~time~鬼羅さん奮闘記
※鬼羅さん視点です…というかプレイヤー出てきません※
…っと!
やっぱり本体の方が動きやすいな。…じゃなかった。
さっさとアフターイメージを消さねぇと。
早速人生ゲーム盤を見る。
そこには俺達の造り上げた世界が広がっていた。
コマである車や、更に小さい皆もしっかり見える。
さっきまで俺が居たキッチンに何やら黒い模様があった。これがアフターイメージか。
鬼羅「さて…どうやって消そうかねぇ…」
でも、ゼリアムがあいつを呼ぶって言ってたからアフターイメージが消えるのは時間の問題。だとすれば俺がやらなきゃいけないのはアフターイメージを「消す」事じゃなくて「止める」事だ。
ゲームをやっている以上、システムに手は出せないしな。
さて、こいつは掴めるか…?
ゲーム盤に手を突っ込んでみる。丁度手を水に突っ込むような感覚だ。ゲーム盤を水に例えた時、水面に当たる部分が波打つ…だが水中は全く変わらない。
キッチンに手を突っ込んであるので、近くに居るその黒いもやのような物を掴んでみる。
掴めた感触は全く無い。
《鬼羅様、アフターイメージの動きが止まりました。》
俺に体を貸してくれている奴…名前は「 」と言うが、そいつと俺は一心同体。だから今こっちと盤の中の世界を繋ぐ者になっている。
俺は「 」を通じて向こうの状況を把握しているのだ。
さて、アフターイメージを掴んだ感触は全く無いがどうやら掴めているらしい。アフターイメージが動かないなら大丈夫だろう。このままあいつがシステムでこいつを消すまでずっと握っていれば良いのだ。
何だ、こんな簡単に終わる事だったのか。
…そう思った矢先だった。
「痛い…!痛いです鬼羅様…!」
明らかに聞いた事のある声だ。俺の名を知っている者…?
「鬼羅様!分からないんですか!?私ですよ私!」
…その声は…!
鬼羅「お前、コックか…!?」
さっきアフターイメージに食べられてしまったらしいコックの声にそっくりだ。
「そうですコックです!」
ただ…今までの調査結果では食べられた人が帰って来ないと聞いているし、喰われた人が喋るなんて聞いた事が無い。だとしたら新たな調査結果だ。
…ただここで一つ問題なのは、こいつは本物のコックなのか、それともアフターイメージが造り出した幻なのか。
もし幻だとしたら、アフターイメージ…残像と名前がついているのにも納得がいく。
喰った人の残像が見え隠れする…だから「残像」。
だとするとますます怪しい。
こいつは本物なのか?
でも…本物だとしたら、何故黒いもやとして現れるのか…
でも本物だとしたら…俺はいつもお世話になってる人を握り潰そうとしてる事になる…
でも…。
ゼリアム「何をグズグズしているのだ。手の力が緩んで来てるぞ!」
タリス「おい、まさかあいつに情が移ったんじゃないだろうな!」
鬼羅「違う!こいつ…!」
ちょっと待て…!
こいつらには聞こえてないのか?コックの声が…。
「鬼羅さん…!」
鬼羅「止めてくれぇえぇえぇえええッ!!」
ごめん…コック…!
『俺はこいつの声が聞こえない…!』
こんな事で俺の力を使うのは気が退けるが、こんな状況だ。致し方ない。
ゼリアム「どうしたのだ鬼羅。そんな大声を出し、あの技を使うなんて…」
タリス「何かあったのか!?」
鬼羅「は…はは…大丈夫…だ、俺は。コックが…」
そう言いかけて止まる。
思い出したくねぇ。いくら幻かも知れないと言えど見捨ててしまった事を。
握ったままの手は、ほのかに温かい。黒いもやは見えないが、中にコックを握っているようで…
鬼羅「早く…早くあいつを呼んでくれ。そして早くアフターイメージを消してくれ!」
ゼリアム「もう少しであいつが到着する。」
タリス「おい、大丈夫か?お前おかしいぞ…本体のお前に怖いものなんて無いだろ?」
鬼羅「………ッ」
もしここに居るのがタリスだったら、こんな事にはならなかっただろう。非情な彼なら。
以前仲の良かった者でも、切り捨てる事が出来る筈だ。そうしてすぐ忘れる事が出来る。
正直…タリスが羨ましいよ。
俺はそういう風に切り捨てる事が出来ないからな…。
いつまでもこうやって引きずってしまう。何でも「否定出来てしまうこの技」は、俺のこの性格から生まれたものだ。何とも皮肉な技である。
鬼羅「後…どれくらい…どれくらいなんだ?」
タリス「後10分位だとよ。」
ゼリアム「全く、あいつにしては遠出だな。」
タリスに告げられた時間は後10分。なのに時間が過ぎるのが遅い…。
一分経つのすら遅く感じる。
早く、早くこの手を離したい。離して、自分が正しかったと言うことを知りたい。
なのに、時間はそれを許してくれない。一秒一秒をゆっくり感じさせて俺を苦しめる。
きっかり10分後に彼は現れた。
鬼羅「進行者!時間ピッタリに来るとは…全く変わってないな。」
進行者(名前は未だ不明)「…ふん、いつもの事だろう。時間通りにしないと気が済まないのは良く知ってる筈だ。」
鬼羅「話はゼリアムから聞いてるか?」
進行者「あぁ。聞いた。アフターイメージが出たんだろう?システムの方で既に消した来た。もう手を離して大丈夫だ。」
…やっとか…
ずっと握っていた手を、ゆっくりと離す。長い時間握っていたせいか手汗が凄い。そして手をゆっくりと盤の中から抜いていく。また水面に波紋が出来た。
鬼羅「なぁ、進行者。」
進行者「何だ?」
鬼羅「今回のアフターイメージは…喰った奴と同じ声を出せるみたいだ…もっとも、あれがもし本物の声だとしたら別だけどさ。」
進行者「声を聞いたのか?」
鬼羅「あぁ。喰われた筈のコックの声だった。」
進行者「…そうか…それは大変だったな、鬼羅。お疲れ様…と言っておこうか。」
鬼羅「………。」
もし、あの声が本物だとしたら俺は大変な事をした事になる。人を見殺しにした事にさ…。
結果的には、コックを犠牲にする事で多くの人が助かる事になるかも知れないけど、だからといって見捨てていい訳じゃない。
俺の技を使って「無かった事」にしてしまったのは、悪いと知りつつもやらなきゃいけないと…自分でも思っていたからだろうな。
…コックの冥福を祈る…。
進行者「お前は早く盤に戻った方が良いだろう。あの店に新しいコックを入れておいた。店内も修正してある。食事を取れる状況にはしてあるからな。今まで戦った分、食べてくると良い…………自分の金でな。」
鬼羅「分かってるよ。進行者のお前が金を出す事なんてしないもんな。」
俺は精神統一をし、「 」の体に戻っていったー…
いやぁ…こんなにtimeの話が長くなるとは思ってませんでした、予想外です(笑)
って次もtimeなんですけどね。そろそろ本線に行かないとなーとは思ってます、ハイ。