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異世界パチンコ〜人生を壊された俺が、今度はパチンコ台になりました〜  作者: marumaru


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4/9

パチンコ台の戦い方

「……なんだ、こいつは?」


 鎧の男が足を止めた。


 俺を上から下まで眺め、露骨に眉をひそめる。


「像……か? 妙な形をしているな。それに、なぜ光っている?」


 そりゃそうだ。


 異世界の人間から見れば、森の茂みに突然パチンコ台が置いてある光景なんて意味不明だろう。


 男は俺の周囲を警戒するように見回した。


「先ほどの声は……後ろに隠れている獣人か?」


 そう言って、俺の横を通り過ぎる。


 そして背後を覗き込んだ。


 当然、誰もいない。


「……?」


「探しても無駄だ」


 男が振り返る。


「さっきお前に話しかけたのは、俺だよ」


「…………」


 男はしばらく黙って俺を見つめた。


「お前が?」


「ああ」


「なるほど……新種の魔物か」


 剣を握る手に力が入る。


「醜い魔物の分際で人の言葉を話し、そのうえ俺を愚弄するとは」


 あ。


 まずい。


「死ね」


 剣が振り上げられた。


 ちょっと待て。


 さっきミナに向いていた殺意が、全部こっちに来たんだけど。


 どうする。


 空手で白刃取り?


 無理だ。


 そもそも手がない。


 逃げる?


 もっと無理だ。


 足もない。


 だったら――。


 口だ。


 俺に残されている唯一の武器。


 全力でしゃべるしかない!


「お、お待ちくださいませ、騎士長様!」


 剣がわずかに止まった。


「……なんだ?」


「先ほどの無礼、誠に、誠に申し訳ございませんでした!」


「何?」


「この愚か者、騎士長様ほどの高貴なお方とは知らず、身の程もわきまえぬ暴言を吐いてしまいました! どうかお許しくださいませ!」


 よし。


 止まった。


 いける。


 しゃべり続けろ。


「本来であれば、今すぐこの場に跪き、頭を地面に擦りつけてお詫び申し上げたいところでございます!」


 俺は一拍置いた。


「しかしながら、ご覧の通り、わたくしは生まれつき手足を患っておりまして!」


 いや。


 患ってるっていうか、最初からないんだけど。


「このような姿のままお許しを乞うほかございません!」


「…………」


「そして、どうか誤解なさらないでくださいませ! わたくしは決して、あの野蛮な亜人どもを庇おうとしたわけではございません!」


「なっ……!」


 遠くでレオの顔が引きつった。


「むしろ奴らとは一刻も早く縁を切りたいと考えております! 先ほど騎士長様をお止めしたのも、あの者たちのためではございません!」


 俺はさらに声を張る。


「高貴なる騎士長様のお手を、あのような者どもの血で汚していただきたくなかったのでございます!」


 完璧だ。


 自分で言ってて吐きそうだけど。


「ですから、どうか! 卑劣な言葉で突然お止めした、この無知で愚かなわたくしだけをお責めくださいませ!」


 剣が止まった。


 完全に。


 ……助かった。


「なるほど」


 騎士長は俺を眺める。


「つまり、お前はあの獣人どもの仲間ではないと?」


「もちろんでございます!」


「お前ぇぇぇ!」


 レオの怒声が飛んできた。


「何を言ってやがる! さっき俺たちが助けてやったばかりだろうが! いきなり手のひらを返しやがって! こんなクズどもに――」


 レオがこちらへ来ようとする。


 だが、人間の兵士たちが一斉に武器を向けた。


「レオ!」


 ブレットが制止する。


 俺はその隙に叫んだ。


「黙れ! 無知な獣人め!」


「はあ!?」


「今、俺はこのお方と大事な話をしている! 邪魔をするな!」


「てめえ……!」


 許せ、レオ。


 あとでいくらでも謝る。


 だから今は――。


 俺の芝居に付き合ってくれ。


 これは俺のためでもある。


 お前たちのためでもあるんだ。


「騎士長様」


 俺は再び声を整えた。


「これから、わたくしの価値を証明いたします」


「価値?」


「はい。そして、もし価値があるとお認めいただけましたら、先ほど申し上げたことが嘘ではないと信じていただきたいのです」


「……面白い」


 騎士長が剣を下ろした。


「いいだろう」


 そして口元を歪める。


「本当に価値を証明できたなら、お前の命は助けてやる。場合によっては褒美を与えてもいい」


 褒美?


 人間が魔物に褒美?


 とんだ笑い話だ。


 だが――。


 ここまでは計画通り。


「ありがとうございます」


 俺は投入口を意識する。


「それでは騎士長様。お持ちの金貨を一枚、こちらの穴へお入れください」


「金貨を?」


「はい」


「何をするつもりだ」


「どうぞご安心くださいませ。わたくしの価値を証明するために必要なことでございます」


 騎士長は怪訝そうに俺を見た。


 だが、しばらくすると懐から一枚の金貨を取り出した。


 頼むぞ。


 ここからが本番だ。


 この男の運が、とんでもなく悪くないことを祈るしかない。


 こういうものは最初が肝心なんだ。


 最初に勝たせる。


 気持ちよくさせる。


 もっといけると思わせる。


 そして――。


 気づいたときには、もう遅い。


 少なくとも前世の俺は、そうやって沈んだ。


 レオやトレシュみたいに最初から運が壊滅的じゃなければ、たぶんいける。


 頼む。


 勝ってくれ。


 たった一回。


 俺たち全員の命が懸かった――決勝の一回だ。


 チャリン。


 金貨が投入口へ入る。


《新規遊技物を確認しました》


《貨幣価値を解析》


《使用可能です》


 盤面が光る。


 玉が走る。


 数字が回転する。


 そして――。


 止まった。


「…………」


 出た。


 大当たりじゃない。


 だが。


 ジャラッ。


 投入された一枚より多い金貨が、俺から吐き出された。


「……なに?」


 騎士長の目が見開かれる。


 よし!


 ここだ!


 考える時間を与えるな!


「ご覧いただけましたでしょうか!」


「これは……」


「わたくしは、願いを叶える魔物でございます!」


 もちろん嘘だ。


「願いを……叶える?」


「はい! わたくしにお金をお預けいただければ――」


 一瞬だけ考える。


 適当でいい。


 でかい数字を言え。


「九十パーセントの確率で、より多くのお金をお返しできます!」


 九十パーセント。


 根拠?


 ない。


 今考えた。


「きゅ、九十パーセント……?」


 騎士長の目が金貨と俺の間を往復する。


「この世に……そんな魔物が存在するというのか……?」


 そして、ゆっくりと獣人たちを振り返った。


「貴様ら……!」


 あ。


 嫌な予感。


「このような貴重なものを隠し持っていたのか!」


 ……俺、ついに「もの」になったぞ。


 さっきまで魔物だったのに。


「は……」


 騎士長の肩が震え始めた。


「はは……」


「騎士長様?」


「ははははははは!」


 突然、男が笑い出した。


「天は俺を見放していなかった!」


 完全に目の色が変わっている。


「こいつがあれば……もう帝国のために命を懸ける必要などない!」


 金貨を握りしめる。


「俺は金持ちになれる!」


 笑い声がさらに大きくなる。


「いや、ファルガ帝国一の富豪だ! 違う! 大陸一の富豪にだってなれるぞ!」


 ……かかった。


 想像以上に簡単だった。


「もう一度だ!」


「もちろんでございます」


 金貨が入る。


 回る。


 当たる。


「おおっ!」


 また入る。


 回る。


 外れる。


「……ちっ」


 もう一度。


 当たる。


「ははは! 見ろ! やはり増えるぞ!」


 もう一度。


 外れる。


 外れる。


 また外れる。


 それでも男はやめない。


 いや。


 もう、やめられない。


 その光景を見ていると、嫌でも昔の自分を思い出した。


 勝った。


 負けた。


 次なら勝てる。


 さっき勝ったんだから、また勝てる。


 あと一回。


 もう一回だけ。


 ……そうやって、俺も全部なくした。


《経験値を獲得しました》


《経験値を獲得しました》


《経験値を獲得しました》


 騎士長が遊ぶたび、俺の中に何かが蓄積されていく。


 そして。


《規定経験値に到達しました》


《LEVEL UP》


 来た!


《LEVEL 3に到達しました》


《新規技能を獲得しました》


《技能――確率調整》


「確率調整?」


《遊技結果の当選確率を基準値から上下10%の範囲で調整できます》


 ……おい。


 それって。


 裏で当たりを調整できるってことか?


 とんでもない機能が来たな。


 だが。


 今だけはありがたい。


 これなら――。


 もっと早く終わらせられる。


 俺は確率を下げた。


「もう一度だ!」


 外れ。


「くそっ」


 もう一度。


 外れ。


「なぜだ!」


 もう一度。


 外れ。


「おい!」


 もう一度。


 外れ。


「さっきまで当たっていただろう!」


 知らないね。


 俺は何もしてませんよ。


 ただの魔物ですから。


「次だ!」


 外れ。


「もう一度!」


 外れ。


「次こそ!」


 外れ。


 男の額に汗が浮かぶ。


 さっきまであれほど得意げだった顔が、見る見るうちに歪んでいった。


「おかしい……」


 手元の金貨は、もうほとんど残っていない。


「次は……次こそ当たるはずだ……」


 ああ。


 知ってるよ、その顔。


 鏡があれば見せてやりたい。


 前世の俺も、たぶん同じ顔をしていた。


 最後の金貨が入った。


 数字が回る。


 そして――。


 外れ。


「…………」


 騎士長が固まった。


 もう金貨はない。


《対象者の遊技可能資産を確認》


《使用可能な貨幣が不足しています》


《親密度――0》


《追加遊技物の使用条件を満たしていません》


 よし。


 ここまでだ。


 実は、さっきこいつに斬られそうになった瞬間。


 システムから、もう一つ通知が来ていた。


 あのときは確認している暇なんてなかったが――。


 今なら使える。


《受動技能――ブラックリスト》


《発動条件を満たしました》


「発動」


 俺は静かに告げた。


「ブラックリスト」


「……何?」


 騎士長が顔を上げる。


《ブラックリストを発動します》


《対象者を登録》


「なんだ、その技能は」


 男の顔に初めて不安が浮かんだ。


「貴様、何をした!」


《対象者――遊技継続不可》


《収益価値――なし》


《排除処理を実行します》


「排除……?」


 騎士長の足元が光った。


「なっ――」


 男の身体が一瞬で光に包まれる。


「待て! 何をした! 俺の金を返――」


 消えた。


「…………」


 静寂。


 人間も。


 獣人も。


 俺自身も。


 しばらく何も言えなかった。


「……本当に消えた」


 どこへ飛ばされたんだろう。


 まあいいか。


 少なくともここにはいない。


「騎士長が……消えた?」


 人間の兵士の一人が呟いた。


 ざわめきが広がる。


 今だ。


 俺はできる限り低い声を出した。


「お前たちの指揮官は、俺が始末した」


 兵士たちの動きが止まる。


 もちろん、始末したと言っても、どこかへ飛ばしただけだ。


 死んだかどうかなんて俺にも分からない。


 でも、そんなことをわざわざ教えてやる必要はない。


「次にどうするかは、お前たち次第だ」


 少し間を置く。


「死に急ぐつもりがないなら、今すぐこの森から出ていけ!」


「…………!」


 誰も動かない。


 なら、もう一押し。


「それとも――」


 俺は盤面を光らせた。


「次はお前たちが、消えてみるか?」


「ひっ……!」


 誰かが後ずさった。


 それをきっかけに、張り詰めていたものが一気に崩れた。


「て、撤退だ!」


「戻れ!」


「騎士長を探せ!」


 兵士たちは次々と馬へ飛び乗り、徒歩の者も慌ててそのあとを追っていく。


 あっという間に、人間たちは森の外へ向かって散っていった。


 ……よし。


 なんとかなった。


 実際には、俺が自由に人間を消せるわけじゃない。


 あいつが俺で遊び、金を使い果たして、ブラックリストの発動条件を満たしたからできただけだ。


 でも。


 ハッタリってのは、相手にバレなきゃ本物と同じだ。


「…………」


 ミナが俺を見る。


 レオも俺を見る。


 トレシュも。


 ブレットも。


「えーっと……」


 なんだ、この空気。


 レオがゆっくり近づいてきた。


 まずい。


 さっき「無知な獣人」とか言った。


 怒ってるよな。


 絶対怒ってる。


「お前……」


「いや、待て。あれは作戦で――」


 レオの大きな手が俺の肩――はないので、側面を叩いた。


「最初からそう言え!」


「言ったら作戦にならないだろ!」


「俺は本気で裏切ったと思ったぞ!」


「悪かったって!」


「魔物さん、すごーい!」


 ミナが飛びついてくる。


「うおっ!」


「人間を倒した!」


「倒したっていうか……破産させて追い出しただけだけどな」


 考えてみれば、最悪の戦い方だ。


 剣も使わず。


 魔法も使わず。


 相手の財布だけ空にして、最後は出禁。


 これが俺の戦闘方法なのか。


 ……嫌すぎる。


     ◇


 その夜。


 ミルスト族の村では、小さな宴が開かれた。


 人間たちを追い返した祝い。


 そして。


「魔物さんが村に来たお祝い!」


「だから魔物さんって呼ぶな!」


 どうやら俺の歓迎会も兼ねているらしい。


 今まで名前も知らなかったミルスト族たちが、次々と俺の周りへ集まってくる。


「これが人間を消した魔物か」


「光ってる」


「本当にしゃべるぞ」


「どこが口なんだ?」


「触っていい?」


「順番にしろ! あと変なところに物を入れるな!」


 子供まで寄ってくる。


 耳をぴくぴく動かしながら俺を覗き込む子。


 盤面の光を追いかける子。


 背後へ回って構造を調べようとする子。


 ……なんだろう。


 動物園の珍獣になった気分だ。


 でも。


 悪くない。


 前世の最後。


 俺の周りには誰もいなかった。


 妻も。


 友人も。


 会社の人間も。


 全部、自分で失った。


 最後は一人で、誰にも気づかれずに死んだ。


 それが今は。


 名前も知らない猫耳の連中に囲まれている。


 魔物扱いだけど。


 ……まあ。


 前よりはずっとマシか。


 宴が終わる頃には、村もすっかり静かになっていた。


 俺もようやく一人になる。


 さて。


 確認しておかないとな。


 今日だけで、いろいろありすぎた。


 LEVEL。


 技能。


 遊技できる物。


 親密度。


 ブラックリスト。


 それに、あの確率調整。


 自分でも、自分に何ができるのか分からなくなってきた。


 それに――。


 今日追い返した人間たち。


 あれで終わりとは思えない。


 騎士長まで消されたんだ。


 ファルガ帝国が、このまま黙っているはずがない。


 この先どうするか。


 ちゃんと考えないとな。


「……魔物さん」


 声がした。


「ん?」


 ミナだった。


 宴はもう終わったはずなのに、なぜか一人だけ残っている。


 ミナは俺の隣まで来ると、そのまま身体を預けるように寄りかかった。


「どうした?」


「…………」


 返事がない。


 いつもの騒がしい様子とは少し違う。


 猫耳がわずかに伏せられている。


「ミナ?」


 何か、言いたいことがあるらしい。


 俺は黙って、次の言葉を待った。

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