宮坂家の海だ~!! その2
「むふふふ~」
途中のサービスエリアで休憩した時に買った、お気に入りのたけのこの形のチョコ菓子を、軽トラの助手席でご機嫌で食べている陽菜さん。
「ははは、陽菜さんご機嫌ですね。狭くて疲れませんか?」
隣でハンドルを握るお父さんが優しく声を掛けます。
「だいじょうぶ~!!父ちゃんの運転疲れないよ!」
早朝で空いている高速道のほぼ走行車線を走り、必要のない時以外追い越し車線に入らず、周りの状況に合わせて無駄な加速減速もせず、クルージングシステムを入れたかのように時速80Kmで滑らかにあの軽トラを扱うお父さん。車をただ速く運転するのは、まあバカでもできるのですが、同乗者や他の車ににストレスや不安を与えずに運転するのは、なかなか難しいものです。
「父ちゃんもこれ食べる?」
「お!ありがとう。それじゃもらいましょうか」
「はい!あ~ん」
たけのこ型のチョコを差しだす陽菜さん。
「うん、おいしいですね」
陽菜さんに口の中に入れてもらって、おいしそうに食べるお父さん。
「にしししー」
大好きなお父さんに食べてもらって、陽菜さん、助手席で足をパタパタさせて喜んでいます。
一方、ミニバン組の方は。
「うわぁ、このトンネル長いね。どこまで続くの?」
窓の外を流れる風景を楽しんでいる颯太君があきれ顔で言います。
「ほんとだね、向こうの出口も見えないね」
隣に座る美咲さんも長すぎるトンネルにあきれ顔。
車は現在、県境にあるでっかい山脈をぶち抜く、日本で6番目に長い道路トンネルを快走中。
「このトンネルは、だいたい8.5kmくらいあるからな」
宮坂お祖父ちゃんがハンドルを握りながら、二人に声を掛けます。
「「すごいねー」」
颯太君と美咲さんが驚いたように答えます。
「でも、首都高速にある山手トンネルはもっとすごいんだぞ。全長18kmもあるからな」
とお祖父ちゃんが教えてくれると、
「「じゅ、18km」」
その長さが想像できずに、ぽかんとする颯太君と美咲さん。
「そうね、あのトンネルは長いわね。去年一回、羽田に行くときに西新宿から入ったら、すぐに事故渋滞に捕まって、トンネルの中に1時間いたものね。あのときは飛行機の便に遅れそうでひやひやしたわねー」
助手席でお祖母ちゃんが言うと、
「おお、あの時は間に合うように空港ロビー走りまくったからなぁ。いや、あれはしんどかった」
お祖父ちゃんも懐かしそうに答えます。
「「ほへ~」」
美咲さんと陽菜さん、トンネルの長さとか事故渋滞で1時間トンネルの中とか、理解が及ばず、ぽかぁ~んとしています。
お祖父ちゃんとお祖母ちゃん、美咲さんと颯太君がわいわい話している後ろでは、
「ところで文香、受験勉強の方ははかどってる?」
「うん、大丈夫。この間の模試もそこそこだったし。推薦枠に入れそうかも」
お母さんと文香さんが母娘のお話中。
「でも文香、志望校ほんとに城山高校で良いの?あなたなら東京の名門校にいくらでも行けるのに」
「うーん。でも城山高校だって県内でトップクラスの高校だよ。それにあの高校、お父さんとお母さんが卒業したところだし」
文香さん、尊敬し憧れているお母さんと同じ高校に入りたいというのが、一番の志望動機の様です。(いや、お父さんの事も尊敬もし憧れてはいますよ。それなりに)
「それに、県外に行って家族と離れるのはやだし、それに・・・」
文香さん、もじもじ。
「ふふふ、そういえば賢太郎君もあの高校志望だったわね」
お母さんにやにや。
「う、別にそれが理由じゃない・・・訳でもないけど・・・」
文香さん、さらにもじもじ。
まあ、宮坂お母さんも宮坂お父さんを追っかけて同じ高校を志望したので、文香さんの気持ちはよく分かります。
「うん、まあ頑張ってね。いろいろと」
お母さんが優しく文香さんの頭をなでて、励ましてあげます。
「うん、頑張る・・・」
文香さん、いろいろな動機で志望高校を決めたようですね。がんばれ。
2台の車は、宮坂一家を乗せ高速をひた走り、環状自動車道に入って少し渋滞したものの、予定通りに半島にある自動車道の終点インターに到着。インターを降りて一般道を走ること暫し。
「ほーら、海が見えてきたぞ」
お祖父ちゃんが指さす先、カーブを曲がって前方の視界が開けると、目の前にきらきら太陽を跳ね返す真っ青な海が広がります。
「うあーうみだぁ!!」
「海だねぇ!きれー!!」
颯太君と美咲さんが歓声を上げます。
軽トラの方でも
「父ちゃん見て!うみ、うみ!!!」
陽菜さんがテンションマックスになっています。
海を見ながらほんのしばらく走り、車は半島の突端にある港へ。
「さあ、みんなミニバンの荷物はみんな軽トラの荷台に乗せて」
お父さんの掛け声で、みんなミニバンに置いてあった荷物を軽トラの荷台に乗せます。
「じゃあ、駐車場に車止めてくるからな」
お祖父ちゃんはミニバンを近くの有料へ置きに行きます。
今日、宮坂家が向かう海水浴場はこの半島の突端から船で20分ほど離れた島にあります。そのため、ミニバンは港にある専用の駐車場に置いて、荷物の載せてある軽トラと家族みんなで予約してあったカーフェリーに乗り込み島を目指します。
「・・・ね、ねえ、陽菜お姉ちゃん。この船大丈夫かなぁ。なんか古いけど」
泳ぎの苦手な美咲さん、乗る船を見てちょっと不安気。いや、このフェリー就航してからまだ20年経ってはいないので、そうそう古いわけでもないですが。
「おーそうか?まあ、大丈夫っしょ。いざとなったら私が美咲担いで泳いで渡ってやるぞ!まかせろ!!」
陽菜さんどんと胸を張ります。
「いや、陽菜、いくらなんでもそれは無理・・・か?いや・・・陽菜なら可能かも。何せ河童並に泳ぎうまいしな。このくらいの距離なら余裕の気も・・・」
文香さん、思わず納得してしまいそう。
「え?陽菜お姉ちゃん、カッパなの??」
颯太君目をパチクリ。
「な!私は河童じゃないぞ!!あんなオバケみたいなのと一緒にするなぁ!!!」
オバケや幽霊、妖怪と言ったものが怖くて大嫌いな陽菜さん、そんなのと一緒にされ、憤慨しています。
「ハイハイ、子供達、そんなに騒がないの。さあ、船に乗り込むわよ」
お母さんが、わいわい騒ぐ子供達を促してみんなで乗船。軽トラもお父さんが運転して乗船させます。
乗船ゲートが閉まり、汽笛一声船がゆっくりと動き出します。
「ふね、動いたぁ~」
小学1年生の颯太君。生まれて初めて乗る船に大興奮。船室のシートに座り、船窓にへばりつくように外を眺めています。
「あ、あの鳥さんなに?」
颯太君が船に沿って飛んでいる鳥を指さします。
「う~んカモメさんかな」
と美咲さん。
「え?あれ、ウミネコじゃない」
と文香さん。
「う~んなんだろ」
と陽菜さん。
内陸の山国生まれの山国育ちの宮坂家の子供達。そもそも海鳥を直接見たことがほぼありません。
「お祖父ちゃん、あれなに?」
颯太君がお祖父ちゃんに聞いてみます。
「ああ、多分ウミネコだよ。確かカモメは渡り鳥で冬に来る冬鳥だから、今の季節はいないかな。ウミネコは留鳥で日本に一年中いるからね」
さすがお祖父ちゃん。なんでも知っています。
そんな和気藹々な宮坂家一同を乗せ、船は凪いだ海を滑るように進んでゆきます。
宮坂一家の旅行は、道中も退屈なんてすることもなく、みんなで楽しくわいわいと過ごしています。
つづく。




