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隠語小説  作者: 木林進
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3/4

『喫茶店の殺人計画』

登場人物

黒田――舞台監督。落ち着いた男性。

美咲――演出助手。若い女性。

村田――店に入ってきた会社員。

店員――喫茶店のウェイトレス。

(駅前の喫茶店。黒田と美咲が台本を広げている。)

(カランとドアの開く音がする)


店員「いらっしゃいませ、喫茶ミステリーへ」


(村田が席に着く)


美咲「黒田さん。最初の男、どうします?」


黒田「殺そう」


(村田、メニューを見ていたのを目を黒田に向ける)


美咲「最初から?」


黒田「いや、頭は生かす。二場で殺す」


美咲「女のほうは?」


黒田「まだ生かしておいて。男がはけてから落とそう」


美咲「死体は?」


黒田「暗転でわらう」


(村田、美咲と倉田を交互に見る)


美咲「一人で?」


黒田「二人いたほうが早いな」


(村田、スマートフォンを取り出す)


美咲「ナイフは?」


黒田「板付き」


美咲「血は?」


黒田「出で入れる」


美咲「拳銃は上手ですか?」


黒田「いや、下手。撃ったら飛ばして」


美咲「了解です」


村田「…………」


黒田「どうしました?」


村田「い、いえ……」


美咲「じゃあ三人目は?」


黒田「殺す」


美咲「四人目」


黒田「殺す」


美咲「五人目」


黒田「生かす。ケツまで必要だ」


(村田、コーヒーを吹きそうになる)


村田「ゴホッ、ゴホッ!」


店員「お客様、大丈夫ですか?」


村田「だ、大丈夫です」


黒田「水、頼みます?」


村田「結構です!」


(店員、去る)


美咲「最後はどうします?」


黒田「そこなんだよな」


美咲「全員殺します?」


黒田「いや。一人だけ生かす」


美咲「誰を?」


黒田「犯人」


(村田、勢いよく立ち上がる)


村田「そこまでだ!」


黒田「はい?」


美咲「え?」


村田「全部聞いてました!」


黒田「何をです?」


村田「男を殺す、女を落とす、死体を片付ける! ナイフに拳銃まで用意して!」


美咲「……ああ」


村田「『ああ』じゃない!」


黒田「すみません。これです」


(黒田、テーブルの台本を村田に見せる)


村田「……『殺人者は幕が下りても』?」


美咲「今夜、ゲネなんです」


村田「ゲネ?」


黒田「本番と同じように最初から最後までやる最終リハーサルです」


黒田「そして、私が舞台監督で、彼女が演出助手です」


村田「じゃあ、さっきの『殺す』って……」


黒田「この場面、主人公にスポットが二本当たってるでしょう?」


(台本を指す)


村田「ええ」


黒田「一本いらないんです。だから二場で、その照明を殺す」


村田「……消す?」


美咲「そうです。でも女優さんのスポットは残すから、そっちは生かしておく」


村田「それで『女は生かす』……」


黒田「男優が舞台からはけたら、女優の照明も落として暗くする」


村田「なるほど……」


美咲「その暗転中に、舞台に残った死体の人形をわらうんです」


村田「わらう?」


美咲「袖に片付けます。次の場面で死体が残っていたら変でしょう?」


村田「ああ……そういうことか」


黒田「ナイフも見ます?」


村田「いや、それは……」


美咲「ゴムですよ」


(美咲、スマートフォンの写真を見せる)


村田「本当だ」


美咲「第一場が始まった時点でテーブルの上に置いてあるので、ナイフは板付き」


村田「板付きって?」


黒田「役者や小道具が、場面の最初から舞台上にいることです」


村田「じゃあ拳銃が『下手』というのは?」


美咲「ここです」


(舞台図を見せる)


美咲「お客さんから舞台を見て左側が下の手と書いて下手、右側が上の手と書いて上手です」


村田「下手な拳銃という意味じゃないんですね」


黒田「拳銃の演技が下手だったら困ります」


(美咲、笑う)


村田「じゃあ『撃ったら飛ばす』は?」


黒田「拳銃を使った後、暗転で上に吊り上げて舞台から消すんです」


村田「なるほど……」


美咲「だから誰も殺しません」


村田「……すみません」


黒田「いや、こっちも喫茶店でする話じゃなかったですね」


村田「でも、まだ一つだけ」


黒田「何でしょう?」


村田「『最後は犯人だけ生かす』って?」


美咲「あ、それはラストです」


黒田「最後に犯人が一人で告白するんですよ。他の照明を全部殺して、犯人のスポットだけ生かす」


村田「……犯人だけに光が当たる」


黒田「そういうことです」


村田「やっと全部分かった……」


(店員がやって来る)


店員「お客様、ご注文の追加はいかがですか?」


村田「アイスコーヒーをお願いします」


店員「かしこまりました」


(店員、去る)


美咲「黒田さん、そろそろ劇場に戻らないと。ゲネ押しますよ」


村田「押す?」


美咲「予定より遅れることです。このままだと本番に間に合わない」


村田「なるほど」


黒田「じゃあ、この話もそろそろ落とそうか」


(村田、黒田を見る)


黒田「……終わりにしよう、という意味です」


村田「それは舞台用語じゃないでしょう」


(三人、笑う)


――暗転。

今回は1話構成です。

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