『この病院、大丈夫ですか?』
登場人物
田中(45歳):風邪の症状で外来を訪れた、ごく普通の会社員。心配性。
佐藤(28歳):外来看護師。仕事熱心だが、医療用語がつい口に出る。
山本(35歳):ベテラン看護師。冷静で淡々としている。
鈴木(40歳):外科医。少々天然。
第一場 外来待合室
(田中が診察の順番を待っている。近くのナースステーションで看護師二人が話している)
佐藤「山本さん、さっきの患者さん、ルートが取れないそうです」
山本「えっ、まだ取れてないの? 先生に頼んでみて」
田中(心の声)「ルート? 患者さん、道に迷ってるのかな?」
佐藤「それと、隣の部屋でデクができちゃったみたいです」
山本「あら、早めに処置しないと広がるわね」
田中(心の声)「デク? 何ができたんだ? しかも広がるって……」
佐藤「あ、先生! ナートの準備はどうします?」
鈴木「すぐ使うから用意しておいて」
田中(心の声)「ナート? 何かの武器か?」
第二場 不穏な会話
(鈴木医師が電話を終えて戻ってくる)
鈴木「午後のカイザー、予定どおりだから」
佐藤「分かりました。アンギオの方は?」
鈴木「そっちは別の先生が担当する」
田中(心の声)「カイザー……皇帝? アンギオ……外国人? この病院、何か国際的な秘密組織でもあるのか?」
山本「先生、さっきの患者さん、サチュレーションが落ちています」
鈴木「それはまずい。すぐ確認しよう」
田中(心の声)「満足度が落ちたくらいで、そんなに慌てるのか……。よほど評判を気にしてるんだな」
佐藤「先生、オペ出しの時間です」
鈴木「ああ、行かないと。ナートの準備も忘れずに」
田中(心の声)「手術を外注して、武器まで準備するのか!?」
第三場 決定的な一言
(山本が佐藤に声をかける)
山本「佐藤さん、あの患者さん、トランスできる?」
佐藤「はい、二人いれば大丈夫です」
山本「じゃあ、私も手伝うわ」
田中(心の声)「トランス!? 二人がかりで変身させるつもりか!」
(さらに鈴木が戻ってくる)
鈴木「さっきの件、マルメになったらしいね」
山本「ええ、そう聞いています」
田中(心の声)「丸める!? 患者を!?」
(田中、ついに立ち上がる)
田中「あ、あの! ちょっといいですか!」
佐藤「はい、どうされました?」
田中「さっきから聞いていたんですけど、この病院、何をやってるんですか!?」
山本「え?」
田中「患者を変身させたり、丸めたり! 皇帝が来るとか、武器を用意するとか!」
(看護師二人、顔を見合わせる)
佐藤「……ああ、医療用語ですね」
田中「医療用語!?」
山本「トランスはベッドから車椅子への移乗、マルメは診療報酬の包括払いです」
佐藤「ナートは縫合、カイザーは帝王切開ですよ」
田中「じゃ、じゃあ、デクは?」
山本「床ずれです」
田中「アンギオは?」
佐藤「血管造影です」
田中「サチュレーションは?」
山本「血液中の酸素の状態を示す数値です」
田中「……全部、普通の医療行為だったんですね」
佐藤「はい」
(田中、安心して椅子に座る)
第四場 最後の恐怖
(そこへ鈴木医師が現れる)
鈴木「あ、田中さん。次、診察しますね」
田中「はい! よろしくお願いします!」
(田中が立ち上がると、鈴木が佐藤に小声で話しかける)
鈴木「あの件、ステる可能性もあるから、家族への説明を考えておいて」
佐藤「分かりました」
(田中、硬直する)
田中「……先生」
鈴木「はい?」
田中「今の『ステる』って……どういう意味ですか?」
(鈴木、一瞬沈黙する)
鈴木「……亡くなる、という意味の古い医療用語です」
田中「えええええっ!?」
鈴木「あ、田中さんのことじゃありませんよ。別の患者さんの話です」
田中「そ、そうですか……」
(田中、胸をなで下ろす)
鈴木「それじゃ、診察室へどうぞ」
田中「先生、ひとつお願いがあります」
鈴木「何でしょう?」
田中「私の診察だけは、全部日本語でお願いします!」
鈴木「もちろんです。では、まずバイタルを確認して、必要ならルートを……」
田中「だから日本語でええええっ!」
(暗転)
今回も1話構成です。
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