↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界パチンコ〜人生を壊された俺が、今度はパチンコ台になりました〜  作者: marumaru


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/9

村の集会

「ミナ?」


 何か言いたいことがあるらしい。


 俺は黙って、次の言葉を待った。


「……今日は、ありがとう」


「え?」


 思わず聞き返した。


 ミナがこんなに大人しい声を出すとは思わなかった。


「魔物さんがいなかったら、たぶん村、大変なことになってた」


「だから魔物さんって……まあ、今はいいか」


 いつもなら訂正するところだが、今の雰囲気で突っ込む気にはなれない。


 ミナは俺に身体を預けたまま、ぽつぽつと話し始めた。


 今日やって来た人間たちのこと。


 ファルガ帝国のこと。


 そして、この村のこと。


「私たち、あの人たちよりずっと弱いから」


「弱い?」


「うん。レベルが全然違うの」


 ……レベル?


 俺はその言葉に引っかかった。


「ちょっと待て。お前たちにもレベルがあるのか?」


「あるよ?」


 何を当たり前のことを聞いているんだ、とでも言いたげにミナが首を傾げる。


 マジか。


 俺だけじゃなかったのか。


 LEVEL UPなんて表示が出るから、てっきり俺だけに備わった成長システムみたいなものだと思っていた。


 どうやら、この世界では俺以外の連中にも普通にレベルという概念が存在しているらしい。


 レベル。


 技能。


 種族。


 魔物。


 ……なんだそれ。


 ますますRPGみたいになってきたぞ、この世界。


「じゃあ、ミナたちにも技能があるのか?」


「もちろん」


「昨日の鎧の男が使ってたみたいな……ほら、『固有技能――剣撃』とか」


「ああ、あるよ」


「あるのかよ」


 即答だった。


「ミナは何が使えるんだ?」


「見る?」


「見られるのか?」


「うん」


 ミナは俺から身体を離すと、一歩前へ出た。


 そして、人差し指を立て――。


 何もない空間を、すっと横に払った。


「ほら」


「…………」


 ミナの前に、半透明の板のようなものが現れた。


 淡い光を放つ文字が、その上に並んでいる。


《名前――ミナ》


《種族――ミルスト族》


《年齢――16》


《LEVEL――12》


《固有技能――爪撃》


《受動技能――拳套熟練》


《受動技能――防御反撃》


「……おお」


 思わず声が出た。


 完全にステータス画面じゃねえか。


「これ、他人にも見せられるのか?」


「うん。自分で見せようと思えば」


「なるほど……」


 個人のステータスを共有できるわけか。


 それにしても――。


「レベル十二……」


「低いでしょ?」


「いや」


 俺、まだレベル三なんだけど。


 普通に俺より遥かに高い。


 いつも俺の周りをうろうろして、面白そうなものを片っ端から投入口に突っ込もうとしているこいつが、実は俺よりずっと高レベルだったらしい。


 なんか悔しい。


「魔物さんのも見せてよ」


「俺の?」


「うん!」


「…………」


 俺もできるなら見せてやりたい。


 自分の能力を整理する意味でも、一度ちゃんとステータス画面を見ておきたいところだ。


 ミナがやったみたいに、空中をこう――。


 俺は自分の身体を見る。


 手。


 ない。


 指。


 当然ない。


「…………」


「どうしたの?」


「たぶん無理だ」


「なんで?」


「手がない」


「あっ」


「あっ、じゃねえよ」


 異世界に来てまで、まさか操作方法の段階で詰むとは思わなかった。


 ミナはくすくす笑うと、また俺の隣に腰を下ろした。


 しばらくして。


「ねえ、魔物さん」


「ん?」


「これからも、村にいてくれる?」


「…………」


 俺は少し考えた。


 いや。


 考えるまでもないか。


「俺、一人じゃ動けないんだけど」


「あ」


「だから嫌でもここにいることになるだろ」


「そっか!」


「嬉しそうに言うな」


 でも。


 悪い気はしなかった。


 それからも、ミナはいろいろなことを話してくれた。


 その中で、俺はようやく一つの疑問を口にした。


「そういえば、人間はなんでこの森を欲しがってるんだ?」


「町を作るんだって」


「町?」


「うん。新しい町を作るから、この辺りの木をいっぱい切るって。おじいちゃんが言ってた」


「…………」


 なるほど。


 だから土地を寄越せ、と。


 森を切り開いて、新しい町を造る。


 そのために、この土地に暮らしているミルスト族を追い出そうとしているわけか。


「でも、ここにはお前たちの村があるだろ」


「あるよ」


「それでも?」


「うん」


 ミナの耳が少し垂れた。


「人間は、この森は帝国のものだからって」


 ……そういうことか。


 前世の俺も人間だった。


 だからといって、人間だから人間の味方をしなきゃいけないなんて思わない。


 法律がどうとか。


 帝国の領土がどうとか。


 この世界の事情なんて、まだ俺にはほとんど分からない。


 それでも。


 少なくとも俺自身の感覚では――。


 昔からそこで暮らしている奴らを追い出して、家を壊して。


 その理由が「新しい町を造りたいから」。


 そんなものを、はいそうですか、と受け入れる気にはなれなかった。


「……よし」


「ん?」


「決めた」


「何を?」


「俺も、お前たちを手伝う」


「え?」


 ミナが顔を上げた。


「本当!?」


「ああ」


「でも……」


 ミナが俺を見る。


 正確には、俺の筐体を見る。


「魔物さん、戦えるの?」


「…………」


 痛いところを突くな。


 俺の技能を思い返す。


 演出追加。


 確率調整。


 ブラックリスト。


 昨日はなんとか騎士長を追い返した。


 でも、あれは相手が俺で遊んでくれたからだ。


 俺には剣も振れない。


 魔法も撃てない。


 そもそも自力で一歩も動けない。


 まともな攻撃技能なんて、一つも持っていない。


「……はあ」


 思わずため息が出る。


「せめて勇者にでも転生してればなあ」


「ユウシャ?」


「いや、こっちの話」


 剣を振って。


 魔法を撃って。


 敵をばったばったとなぎ倒す。


 そんな勇者に転生していれば、話はずっと簡単だった。


 なのに。


 よりによってパチンコ台。


 動けない。


 殴れない。


 蹴れない。


 剣も握れない。


 俺にできることなんて――。


「…………」


 待てよ。


 町。


 土地。


 帝国。


 村。


 レベル。


 装備。


 そして――金。


 …………。


 いや。


 あるじゃないか。


「そうか」


「?」


「そうだよ」


 戦えないなら。


 俺自身が戦わなきゃいい。


「ミナ!」


「ん……」


「明日、村の連中を全員集めてくれ」


「…………」


「話がある」


「…………」


「ミナ?」


 返事がない。


 さっきまで俺にもたれかかっていた身体が、妙に重い。


 嫌な予感がして視線を向ける。


「すぅ……」


「…………」


 寝てる。


 俺が一人で真剣に村の未来について考えている間に、こいつ普通に寝やがった。


「おい、ミナ」


「すぅ……」


「人の決意くらい最後まで聞けよ……」


 猫耳がぴくっと動く。


 起きる気配はない。


 ……まあいい。


 明日の朝、もう一度言えばいい。


 眠っているミナを見ながら、俺は頭の中で考えを整理する。


 勇者じゃないからって。


 異世界で何もできないと思うなよ。


 前世でパチンコに人生を壊される前。


 俺だって、日本社会でそれなりにやっていたんだ。


 仕事では結果を出した。


 ボーナスも歩合も、嫌になるくらい稼いだ時期がある。


 その全部を最後にはパチンコに溶かした大馬鹿者だけど。


 それでも。


 そこで身につけた知識や経験まで消えたわけじゃない。


 前世の知識。


 今の俺が持つ技能。


 その二つを組み合わせれば――。


 ミルスト族を、ファルガ帝国に勝たせられる。


 そんな気がした。


 いや。


 まだ戦争になったわけじゃないけどな。


 でも、昨日の騎士長を見れば分かる。


 こちらから何もしなければ、向こうも何もしない。


 そんな相手じゃない。


 なら。


 やられるのを待っている必要もないだろ。


     ◇


 翌日。


 俺の前には、ミルスト族の村人たちが集まっていた。


「本当に大丈夫なのか?」


「村の運命を、昨日来たばかりの奴に任せるのか?」


「そもそも、あれは何なんだ?」


「鉄でできた魔物だろ?」


「そんな奴の言うことを、俺たちが聞くのか?」


 ……聞こえてるぞ。


 全部。


 まあ、当然か。


 俺だって逆の立場なら怪しむ。


 昨日突然森に現れた、光ってしゃべる鉄の箱。


 そんなものに「俺を信じろ」と言われて、はい分かりましたと答える方がおかしい。


「みんな、静かにして!」


 ミナの声が響いた。


 ざわめきが少しずつ収まっていく。


「でも、昨日私たちを助けてくれたのは魔物さんでしょ!」


 ミナは俺の隣に立って、村人たちを見回した。


「魔物さんがいなかったら、あの人たちに何をされてたか分からないよ。だから私は、魔物さんを信じる!」


「俺もだ」


 レオが腕を組みながら前へ出た。


「昨日のことは、この目で見た。少なくとも、こいつが俺たちを売るつもりなら、あんなことをする必要はなかった」


「……私も異論はありません」


 トレシュも続く。


「いまだ正体については疑問が残りますが、昨日我々を救ったことまで否定するつもりはありません」


 トレシュ。


 お前はまだちょっと疑ってるんだな。


 まあいい。


 十分だ。


「ありがとう」


 俺は村人たちへ向き直った。


「みんなが俺を信用できないのは分かる」


 ざわめきが止まる。


「俺だって、自分みたいな見た目の奴が突然現れたら信用しない」


「…………」


「でも、今だけは話を聞いてくれ」


 俺は続ける。


「どうしてお前たちはファルガ帝国を恐れてる?」


 誰も答えない。


「レベルが低いからだろ?」


 何人かの表情が変わる。


「装備も向こうの方がいい。技能も強い。戦える人数だって、向こうの方が圧倒的に多い」


「…………」


「違うか?」


「……違わない」


 誰かが小さく答えた。


「だったら」


 俺は言った。


「その差を埋めればいい」


「……何?」


「俺に、その方法があると言ったらどうする?」


 再びざわめきが起こった。


「そんなことができるのか?」


「どうやって?」


「帝国だぞ?」


「無理に決まってる」


 やっぱり、そうなるよな。


 その中から、一人の村人が声を上げた。


「そもそも、どうして帝国と戦わなきゃいけないんだ!」


 周囲が静かになる。


「勝てるかどうか以前の問題だ! 戦えば死人が出る! 村の皆を危険に晒してまで、わざわざ帝国と敵対する必要があるのか!」


 もっともな意見だ。


 俺はすぐに答えた。


「じゃあ聞くけど」


「……なんだ」


「戦わなければ、向こうも戦わないって保証はあるのか?」


「それは……」


「昨日の騎士長を見ただろ」


 誰も答えない。


「あいつは、お前たちが素直に従えば全部終わりだって言ってたか?」


「…………」


「違うだろ」


 村人たちの間から、小さな声がした。


「……奴隷」


「ん?」


「あいつ……村の娘たちを奴隷にするって言ってた」


「そうだ……」


「俺も聞いた」


 空気が変わる。


「そういうことだ」


 俺は続けた。


「俺は、今すぐ武器を持って帝国へ攻め込めって言ってるんじゃない」


「…………」


「でも、何もしないで待っていれば助かるなんて保証もない」


 だったら。


「向こうが次に来る前に、こっちも準備すればいい」


「準備……?」


「ああ」


 俺は一拍置いた。


「だから――俺を信じてくれ」


「…………」


「俺がお前たちを手伝う」


 まだ小さなざわめきは残っている。


 当然だ。


 全員が突然俺を信用するなんて思っていない。


 それでも。


 さっきまで露骨に反発していた連中も、今は少なくとも俺の話を聞いている。


 なら、十分だ。


「それで……」


 レオが口を開いた。


「具体的に何をする?」


「簡単だ」


 俺は答えた。


「みんなで町へ行く」


「…………」


「…………」


「…………」


 沈黙。


 ミナが首を傾げた。


「町?」


「ああ」


「何しに?」


「商売」


「…………」


「…………」


 今度はさっきより長い沈黙が流れた。


「……は?」


 レオの声だった。


「商売?」


「ああ」


「人間の町で?」


「そうだけど」


「お前、何言ってるんだ?」


 失礼だな。


 俺はいたって真面目だ。


「だって、別に違法じゃないだろ?」


「いや、そういう問題じゃ……」


「ミルスト族が人間の町に入ること自体、法律で禁止されてるのか?」


「それは……」


 村人たちが互いの顔を見る。


 誰も即答しない。


 なら。


 少なくとも完全に不可能というわけではなさそうだ。


「だったら、まず金を稼ぐ」


「金を?」


「ああ」


 昨日の騎士長を思い出す。


 レベル。


 技能。


 装備。


 人数。


 確かに、今のミルスト族には足りないものだらけだ。


 でも。


「金があれば装備を買える」


 村人たちが俺を見る。


「金があれば、必要な物資も揃えられる」


 そして。


「金があれば――他の亜人を雇うことだってできる」


「…………!」


「人数が足りないなら増やせばいい。装備が悪いなら買い替えればいい。自分たちだけで全部やる必要なんてないだろ?」


 もちろん。


 ただ商売して金を稼ぐだけなら、ここまで自信満々には言わない。


 俺がこの考えにたどり着いた理由は、もう一つある。


 昨夜。


 ミナが眠ったあと、俺は改めて自分の技能を確認していた。


 そのとき気づいた。


 昨日の騎士長。


 あいつは最後、文字通り手持ちの金を全部俺に突っ込んだ。


 その大量の遊技。


 大量の経験値。


 そして――。


《経験値精算完了》


《規定経験値に到達しました》


《LEVEL UP》


《新規技能を獲得しました》


 新しく追加されていた技能。


 しかも。


 今までのものとは、少し違う。


《チーム技能――金銭即戦力》


 そう。


 俺には今――。


 新しい力がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。