石にしか見えないだろう。

 実際、ロザリーも石を見るなりきょとんとした表情を浮かべている。

 私は「ちょっと待ってね」と言って金属の入れ物をテーブルに置き、石を手に取ると両手で包み込んだ。


「えーっと……何やってるの?」

「ふふ、見てれば分かるよ」


 数秒ほど間を置いて、手の隙間から光が漏れ出した。

 昼間、しかもほとんど手で覆っているので光はそれほど明るく感じないが、これが夜であれば半径数メートルを照らす程度の光源にはなるだろう。

 ロザリーもその光に驚いたのか「おー!」と声を上げている。

 しばらくして手を開くと、石の光はすぐに治まった。


「凄いね! その石は錬金術で?」

「うん。『アカリゴケ』の昼間に光を蓄えて夜に発光するという性質を水晶に移したんだ。そのままだと手元しか明るくならないけど、風の元素で光を拡散するようにしているの」


 四元素にはそれぞれ特性があり、風の元素の特性は『広げる』ことだ。

 それは広大な世界をどこまでも吹き抜けていく風を表している。

 ちなみに、風の元素は『フウラン』という丘の上に生育する植物が溜め込んでいる。

 水や土と違って風そのものを素材として入れることはできないため、錬金術ではその花を素材として使うことが多い。


 私は石を元の場所へ戻すと、代わりに金属の入れ物を再び手に取る。

 ロザリーの言ったように懐中時計の外側の部分で、街で壊れた懐中時計が投げ売りされていたので思わず買ってしまったものだ。


「それで今は真ん中に石を嵌め込む窪みを作っているところかな」

「レティって手先器用なんだね。あー、そういえばオレールもいろいろと作ってたっけ」

「まあ、私は先生の弟子だからね」

「アハハ、確かに!」


 納得したように無邪気に笑うロザリーに、私も釣られて頬を緩める。

 ひとしきり笑いあった後、ロザリーが何かを思い付いたのか「あっ!」と声を上げた。


「ねえねえ! つまり燃料も手入れもいらないランタンってことだよね?」

「え? うーん……まあそうだね」

「それ、絶対売れるよ!」

「……あー」


 ロザリーの言いたいことが分かった私は、目を輝かせるロザリーとは対照的に力なく笑う。

 ランタンの代わりとしてこれを売り出そうという心づもりなのだろう。


「残念だけど、売れないよ」

「ごめん、もしかして作るの大変だった?」

「ううん。そうじゃなくて、これ長持ちしないから」


 一晩中灯りを保てるランタンと違って、この石は限界まで光を溜めても一時間程度しか持たない。

 もっと大きな石を作ればいけるけど、今度は重すぎて話にならない。

 そう説明するとロザリーはがくりと項垂れた。


「うー、上手くはいかないかー」

「焦らずにやっていこうよ。少しずつでもお客さんを増やしていけばいいんだから」

「……まあ、ね」


 とはいえ、もう少し常連のお客さんが増えて欲しいところではある。

 そう考えていたところに、一階からドアベルが鳴る音が聞こえてきた。


「誰だろう?」


 そう呟いてロザリーと顔を見合わせるが、ロザリーも首を傾げていた。

 ダミアンさんは以前買っていった分で後一週間は持つだろうし、雨も降っていないから雨女ちゃんでもない。

 他にこのお店に訪れる人も思い浮かばず――お店としては正しい姿のはずだが――困惑している間に、ロザリーは「はいはーい」と叫びながら一階へ飛んで行ってしまった。

 私も作業を止めて階段を降りていくと、ドアの近くでロザリーと親しげに話している年配の女性の姿が目に映った。


「最近来ないから心配してたんだよ」

「ちょっと腰を痛めてしまってね……あら?」


 女性は私に気付いたようで、会話を止めてこちらに目を向けてきた。

 私も女性の前、ロザリーの隣まで近寄ると、小さくお辞儀をする。


「こんにちは」

「はい、こんにちは。可愛いお嬢さんね」

「少し前から一緒に住むことになった、レティだよ」

「あら、そうなの。私はポーラよ。よろしくね、レティちゃん」

「よろしくお願いします、ポーラさん」


 口元にしわを寄せ、柔和な笑みを浮かべるポーラさんが、私と同じく小さく頭を下げる。

 お互いに挨拶を済ませたところで、ロザリーが話を戻した。


「で、今日はどしたの?」

「ふふ、実は私の孫娘がね、明日で十歳の誕生日を迎えるのよ」

「おー、おめでとう! あ、もしかして、誕生日プレゼントを探しに?」

「当たり。何か喜んでもらえそうな物はあるかしら?」


 そう言ってお店の棚へ視線を向けたポーラさんに釣られて、私も顔を横へ向ける。

 確かにこのお店は雑貨屋さんらしく多種多様な品物が置いてあるため、プレゼント探しには向いているだろう。

 ロザリーは顎に人差し指を当ててうーんと悩み始める。


「喜んでもらえそうな物かあ……。あ、お菓子とかどう? 最近新しいお菓子を置いてみたんだよ」


 新しいお菓子というのは『キャラメリィ』のことだろうか。

 それなら、この前雨女ちゃんが来た時に初めて作った『紅仙樹』のシロップ味と合わせて二種類用意してあるし、十歳の女の子ならきっと喜んでくれるだろう。

 少しロザリーの嗜好が混じっている気もするが、妥当なプレゼントに思わず頷く。

 しかしポーラさんは腑に落ちない表情を浮かべたままだ。


「それも良いのだけれど、できれば形として残る物が嬉しいわ」

「うーん……残る物、か」


 再び頭を悩ませ始めた二人に、私はおずおずと手を上げた。


「それならアクセサリーとかどうでしょう?」

「……あら、いいわね!」

「うん、アタシも良いと思うよ! ……あ、でも、アクセサリーは置いてないね」

「それなら私が作ろうか?」


 私は右手で前髪を止めていたヘアピンを取ると、見えやすいように手に乗せて二人の間に差し出す。

 水晶の中に小さな白い花の入った簡単な作りではあるが、派手な物よりこういうシンプルな物の方が普段使いしやすい。

 せっかくの誕生日プレゼントなのだ。

 箱の中に大事にしまわれるより、普段から使ってもらいたいだろう。


「そういえばレティ、いつもこの花のヘアピン付けてるよね?」

「うん、このヘアピンは私が初めて錬金術で作った物で、先生からも褒められたお気に入りなんだ」

「レティちゃん、あなた錬金術師なの?」

「はい、と言ってもまだ駆け出しですが……。これも水晶の中に花を閉じ込めただけ簡単な物ですね。今ならあの頃よりは実力が付いてきているので、これのもう少し凝った物とかどうでしょう?」


 そう言って私はポーラさんへ視線を向けて首を傾げてみる。

 しばらく目を閉じて悩んだ様子が続き、駄目かなと思い掛けたところで、ポーラさんが小さく手を叩いた。


「じゃあ、頼んでしまおうかしら?」


 にっこりと微笑むポーラさんに、私は表情を引き締めると大きく頷いた。


「はい、任せて下さい!」


 ◇◇


 その後、私のヘアピンと同じように水晶に花を入れたペンダントを作ろうという話になった私たちは、花を選びにお店の外へと出ていた。

 日を追うごとに少しずつ傾きを増している太陽に目を細めつつ、お店の周りに並んだ色とりどりの花々を眺めていく。

 朝にロザリーが水をあげていたからか、まだ葉っぱや花びらに水滴が残っており、日差しを反射してキラキラと輝いている。


「相変わらずここの花は綺麗ねえ」

「んふふー、何たって妖精族(フェアリー)のアタシがいるからね! 季節問わずいろんな花が咲いているから、選び放題だよ!」

「あら、それは心強いわね」


 ポーラさん柔らかい声に、腰に手を当てて自慢げに胸を張るロザリー。

 ちなみに、花の種は主に雨女ちゃんから『紅仙樹』のお代として貰っているらしく、本来もう少し寒かったり暑かったりする地域にしかないはずの花まで咲いている。


「ポーラさん、お孫さんが好きな花とか似合いそうな花って知ってますか?」

「それなら『アリエル』ね。何と言っても孫の名前ですもの」

「わあ、それは素敵な名前ですね!」


 『アリエル』と言えば、誕生日や結婚式などの縁起物として送られる花として有名だ。

 淡い赤色の五弁の花びらを広げた小さな花で、本のしおりなどにもよく使われている。

 大きすぎる花だとペンダントにするには難しいと思っていたので幸先が良い。


 しかし、そんな空気を破るように、ロザリーが「あー」と小さくうめき声を上げた。

 何ごとかと私とポーラさんが揃ってロザリーを見ると、困った顔で頭を掻いていた。


「その花、ここにはないね。ありふれた花だから育ててなかったよ」

「何だ、そんなことか。もう、驚かさないでよ。ないならないで街へ買いに行けば良いだけでしょ?」

「まー、そうなんだけどね。ここにあれば楽だったのにと思ったら、ね」

「どちらにしても、街には行くつもりだったから関係ないよ」

「へ? 何で?」

「だって、枠組みの金属とかネックレス用のチェーンとか、いろいろと足りないし」


 水晶だけなら錬金術でよく使うため予備はたくさん持っているが、他の素材――特に金属となると話は別だ。

 特に今回は誕生日プレゼント用なので、水晶を嵌める枠やチェーンも『アリエル』の花の色や形に合わせるなどこだわりたい。

 そう考えて、私は隣のポーラさんへ顔を向ける。


「そういう訳なので、今日すぐにお渡しはできそうにないのですが、大丈夫そうですか?」

「ええ、もちろん。誕生日プレゼントを渡すのは明日の夜だから、それまでにあれば大丈夫よ」

「それなら良かったです。明日の朝には完成すると思いますので、お昼頃に取りに来て頂けますか?」

「分かったわ。よろしくお願いね」


 承知したと頷くポーラさん。

 今日のところは帰るわねと言いながら去って行ったポーラさんを見送り、私たちは一度お店の中へと戻った。

 私はそのまま二階へ上がり、作業途中だった金属の入れ物や石を片付けてからローブを羽織る。

 そして再び一階へと降りると、イスの背もたれの上に腰掛け、何やら難しい顔をしているロザリーへ声を掛ける。


「じゃあ、私はこれから買い物へ行ってくるね」

「んー。ねえ、アタシも付いて行って良い?」

「……えっと、お店は良いの?」

「大丈夫、これも仕事のうちだよ。それに、どうせお客も来ないからね!」


 そこは自身満々に言うところではないと内心で突っ込む。

 とはいえ、ロザリーと街へお出掛けしてみたいとは前々から思っていた。

 私は仕方がないなあと苦笑いしつつ、二つ返事で頷くのだった。

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