宮坂家のひな祭り その1
三月もあとわずか。
宮坂家では、年度末から新年度にかけての引っ越しシーズンの為、家業の不動産業が大忙し。現事業主の宮坂お母さんと、そのお手伝いの宮坂お祖父ちゃんはこのところ、事務所に泊り込むほどの忙しさ。
宮坂お父さんも、勤めている会社の年度末から新年度のドタバタで、帰りはいつも夜の10時過ぎ。
そんなわけで、平日の今日は春休み中の宮坂家の子供たちと、宮坂お祖母ちゃんが朝から賑やかに、お座敷に集まっています。
「お祖母ちゃん、お雛様とお内裏様、どっちが右?」
「え~と、右大臣さんと左大臣さん、どっちがお祖父ちゃん人形だっけ?」
「お、菱餅美味しそう」
「お祖母ちゃん、この牛さんの人形はどこに?」
「はいはい、みんなちょっとまって、上から順番に置いていくからね」
お座敷の床の間には、鮮やかな緋毛氈を掛けた七段の雛壇が設えられ、そこに子供たちとお祖母ちゃんの手によって、お雛様が飾られていきます。
昨今は、だいたいの世帯で、ひな祭りは新暦の3月3日に行われていますが、宮坂家では昔ながらに旧暦の弥生三日にひな祭りをお祝いしています。今年は新暦の3月30日がそれに当たり、その前日の今日、お雛様を飾っています。
「え~と、箪笥に鏡台にお針道具はここ、それに牛車とお駕籠はここにと」
桐の箱から取り出した人形や小道具を、宮坂お祖母ちゃんに飾る位置を教わりながら、子供たちがそれぞれの段に飾ってゆきます。
宮坂家のお雛様は、明治中期頃に作られた、内裏雛と添え人形、小道具が揃う七段飾りの豪華なもの。当時の腕の良い職人が作り、代々の当主に丁寧に扱われ、何回か修繕もされ、120年以上にわたって宮坂家に伝わるものです。
「雪洞に、桜と橘。よし、これで完成ね。上手く飾れたわね」
宮坂お祖母ちゃんが言うと、
「やった~完成」
子供たちが喜んで言います。
「あかりをつけましょ ぼんぼりに~」
美咲さんと颯太君が童謡のうれしいひな祭りを二人で仲良く歌いはじめます。
「菱餅に雛あられ~それに甘酒に、最後はちらし寿司~!明日が楽しみ~」
と、明日のひな祭りのごちそうが楽しみな陽菜さん。
「まったく、陽菜は食べる事ばかり。少しはひな祭りの情緒とかわからないのかしら」
うきうきしている陽菜さんを横目で見る文香さん。
ひな人形を前にした子供たち各々の反応を、にこにこ見守る宮坂お祖母ちゃん。
「でも、お祖母ちゃん、家のお雛様って本当にきれいだよね。女雛様なんて、まるで生きているみたい」
文香さんがそう言う様に、宮坂家のお雛様たちは、本当に生きているように活き活きしていて、かといって、よくあまりに美しく作られた人形が持つ、一種独特の硬さや怖さや禍々しさもなく、ほんのり温かみののある、誰もがホッとする優しい表情をしています。
「そうねぇ、私のお祖母ちゃん、あなたのひいひいお祖母ちゃんの話では、京都の人形を作る職人さんが作ってくれたんだって。多分、自分の手で、丁寧に作り上げたから、こんなに温かいお顔の人形さんになったんだろうね」
宮坂お祖母ちゃんも、子供の頃から大好きなひな人形を見ながらニコニコと答えます。
「姉ちゃん、美咲、明日のひな祭り楽しみだな」
陽菜さんが満面の笑みで二人を見ます。
「はいはい、美味しいちらし寿司に雛あられに甘酒。陽菜の大好物ばかりだもんね」
文香さんが適当にあしらう様に言うと、
「む~っ。確かに美味しい物いっぱいだけど、ひな祭りは女の子のマロンじゃんか」
文香さんにむくれて答える陽菜さん。
「・・・ロマンね。へぇ~陽菜も女の子みたいに、お雛様に憧れることがあるんだ」
「陽菜お姉ちゃん、意外~」
文香さん、美咲さんが心の底から驚いた表情で言うと、
「な・・・私も女の子だもん!ひどい!!」
心から抗議する陽菜さん。まあ、いつもはガサツで男の子っぽい言動が目立つ陽菜さんですが、そこはそれ、やっぱり女の子なのです。
「ふふふ、あ、ところで明日は友達もご招待するんでしょ」
姉妹のやり取りをほのぼの見ていたお祖母ちゃんが、思い出したように聞きます。
「うん、愛梨ちゃんが来てくれるって」
「香織が来るって」
「しいちゃん来る~」
美咲さんと陽菜さんと颯太君は、仲良しの幼馴染をご招待したようです。
「あら、文香は」
と聞く宮坂お祖母ちゃんに
「え~と、なんかみんな忙しいみたいで・・・誰かくるかなぁ・・・」
ともじもじする文香さん。
「あれ?香織の話じゃ、姉ちゃんが賢太郎お兄ちゃんを誘ってるから、明日一緒に来るって言ってたけどぉ?」
陽菜さんの幼馴染の香織さんは、文香さんの幼馴染の賢太郎君の妹さんです。文香さん、毎年幼馴染と言うことで、賢太郎君をひな祭りに招待していて、今年も、もうお互いに中学生だし、本当は誘いたいわけじゃないんだけど、香織ちゃんも来るし、あんたは付き添いならしょうがないから来てもいいわよ、と早い話がツンデレで賢太郎君をひな祭りに誘たようで、それが賢太郎君の妹さんを通して宮坂家に筒抜けに。
「~~~!!!」
顔が、真っ赤かな文香さん。
「ふ~ん」
みんなにやにや。
「も、もう、香織ちゃんの為に、仕方なしに誘っただけなんだからね!」
と絶叫する文香さんに、
「はいはい、今日は春なのに暑いねぇ~」
とからかう、宮坂お祖母ちゃんと、妹達と弟。
さてさて、明日の宮坂家のひな祭りは、いろいろ賑やかになりそうですね。




