宮坂家のひな祭り その2
ここはおなじみ宮坂家のキッチン。
「うん、いい具合になってきたわね。後もうちょっとね」
宮坂お祖母ちゃんが、昨夜から仕込んでいた甘酒の味見して頷きます。宮坂家の秘伝(?)の甘酒は、お米と米麹から作る本格的なもの。温度を一定に手間をかけことことと温め、隠し味に生姜を効かした、砂糖を使わない、優しい甘さでの甘酒です。
一方
「よしと、陽菜に颯太、酢飯を団扇で扇いで」
「は~い」
飯切り桶に入れた、昆布と少量のお酒を加えて炊いたご飯に寿司酢を掛け、さっくり混ぜたすし飯を、宮坂お母さんと陽菜さん颯太君が団扇で扇ぎます。ちなみに、宮坂家ではちらし寿司用の寿司飯は、白米に少量のもち米が混ぜてあります。
「お母さん、錦糸卵できた」
「どれどれ、うん上手。本当に美咲は器用ね」
宮坂お母さんが感心するほど、上手にできている錦糸卵。焦げ目もなく、まるで本物の金の糸みたいに細く柔らかくできています。
扇いで程よくお米に艶が出てきたところで、
「文香、混ぜる方の具材、お願い」
「は~い」
文香さんが作った、干しシイタケ、細かく切ったこんにゃく、人参、ごぼう、れんこん、筍、凍み豆腐をお出汁で炊いたものと、細く切った穴子の白焼きを混ぜ合わせます。
「良し、これで後はみんなが来てから、お皿に盛って、いくら、海老、マグロ、でんぶと錦糸卵と飾って出来上がりね。さてと、次は雛あられ作りね」
宮坂お母さんが、油鍋を火にかけます。
「やった~!!」
喜ぶ陽菜さん。
宮坂家では、雛あられまで手作り。炊いたご飯を水洗いして、米粒がくっつかないように広げて、オーブンで焦げないように20分ほど乾燥させ、それを油でさっと揚げると、あら不思議、米粒が膨らみあられができます。焦げ目がつかないうちに手早く油から上げ、丁寧に油分を切り、粉砂糖と抹茶粉砂糖、それに製菓用のいちごパウダーをまぶし、三色雛あられの出来上がり。淡い色と、食べ飽きない素朴な味でおやつにぴったり。陽菜さんの大好物の一つでもあります。
「こら、つまみ食いしたらみんなの分なくなるでしょ」
早速雛あられをつまみ食いしている、陽菜さんを注意する文香さん。
「さて、お料理の方はだいたい終わりだから、そろそろあなたたちは支度しなさい。母さん、ここは私が片つけておくから、子供たちの着付けお願いね」
宮坂お母さんが時計を見ながら位言います。
「はいはい、それじゃみんないくわよ」
「は~い」
子供たちは、お祖母ちゃんに引きつられて、身支度をしに行きます。
「おじゃましま~す」
玄関から元気な声が聞こえてきます。
今日お呼ばれされてきた、賢太郎君、香織さん、愛梨ちゃん、しいちゃんが揃ってやってきました。
宮坂家は何代前からなのか、子供たちが男女問わず近所の同じ年の子(幼馴染)をひな祭りに招待するのが慣例となっていて、子供の頃、宮坂お祖母ちゃんは現在も交流のある女性の幼馴染を招待し、宮坂お母さんは、言わずと知れた幼馴染だった宮坂お父さんを招待していました。
「いらっしゃい」
宮坂お母さんと子供たちがお出迎え。宮坂三姉妹は、お正月でも着た晴れ着に、颯太君は羽織袴姿。
対する、幼馴染たちも、女の子はみんな着物姿。女の子たちと颯太君はお互いの着物姿を見て、きゃいきゃいとはしゃいでいます。
「あ、今日はお招きいただき、ありがとうございます。つまらないものですが」
と、おっとりとした賢太郎君が、お礼の品を宮坂お母さんに渡します。
「あら、桜餅。わざわざありがとうね。これも後でみんなで食べましょう」
喜んで受け取る宮坂お母さん。
「でも、賢太郎君、本当に大きくなったはねぇ、それにこんなにハンサムになって」
と言う宮坂お母さんに、良く整った、可愛い系の顔が若干赤くなる賢太郎君。
今日の賢太郎君は、細身の綿のスラックスに真っ白のセーターに黒色のジャケットと、控えめな装いですが、小柄な割には足が長く、均整のとれた体型の為、人目を引くほどに格好良く見えます。
「ちょ、ちょっとお母さん、賢太郎に変なこと言わないでよ!それにあんたも赤くなってるんじゃないわよ!!」
あらあら、文香さん、ちょっと焼きもち。
「ふふふ、さ、みんな上がってちょうだい」
みんなが、お座敷にそろい、改めて宮坂お祖母ちゃんも加わりご挨拶。
ちなみに、宮坂お父さんとお祖父ちゃんは、残念ながら平日のしかも年度末なのでお仕事中。宮坂お父さんなんか、今朝、自分も娘たち(颯太君は男の子だってば)とひな祭りをするから仕事休むと大騒ぎをして、宮坂お祖父ちゃんに首根っこをつかまれて、会社に強制連行されてゆきました。・・・お父さんよ、それでいいのか・・・
「さて、みなさん、この甘酒と雛あられをお供えして、お雛様にご挨拶してね」
宮坂おばあちゃんが子供たちにお供え物を渡し
「は~い」
と、子供たちみんなでお雛様にご挨拶。
「美咲ちゃんの家のお雛様って、すごくきれいだね」
「うん、私このお雛様大好き」
子供たちは、お雛様に見とれています。
「さあみんな、お昼御飯よ」
宮坂お祖母ちゃんが、みんなに声を掛けます。
テーブルには、宮坂家の子供たちみんなで作ったちらし寿司ををメインに、鳥の唐揚げや、サラダ、玉子焼き、などなど、美味しそうなお料理が並んでいます。
「いただきます!!」
「はい、召し上がれ」
子供たちに宮坂お母さんお祖母ちゃんも加わり、賑やかなひな祭りパーティー。
「うん、唐揚げうまい、ちらし寿司うまい!しあわせ~~!!」
「ふふふ、陽菜たら、相変わらず良く食べるね」
香織さんが陽菜さんをほほえましく見ています。
「愛梨ちゃんお料理どう?」
「うん、美味しいね。それにみんなで食べるから楽しい!」
美咲さん愛梨さんコンビも楽しそうに食べています。
「そうたくんはい、あ~ん」
「あ~ん」
あらまあ、颯太君、しいちゃんにあ~んなんかしてもらって、まるで餌付けされているよう。
「どう、賢太郎君。ちらし寿司美味しい?」
と宮坂お祖母ちゃんがにこにこしながら、賢太郎君に聞きます。
「はい!なんだかお店屋さんで食べるより美味しいです」
お世辞でもはなく、本当に美味しいと答える賢太郎君。
宮坂お祖母ちゃんとお母さんが、なんとなく意味ありげに目を合わせ、
「ふふふ、今日のこのちらし寿司、中の椎茸とかにんじんの具材を作ったのは、文香なの。だから、このちらし寿司の味は文香の味なのよ」
と言う、宮坂お母さん。
「へぇ~、宮坂って料理もこんなに上手なんだ。すごいな」
と感心する賢太郎君。
「!!!~~っ!!!」
顔がまっかっかになる文香さん。
「ふふふ、二人ともお似合いねぇ~」
さりげなく、とんでもなく恥ずかしいことを言う宮坂お祖母ちゃん。
その言葉に賢太郎君も赤くなり、文香さんと二人でもじもじしながらご飯を食べる羽目に。
そんな二人を優しげに見つめる宮坂お母さんとお祖母ちゃん。
楽しい食事も終わり、子供たちは隣のリビングで、ルーレットを回して人生が左右される、某有名なボードゲームで遊びだします。
颯太君としいちゃんはまだ小さいので、颯太君は賢太郎君が、しいちゃんは文香さんが教えながら二人一組で遊んでゆきます。
「げ、フリター」
「げ、姉ちゃんに家とられたぁ」
「げ、追突したぁ」
「ああ、借金がぁ」
「うげげ!!開拓地送りかぁ~!!」
あらまぁ、陽菜さんさんざんですね。
ボードゲームのほかにも、トランプやUNOで遊び、みんなで楽しく遊びます。
「うわぁ~ん、大貧民かよ!!」
「なんで私が出せる札がないんだよぉ!」
ははは、ここでも陽菜さん、ボロ負けです。
「さあ、みんなおやつよ」
宮坂お母さんがみんなに声を掛けます。
楽しく遊び、気が付けばもうお八つ時。
テーブルの上には温かい甘酒に三色雛あられ、それに賢太郎君のお土産の桜餅。その他スナック菓子類。
「美咲ちゃん、お祖母ちゃんのこの甘酒、いつもおいしいね~」
「うん。そうでしょ。私も大好きなんだ」
「そうたくん、このひなあられも、優しい味ですごくおいしいね~」
「それ、ぼくのおかあさんの手づくりだよ」
「いいなぁ、陽菜。こんなにおいしいの作れるお祖母ちゃんとお母さんがいて。陽菜のお母さんとお祖母ちゃん、私にくれない?」
「え~!香織、それはダメだよぉ!!」
「ケチ~」
みんなでワイワイとおやつを食べます。
ちなみに、文香さんと賢太郎君は、ゲームを一緒にやったおかげで、しいちゃんと颯太君に懐かれて、文香さんはしいちゃんに、賢太郎君は颯太君に膝の上に乗られ、隣同士並んで座っていたら、陽菜さんに「子連れの夫婦みたい」と言われ、二人とも真っ赤になって無言で照れています。
楽しい時間は過ぎるのが早い物。わいわいと遊んで、気が付けばもう4時過ぎ。
「うん、みんなもう遅くなるから、帰ろうか」
賢太郎君が声を掛けます。
「え~、もうかえるのかぁ」
陽菜さんが残念そうに言います。
「また、みんなで遊びに来るからね」
と賢太郎君がいい、ほかのみんなも帰り支度を始めます。
「今日は本当にご馳走になって、ありがとうございました」
賢太郎君が宮坂お祖母ちゃんとお母さんに丁寧にお礼を言い、
「ありがとうございました」
とほかの子供たちもそれにならって、お礼を言います。
「どういたしまして、途中まで送ってゆこうか?」
と宮坂お母さんが聞くと、
「大丈夫です。愛梨ちゃんとしいちゃんは僕達が家まで送ります」
と賢太郎君はしいちゃんの手を、香織さんは愛梨さんの手をつなぎ答えます。
みんな近所の幼馴染、宮坂家を中心に半径100メートルもないところに住んでいるので、来る時も賢太郎君と香織ちゃんが愛梨ちゃんとしいちゃんを迎えに行き、帰りも送り届けるようです。
「そう、それじゃあ気を付けて帰ってね」
「愛梨ちゃんバイバイ」
「バイバイ美咲ちゃん」
「香織、またな」
「うん、またね」
「しいちゃんばいばい」
「そうたくん、つぎは小学校であおうね」
「宮坂、今日は香織と一緒にひな祭り呼んでくれてありがとうな」
「う、うん・・・どういたしまして・・・また、呼んであげるから、いろいろと・・・」
家の角を曲がるまで、みんなで手を振り、お見送り。
「今日は楽しかったな、美咲、颯太」
「そうだねお姉ちゃん」
「うん、たのしかったぁ」
陽菜さん、美咲さん、颯太君は満足そうなお顔。
「おりょ?姉ちゃんなにぼ~っとしてるんだ?あ!賢太郎兄ちゃんの事考えてたでしょ」
「な!何言ってるの陽菜!!」
慌てる文香さん。
「あ~文香お姉ちゃん顔真っ赤~」
「まかっか~」
はやし立てる美咲さんと颯太君。
「コラ!あなたたち、お姉ちゃんをからかうなんて、待ちなさい!!」
「や~い、や~い」
宮坂家のひな祭りは、最後まで賑やかでした。
ちなみに・・・
会社から帰り、子供たちから今日のひな祭りの様子を聞いた宮坂お父さん。
「ううう、みんなそんなに楽しかったんですか。やっぱり会社なんか休めばよかった。しかも、文香さんにほのかに恋の気配が・・・ぐぬぬ~許すまじ賢太郎君!!」
と絶叫し、宮坂お母さんから物理的に沈黙させられていました。
お父さん、がんばれ。




