宮坂家の七草粥
一月七日。三連休初めの土曜日。
「ううう・・・おはようございます」
8時頃、よれよれの姿でお父さんが起きてきました。髪はぼさぼさ、目の下にはクマが・・・
「あらあら、昨夜はだいぶ飲みすぎた?」
とお母さんが言うと、
「いえいえ、ほとんど飲んでません、と言うか、良く眠れなくて・・・」
お父さんがあくびをしながら答えます。
「そういえば、夜だいぶうなされてたわね。何かあったの」
と宮坂お母さんが首を傾げながら聞きます。
「まあ、それがですね・・・」
昨夜の金曜日は、宮坂お父さんの会社の新年会。市内の外れにある温泉旅館で、社員全員参加して、大盛り上がりで始まり、有志のかくし芸や、カラオケなんかも盛り上がり、料理もおいしく、上戸も下戸もみんなで楽しくわいわいと飲み食いをしていたんですが、宴もたけなわの頃、社長と専務と部長のかくし芸が始まったころから、カオスが。社長と専務と部長の三人による強烈な「パフュ〇ム」の物まね。いやもう、その衣装とかつら、どこで手に入れたんですかぁから始まって、ぎゃぁぁぁ~きもちわりぃ~けどなんでそんなに完璧キレッキレなダンスなんすかぁ~、いやぁ~ガタイの良いあ~ちゃんはいやぁ~と、もう完全に社員たちをパニックに陥れて踊りきった三人様。なんですかそのやりきった感のさわやかな汗は・・・
「とまあ、そんな社長たちの姿が夢にまで出てきて・・・もう完全にトラウマですよ」
はぁ~とため息をつくお父さん。
「ふふふ、社長さんたち今年は相当強烈だったようね。みてみたかったわ」
と笑いながら言うお母さん。
「まあ、確かに面白かったですがね」
と苦笑するお父さん。
上役三人様の新年会かくし芸は、宮坂お父さんの会社の伝統の様なもの。毎年、かなり手の込んだ芸を披露して、社員には大好評。今年もキモ面白く、後々結構長い間、社員たちの話題に上っていました。
「ふわぁ~、ちょっとシャワーを浴びて、さっぱりしてきます」
とお父さんあくびをしながら、お風呂場へ。
「お風呂から上がったら、朝ご飯にしますよ」
とお母さん。
「ふぅ~、ようやく目が覚めてきました」
とシャワーを浴びて、リビングにやってきたお父さん。
そこには颯太君と三姉妹がこたつで待っていました。
「さて、お父さんご飯にしましょ。今日は七草粥よ。昨日食べ過ぎただろうから丁度いいでしょ」
お母さんが粥をよそったお椀をみんなに渡します。
「いただきま~す」
とみんなで朝ご飯。
「ああ、年末年始と食べ過ぎだったから、おかゆはありがたいですね。・・・おや?」
お父さん、おかゆを一口食べて首を傾げます。
「あ、わかった?入ってるの七草じゃなくて、野沢菜漬けの細かく切ったのと、大根葉、それと普通のお大根なの」
とお母さんがいいます。するとなぜか、子供たちがビクッとしました。
「めずらしいですね、確か今年は・・・」
お父さんが言うように、毎年、八百屋さんで売っている七草セットを使って、宮坂家の七草粥には芹薺五行繁縷仏の座菘蘿蔔と七草すべてが入っていますが、どうも今年はは違っています。
「実はね・・・」
去年の11月、お母さんと息子と三姉妹で商店街に買い物に出かけたとき、園芸店の店先で、春の七草の寄せ植えキットと言う商品を見つけ、
「へぇ~、珍しい。こんなのも売ってるのねぇ」
とお母さんが手に取ってみると、子供たちも興味津々という顔で覗き込んできます。
「なあ、母ちゃん、これ育ててみたい」
と、陽菜さんがおねだり。ほかの子たちも、お母さんの顔を見て欲しいアピール。
「ふふふ、そうね、お正月も近いし、今から植えれば七草の日までには間に合うようだから、買ってみましょうか」
と1セット買ってみて、早速、プランターに植え、それから毎日子供たちで、七草の世話をしてあげてきました。まあ、育て方は、温度変化が少なく、若干日当たりの良い場所で、水も土が乾きそうになったときに湿る程度にやり、手がかかると言えば、夜は凍みないように毎晩保温用のビニールをかけてやる程度で、さほど手間もかからなかったのですが、子供たちは朝学校行く前と夕方学校から帰って来てからとせっせと世話をしていました。
そんな世話のおかげで、それぞれかなり大きくなり、菘も蘿蔔も小さいながら、ちゃんとカブと大根の形になり、七草の日の朝をむかえました。
「さて、七草、収穫しておかゆを作りましょうか」
と、朝ご飯を作るお母さんが言うと、急に美咲さんがお母さんの腰に抱き着いて来て、うるうるした目で見上げてきました。
「どうしたの?」
とお母さんが美咲さんに聞くと、
「う~、七草さんぬいちゃうの可哀そう」と美咲さん。
「え?」
きょとんとするお母さん。
「え~とね、お母さん、みんなで七草育ててたら、この子たち、この七草がなんか可愛くなっちゃったようなの・・・私もそうなんだけど」
ともじもじしながら言う文香さん。
「母ちゃん、ナナちゃん抜かないであげて」
と、食いしん坊の陽菜さんまでうるうる目でお母さんに抱き着きます。
「ママ、おねがい~」
颯太君など、ちょっぴり涙が出てきている顔で抱き着いてきます。
お母さん、ちょっと驚きましたが、みんなのそんな様子に、
「そうね、みんなで一生懸命育ててきたもんね。ずっと育てていると、花が咲いて種のとれるのもあるらしいから、それまで抜かないであげようか」
とみんなの頭をなでながら言います。
「ほんと、お母さん?」
「母ちゃんありがとう」
「やったぁ~お母さんありがとう」
「ママ、ありがとぅ」
とみんな満面の笑みになりました。
そんなこんなで、七草たちは、いまだ日当たりの良い場所ですくすく育っち、七草粥には、あまりものの大根と青物が入っているというわけです。
「ふ~ん、僕が寝ている間に、そんなことがあったんですね」
とポツリとお父さん。
「ごめんなさい、お父さん。ちゃんとした七草粥がよかったよね」
と文香さんがしょんぼり言います。
「え?お父さん、みんなが優しくて、感動してるんですよ」
とお父さんみんなに優しく微笑みかけます。
宮坂お父さん、そんな子供たちの優しさに、ちょっと誇らしげ。
「さ、みんなおかゆ冷めちゃうから、早く食べましょ」
とお母さんの一言に、
「うん!」
とみんなで朝ご飯再開。
「母ちゃんおかわり」
相変わらず良く食べる陽菜さん。
いつもと変わらず、いつもよりちょっとだけ暖かい気持ちの今朝の宮坂家の朝ご飯の風景でした。
日当たりの良い午前中の縁側で、七草を見ながらほっこりしている子供たちを、こたつに並んで当たりながら見ている宮坂お父さんとお母さん。
「ねえ、子供たちもみんな大きくなってだいぶ手もかからなくなってきたし、家もそろそろ何かペットを飼いましょうか」
とお母さん。
宮坂家はお母さんとお父さんがまだ結婚する前まで、秋田犬を飼っていました。幼馴染同士だったお父さんとお母さんが小さい頃からいた、シロとなずけられた真っ白な犬で、幼いころはいつも一緒に二人と一匹で遊んで、まるで二人のお兄さんみたいな存在でした。17年生きたこの秋田犬、お父さんとお母さんに、いろいろ優しさや命の大切さを教えてくれたものでした。
「そうですね、動物を飼うことは、シロみたいにいろいろ大切なことを教えてくれますからねぇ。とくに、七草までにあんなに愛情を持てる子たちにだったら、もっと心豊かな子に育つことができるでしょうからね」
とお父さんも賛成。
「今はまだ寒から、春になって暖かくなってから、飼いはじめましょうか」
隣に座るお父さんの肩に頭を預けるお母さん・・・
おや、まあ、宮坂お父さんとお母さんたら・・・
ふふふ、甘々の二人の邪魔をしないように、この辺で失礼いたしましょうかね。




