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宮坂家ほのぼのカレンダー  作者: 文具屋太郎
19/47

宮坂家の風邪ひきくん

今日は、二十四節気の大寒。暦の上では、最も寒い頃とされています。

宮坂家の住む街では、暦どおりに、朝の最低気温が氷点下十℃近くまで下がる、とても寒い日が続いています。


「くちゅん」

おや、かわいいくしゃみをするのは、誰かな。


「う〜ん、颯太くん、やっぱりお熱があるわね」

ここは、颯太くんが通う幼稚園の医務室。

「三十七度五分、ちょと高めねぇ」

園長先生が、体温計を見て、思案顔。

柔らかな毛布に包まれて園の若い先生に抱っこされ、

「うう〜ん」

と、苦しそうにぐずる颯太くん、朝登園したときは、元気一杯だったのですが、お昼寝の時間が終わって、いきなり具合が悪くなってしまったようです。

「くちゅん」

かわいいくしゃみですが、さすがに可哀相。

「お迎えの時間までだいぶあるし、一応、お母さんに連絡とりましょう」

園長先生は、宮坂お母さんのスマホに電話します。


「もしもし、あ、宮坂颯太くんのお母さんてすか。私、渚幼稚園の渡辺ですが。いつもお世話になります。ええ、ちょと颯太くん、お熱を出しまして。あ、いえ、三十七度五分で、高熱と言うわけではないのですが、ちょとくしゃみが出て、喉も痛そうなんですよ。ええ、いま園の医務室で、栗原先生に抱っこされています。はい、あ、すぐにお迎えに来られますか。分かりました。お待ちしてます。」

電話を切る園長先生。

「颯太くん、お母さんが、すぐにお迎えに来てくれるって。今日は、お家に帰って、早くお風邪治そうね」

園長先生が優しく颯太くんの頭を撫でてあげると、初めまだ友達と遊び足りないのか、少しぐずりましたが、やっぱり体が辛いのですぐに、小さくコクンと頷く颯太くん。先生の腕の中、半べそをかきながらお母さんのお迎えを待つことに。


 園長先生が電話してから、15分弱。宮坂お母さんが、あわてて車でお迎えにきました。

まあ、あわててと言っても、ちゃんと宮坂お祖父ちゃんお祖母ちゃんに連絡を取り、お祖父ちゃんには不動産事務所に来てもらってお留守番をするように頼み、お祖母ちゃんには家によって保険証を持って、これから颯太君を連れて行く、掛かり付けの医院で落ち合ってもらうよう、手配は万全です。


「颯太、大丈夫?」

園長先生と栗原先生にお礼を言い、お母さんが颯太君を腕の中に抱くと、

「うぇぇぇ~ん」

と力なく泣き出す颯太君。体のだるさと、お母さんが来た安心感がごちゃ混ぜになり、泣き出してしまいました。


「よしよし、お風邪つらいね。これから美香先生の所へ行って、お風邪直してもらおう?」

と優しく颯太君の背中をポンポンする宮坂お母さん。

「みかせんせい?うぇぇぇ~ん、チックやだぁ」

美香先生は、宮坂お母さんの小中学校のとき同級生だったお医者さんです。お姉ちゃんたちから聞いた話で、お医者さんに連れて行かれるとなると、ことによると注射されちゃうことを知っている颯太君、ますます涙があふれてきます。


 お母さんは力なくぐずる颯太君を、miniの助手席に座らせ、宮坂家の近くにある掛かり付けのお医者さん、北沢内科小児科医院さんに連れて行きます。

 北沢医院は、今年70歳になる内科医の大先生と、孫娘で宮坂お母さんと同じ年の小児科医の美香先生の二人でやっている医院。ちなみに美香先生のお父さんは、医者にならず、数学者で大学教授をやっている変わり種です。


 医院の入り口で、家から保険証を持ってきた宮坂お祖母ちゃんと合流。真鍮製の取っ手のある木製の玄関ドアーを押開けし、大正期に建てられた洋館風の医院に入ります。


 受付で保険証を出し、待合室へ。腰板付きの白漆喰の壁に付いた、昔ながらの桟に硝子の嵌った上げ下げ窓から冬の長い日差しが入る、西洋のお屋敷の応接室のような待合室へ。

 待合室には、颯太君の様な風邪ひきさんを連れた親御さんが数組、順番待ち中。


「やっぱ、この時期風邪が流行ってるのねぇ」

と颯太君を抱っこしてソファーに腰掛ける宮坂お母さんが言うと、

「本当に、そうねぇ。颯太、インフルエンザじゃなければいいけど」

隣に腰掛け、颯太君の頭を優しく撫でる宮坂お祖母ちゃんが心配げな顔で言います。


 弱々しくぐずる颯太君を二人であやす事10分ほど、

「宮坂颯太君、診察室へお入りください」

と、きびきびとした、ベテランの看護師さんが呼びました。

「三人も一緒に診察室に入るのも、あれだから、私はここで待っているわ」

とお祖母ちゃんは待合室に残り、颯太君とお母さんが診察室へ入ります。颯太君は、先生が怖いのか、ひしっとお母さんにしがみついています。


 診察室の中には白衣を着た、宮坂お母さんと同じくらいの美人さんの女性医師が椅子に座っています。

「あら、恭子、久しぶりね。今日は颯太君連れてきたの。どうしたの」

と、その女性医師、美香先生が宮坂お母さんの顔をみて言います。

「ええ、颯太、少し熱があるようなの。それにくしゃみばかりしてるし、のども痛そうだし。朝は元気だったんだけど」

宮坂お母さんと美香先生は、小学校からの親友で、今でも時々二人で飲みに行ったりもしています。

「そう、それじゃ颯太君、お胸出して」

そういって、聴診器を耳にする美香先生。宮坂お母さんの膝の上の颯太君、なにをされるのか不安で、涙がぽろぽろ。でも、体が具合悪くて、抵抗もできずなされるがまま。

美香先生の手慣れた診察で(検査で綿棒をお鼻に入れられたとき、颯太君大泣き)幸いにもインフルエンザではなく、お薬をのんで、暖かくして寝ていればすぐに治るだろうとの診断でした。

「良かったね颯太。すぐに体良くなるって。ありがとうね、美香」

「ふふふ、私はお仕事だもの。それより、インフルエンザが流行っているから、家族みんな、うがいと手洗いを忘れないようにね」

「わかったわ、ちゃんとみんなにやらせるようにするわ。患者さんいっぱいるから、私たちはこれで」

「颯太君もし明日も熱があるようなら、また明日来てみて」

「ええ、それじゃ。また桜の咲く頃に飲みにでも行きましょう」

「いいわね。それじゃ颯太君お大事に」

「ほら、颯太先生にありがとうして」

美香先生に診察されて(颯太君からすると、いじめられて)すっかり美香先生が怖くなった颯太君、お母さん胸にしがみつき、渋々といった感じで、

「せんせい、ありがとう」

とそれでも素直にお礼を言いました。


 医院を出て、宮坂お祖母ちゃんと3人で家に帰ると、もう夕方4時半。

陽菜さんと美咲さんの小学生組はもう家に帰っていました。

「あ、母ちゃんお帰り。あれ、颯太どうしたの?」

「具合が悪いの?」

玄関まで出てきた陽菜さんと美咲さんが、宮坂お母さんの胸に抱っこされている颯太をみて、心配げに聞きます。

「うん、颯太ちょっとお熱出しちゃって。ほら、うつっちゃうかもしれないから、陽菜と美咲は洗面所の棚にあるマスクつけてきて」

「は~い」


颯太君をパジャマに着替えさせ、お座敷に敷いた布団に寝かせ、おでこに貼ってある冷却シートを取り換え、ようやくひと段落。颯太君は、お医者さんに行って疲れ切ったようで、眠ってしまいました。

宮坂お母さんとお祖母ちゃんが颯太君枕元に座り、優しく見守ってあげています。

「母ちゃん、颯太、大丈夫?」

「まだ、お熱あるの?」

「お母さん、颯太具合が悪いんだって?」

陽菜さんと美咲さん、そして今しがた中学校から帰ってきた文香さんが、言われた通りマスクをしてお座敷を覗きます。

「ええ、だいぶ良くなってきたようよ。美香先生のところで診てもらって、インフルエンザじゃなくて、お薬飲んでおねんねしてれば直に良くなるって」

「よかった~」

胸をなでおろす三姉妹。

「ほら、颯太の風邪がうつるといけないから、あなたたちはリビングでこたつに当たってなさい」

とお母さんが言うと、

「ええ~。私も颯太の看病したい」

「母ちゃん、わたしも」

「わたしも~」

と不満げな三人。それを見てお祖母ちゃんが

「ふふふ、それじゃあ、颯太君のために柚子粥を作ってあげるから、三人ともお手伝いしてくれる?」

と提案。

「は~い!」

みんなで元気よく返事して、お祖母ちゃんとキッチンへ。


宮坂家のお粥はちゃんと米から炊いて作るお粥。

たっぷりの昆布と鰹のだし汁に、柚子のしぼり汁を適量と柚子の皮を細く切ったもの入れ、それで三~四勺の洗い米を土鍋で炊き上げるだけなのですが、これがまたとても美味。特に体が不調のとこは、柚子の香りと、お出汁の美味しさで、食欲がなくてもおいしく体に優しくいただける、優れものです。

「それでね、土鍋をかけて、火は最初中火よりちょっと強め。そして吹いてきたら弱火にして、焦がさないように気を付けながら炊いていくのよ」

宮坂お祖母ちゃんが、三姉妹に出汁の取り方から始まって、作り方を教えながらお粥を作ります。

キッチンに柚子の良い香りが漂いますが、颯太君の為と言うことで、珍しく陽菜さんがつまみ食いもしません。

「さて、そろそろ良い具合ね。ほら、三人とも、ちょっとだけ味見してみて」

とお祖母ちゃんは、柚子粥をちょっとずつおてしょうに盛り、三人に渡します。

「うわぁ美味しい」

と三姉妹が顔を綻ばせます。

「さ、お粥を颯太に持って行ってあげた後、みんなで夕飯の支度をしましょうか」

「は~い!!」


その後、お母さんの事務所で留守番をしていたお祖父ちゃんと、会社に行っていたお父さんが帰って来て、家族そろって、ちょっと過剰なくらいの颯太君の看病で一日が終わってゆきました。


「まったく、颯太君が具合が悪いなら、僕に連絡くらいくれてもいいじゃないですか」

お薬が効いて、ぐっすり寝ている颯太君を川の字で添い寝しているお父さんが、お母さんに不満を言っています。どうやら、颯太君が具合が悪かったのを知ったのが家族の中で一番最後、家に帰って来てからだったのが大いに不満らしいのです。

「ごめんなさいね、滅多に風邪をひかない颯太が具合が悪くなって、ちょっとあわてていたから、忘れちゃったの」

としおらしく謝るお母さん。

「まあ、確かにそれはしょうがないですねぇ」

ちょっとまだ不満が残りますが、しおらしくしているお母さんに、納得する宮坂お父さん。


しかし宮坂お母さんの内心は・・・

(あなたになんか連絡したら、仕事放り出して帰ってくるでしょうに。だから連絡しなかったのよ。とりあえず働いてもっと稼げ)

 宮坂お母さんの掌の上で転がされる宮坂お父さん。とりあえずお仕事がんばりましょ。



颯太君のお風邪は、みんなの看病のおかげで翌日には良くなりました。



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