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異世界パチンコ〜人生を壊された俺が、今度はパチンコ台になりました〜  作者: marumaru


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新しい固有技能、なんかおかしくない?

《LEVEL UP》


 半透明の画面に浮かんだ文字を、俺はしばらく眺めていた。


 レベルアップ。


 異世界。


 この二つの言葉が組み合わさったとき、期待するものなんて大体決まっている。


 筋力上昇。


 魔力上昇。


 新しい魔法。


 あるいは、炎を出したり雷を落としたりする派手な戦闘スキル。


 俺だって別に贅沢を言うつもりはない。


 剣聖になりたいとか、魔王を一撃で倒したいとか、そんな大それたことは望んでいない。


 ただ、一つだけ。


 できれば――。


《LEVEL 2に到達しました》


「おお……!」


《固有技能を獲得しました》


 来た。


 固有技能。


 いかにもそれっぽい。


 これなら期待してもいいだろう。


《固有技能――演出追加》


「…………」


 森を風が吹き抜けた。


 木の葉が、サァァァ……と揺れる。


「……終わり?」


 返事はない。


「いや、待て」


 もう一度、目の前の文字を見る。


《固有技能――演出追加》


 何度見ても変わらない。


「演出って……あの演出?」


 嫌な予感しかしない。


 俺はパチンコ台だ。


 そしてパチンコ台における「演出」なんて、ほぼ一つしかない。


「画面が派手になるだけじゃねえか!」


 思わず叫んだ。


 なんだそれ。


 他の異世界転生なら、レベルが上がればステータスにポイントを振ったり、新しいスキルを覚えたりするんじゃないのか?


 俺も一応、異世界転生者だぞ。


 それなのに、初めて手に入れた固有技能が演出追加?


「その前に動けるようにしろよ!」


 切実だった。


 魔法なんていらない。


 筋力もいらない。


 せめて自力で一メートル移動させてほしい。


 昨日まで人間だった男にとって、一歩も動けないというのは想像以上につらい。


 俺は大木の前に置かれたまま、しばらく自分の二度目の人生について考えた。


 このまま誰も来なかったらどうなるんだろう。


 雨が降ったら?


 錆びるのか?


 台風が来たら?


 倒れるのか?


 そもそも、パチンコ台に寿命ってあるのか?


 そんなことを考えているうちに、本気で不安になってきた。


 ミナの奴、本当に戻ってくるんだろうな。


 ――ガサッ。


 茂みの向こうで音がした。


「!」


 続いて、複数の足音。


「こっち! こっちだよ!」


 聞き覚えのある声が響く。


「ミナ!」


 よかった。


 本当に戻ってきた。


 木々の間から猫耳が飛び出してくる。


 ミナだ。


 その後ろから、さらに三人の獣人が姿を現した。


 一人目は、白髪交じりの髪を後ろで束ねた老人だった。背筋は少し曲がっているが、足取りはしっかりしている。


 二人目は、でかい。


 とにかくでかい。


 俺が人間だった頃でも見上げただろうと思うほど背が高く、腕なんて俺の元の太腿くらいありそうだ。


 そして三人目。


 長い布を何枚も重ねたような服をまとい、首から牙や骨らしきものを下げている。年齢は老人より若そうだが、目つきが鋭い。


 いかにも祭祀とか祈祷師とか、そういう役目をしていそうな格好だった。


「ほら! これ!」


 ミナが俺を指差した。


 いや、人を珍獣みたいに紹介するな。


「こいつにお金を入れたら、いっぱい増えたんだよ!」


「…………」


 三人の視線が一斉に俺へ向く。


 ものすごく居心地が悪い。


「えー……どうも」


 とりあえず挨拶してみた。


 次の瞬間。


「しゃべったぞ!」


 祭祀らしき男が叫んだ。


「やはり魔道具だ!」


「え?」


「卑劣な人間どもめ! ついにこのようなものまで!」


「ちょっと待て。なんの話だ?」


 俺の言葉など聞こえていないかのように、男は俺を睨みつけた。


「人の心を惑わせ、我らの貨幣を偽造し、内側から村を壊すつもりだろう!」


「……は?」


 何を言ってるんだ、こいつ。


「ミナ! その偽りの貨幣を捨てろ!」


「ええっ!?」


 ミナが慌てて後ろへ下がった。


 そこで初めて気づいた。


 こいつ、袋に入れて持ってきたんじゃない。


 服の裾を両手で持ち上げて、その中に大量の爪印石を抱えている。


「でも、これ、さっきこいつから出てきたんだよ?」


「だから危険なのだ! 存在しない貨幣をばら撒けば、村の秩序が乱れる!」


 なるほど。


 言いたいことは分かった。


 つまり俺を、人間側が送り込んだ経済兵器か何かだと思っているらしい。


 いやいや。


 そんな大層なものじゃない。


 ただのパチンコ台だぞ。


「そうだ!」


 今度は大男が声を上げた。


「人間どもめ! 何度来ても同じだ! 俺たちは絶対にこの森を離れん! 森を明け渡すつもりもないぞ!」


「だから俺は人間に送り込まれてないって!」


「黙れ、魔道具!」


「しゃべる魔道具に黙れって言うな!」


 なんなんだ、この村。


 というか、人間と何があったんだ。


 どうやら俺が思っている以上に、ミルスト族と人間の関係は悪いらしい。


 俺がどう説明するべきか考えていると、老人だけは騒ぎに加わらず、静かにミナの前へ歩いていった。


「ミナ。一つ見せておくれ」


「うん」


 老人はミナの服の上から爪印石を一枚取った。


 指で表面をなぞる。


 裏返す。


 光にかざす。


 そして――鼻先に近づけた。


 匂いまで嗅ぐのか。


「…………」


「村長?」


 ミナが呼ぶ。


 どうやらこの老人が村長らしい。


 村長はしばらく爪印石を見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。


「これは偽物ではない」


「なっ……」


 祭祀の顔色が変わった。


「そんなはずはありません!」


「爪印の深さも正しい。石の削り方も同じだ。それに、この匂いは我らが使う樹液のものだ」


 村長はもう一度、爪印石を鼻に近づける。


「間違いない。これは我らの貨幣だ」


「ほら!」


 なぜかミナが得意そうに胸を張った。


 俺も少し安心した。


 当然だ。


 パチンコ屋がどれだけ客から金を吸い取ろうが、大当たりした客に偽金を渡すなんて聞いたことがない。


 ……いや、待て。


 俺の場合、貨幣そのものを吐き出しているんだよな。


 それはそれでおかしくないか?


「しかし!」


 祭祀はまだ納得していなかった。


「人間が我らの同胞を捕らえたのかもしれません! そして製法を吐かせたのでは!」


「おい、想像だけで話を広げるな」


「魔道具は黙っていろ!」


「だから俺にも喋らせろって!」


 大男が俺の前に出る。


「やはり壊したほうが早いのでは?」


「おい」


 太い腕が持ち上がった。


「ちょっと待て。話し合おう。俺は平和主義者だ」


「村に害をなすものを残してはおけん!」


「待て待て待て!」


 あんな腕で殴られたらどうなる?


 パチンコ台だから意外と頑丈なのか?


 いや、試したくない。


 俺が必死に説得しようとした、そのときだった。


《固有技能を使用しますか?》


「……え?」


 今?


 演出追加を?


 こんな状況で?


 大男が拳を握る。


 選んでいる暇はない。


「起動!」


《固有技能――演出追加を起動します》


 ブゥン――。


 突然、俺の盤面が明るくなった。


「なっ!?」


 大男が足を止める。


 赤。


 青。


 金。


 次々と光が走り、中央の画面が眩しいほど輝く。


 おお。


 思ったよりすごい。


 これなら炎の竜とか、伝説の勇者とか、何かとんでもない映像が――。


 画面中央に一本の棒が現れた。


 先端には、ふわふわした羽。


 小さな鈴。


 キラキラ光る紐。


 それが。


 フリフリ。


 フリフリ。


 左右に揺れ始めた。


「…………」


 俺は言葉を失った。


 なんだこれ。


 いや、知ってる。


 知ってるけど。


「逗猫棒じゃねえか!」


 よりによってこれ!?


 これが俺の固有技能!?


 異世界転生して、レベルを上げて、ようやく手に入れた固有技能が――猫じゃらし!?


「ふざけんな!」


 俺が叫ぶ。


 しかし、誰も反応しなかった。


「…………」


 村長。


 祭祀。


 大男。


 ミナ。


 全員が画面を見ている。


 フリフリ。


 四人の目が右へ。


 フリフリ。


 左へ。


 フリフリ。


 また右へ。


「…………」


 嘘だろ。


 耳まで動いてる。


 特にミナなんて、尻尾まで左右に揺れている。


 さっきまで俺を殴ろうとしていた大男ですら、完全に画面へ釘付けだ。


 もしかして。


 この技能。


 思っていたより使えるんじゃないか?


「……なあ」


「…………」


「今、金を入れたら」


 四人の耳がぴくりと動いた。


 俺はできるだけ静かな声で続けた。


「もっと面白いことが起きるかもしれないぞ?」


「…………」


 我ながらひどい。


 悪魔の囁きそのものだ。


「わ、私は騙されんぞ!」


 最初に声を上げたのは祭祀だった。


「こんなもの、人間の卑劣な罠に決まっている!」


「そうか」


「当然だ!」


「じゃあ入れなくていいぞ」


「…………」


 フリフリ。


「…………」


 祭祀の視線が動く。


「……一枚だけなら」


「おい」


 さっきまでの威勢はどこへ行った。


 祭祀が爪印石を一枚取り出し、投入口へ入れる。


 ガコン。


 玉が走り始める。


 祭祀は食い入るように画面を見つめた。


 そして。


 何も起こらなかった。


「あ」


 猫じゃらしが止まった。


 スーッと画面の外へ消えていく。


「…………」


 祭祀の耳が垂れた。


「私の……貨幣……」


 知らんがな。


「次は俺だ!」


「お前もやるのかよ!」


 大男が爪印石を入れた。


 結果。


 ハズレ。


「…………」


 大男の耳も垂れた。


 なんだろう。


 ちょっとかわいそうになってきた。


「じゃあ、次は私!」


「待てミナ」


「大丈夫!」


「何を根拠に――」


 ガコン。


 もう入れていた。


 玉が盤面を走る。


 数字が回る。


 そして。


 キュインッ!


「嘘だろ」


 7。


 7。


 7。


「やったあああ!」


 ジャラジャラジャラジャラ――!


 大量の爪印石が吐き出される。


 ミナが飛び跳ねた。


「また増えた!」


「…………」


 俺は喜ぶミナを見ながら、本気で疑問に思った。


 こいつ。


 何か持ってないか?


 強運とか。


 幸運補正とか。


 そういう異世界らしい隠し能力。


 二回やって二回とも大当たりなんて、いくらなんでもおかしいだろ。


「もう一度、この魔道具を調べる」


 祭祀が真顔で言った。


「さっき自分から金入れてただろ」


「それとこれは別だ!」


 それから四人は、俺の周囲を念入りに調べ始めた。


 裏を見る。


 側面を叩く。


 下を覗き込む。


「そこ触るな」


「ここは?」


「分からんけど触るな」


「ここは?」


「だから遊ぶな、ミナ」


 しばらく調べても、人間が隠れているわけでも、危険な武器が仕込まれているわけでもない。


 結局分かったのは、今の俺が自分では一歩も動けず、貨幣を入れられると玉が動き、外れれば貨幣を飲み込み、当たれば貨幣を吐き出す。


 それだけだった。


「どうする、村長」


 大男が尋ねる。


 村長はすぐには答えなかった。


 地面に積まれた爪印石を見つめている。


「少なくとも、今すぐ壊す必要はなかろう」


「しかし!」


「こやつが何者なのかは、まだ分からん。村へ運び込むのも早い」


 村長は俺を見る。


「しばらくここに置き、様子を見る」


「俺の意思は?」


「お前は動けんのだろう?」


「……はい」


 何も言い返せない。


「それとミナ」


「なに?」


「むやみに貨幣を増やすな」


「どうして?」


「貨幣は、多ければよいというものではない」


 ミナが首を傾げる。


 村長は手の中の爪印石を見つめながら続けた。


「昔、人間の町で暮らしたことがある。あちらでも、貨幣が急に増えれば物の値が上がることがあった。皆が多くの貨幣を持てば、それだけで皆が豊かになるわけではない」


「よく分かんない」


「俺も昔は分かってなかったよ」


 いや、俺の場合は別の意味で金を分かっていなかっただけだが。


 でも村長の言うことは正しい。


 もし俺が本当に無から貨幣を作っているなら、ミナが毎日大当たりを続けるだけでも、いずれ村の経済がおかしくなる可能性がある。


 待てよ。


 それって結構まずくないか?


 俺、本当に経済兵器になりかねないんじゃ……。


「じゃあさ」


 ミナが突然言った。


「ん?」


「お金じゃなかったら?」


「どういうことだ?」


 ミナがしゃがみ込み、腰の小さな袋をごそごそと探り始めた。


 そして取り出した。


 何かの実を干したような、小さな食べ物だった。


「これ」


「……それが?」


「これを入れたら、どうなるの?」


「…………」


 村長が俺を見る。


 祭祀も俺を見る。


 大男も俺を見る。


 最後に、ミナが期待に満ちた目で俺を見る。


 四対の猫耳まで、こちらへ向いていた。


「…………」


 いや。


「俺に聞くなよ」

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