第九話 上田の武者たち
信濃の社との連絡がまとまり、対面の日取りが決まったのは、それから半月ほど後のことだった。
「向こうの社は、上田の城跡近くにあるそうです。皆様さえよろしければ、そちらへ足を運んでいただきたいと」
宮下の言葉に、龍馬が真っ先に頷いた。
「面白い。行こうではないか」
出雲市駅から特急、そして乗り継いで新幹線。生まれて初めて見る「動く箱」に、六人は最初こそ落ち着かない様子だったが、窓の外を流れる景色に、次第に言葉を失っていった。
「これほどの速さで大地が流れるとは……」
卑弥呼が窓に額をつけんばかりにして呟く隣で、義経は「馬より速いとは、拙者もまだまだ修行が足りぬ」と、妙な感心の仕方をしていた。
長野に降り立つと、案内の者に連れられ、一行は上田城跡公園へ向かった。石垣と、色づき始めた木々に囲まれたその一角に、待ち合わせの座敷が用意されていた。
中に入った瞬間、六人――いや、航も含めた七人は、その場の空気に息を呑んだ。
座敷にはすでに、六つの人影があった。
鎧姿のまま、静かに腕を組む恰幅の良い武将。それと対峙するように、少し離れた場所で目を閉じ、瞑想するように座る、僧形にも見える壮年の武将。傍らには、槍を抱えたまま油断なくあたりを窺う、精悍な若武者。部屋の隅で、地図らしきものを黙々と広げている、片眼に眼帯をした軍師風の男。そして、薙刀を膝の上に置いたまま、鋭い目でこちらを見据える、凛々しい女武者。最後に、一同から少し離れて座り、静かに全体を見渡している、白髪の老将。
「――ようこそ、いらっしゃいました」
案内役の神職が声をかけると、恰幅の良い武将が、ゆっくりと立ち上がった。
「甲斐の武田晴信じゃ。此度は、遠路よりご足労いただき、かたじけない」
その名乗りに、義経がわずかに目を見開いた。武田信玄――後世、その名を知らぬ者はいない、戦国最強とも謳われた武将だった。
続いて、僧形の武将が静かに一礼した。
「越後の上杉輝虎……いや、今は謙信と名乗っておる。武田殿とは、川中島にて幾度も刃を交えた仲じゃ」
その一言に、座敷の空気がぴりりと張り詰めた。宿敵同士が、時代を超えて同じ座敷に居合わせている。その事実の重さに、航は思わず唾を飲んだ。
若武者が、槍を置いて頭を下げる。
「真田幸村と申す。此度は、皆々様にお会いできて光栄にござる」
軍師風の男が、地図から顔も上げずに名乗った。
「山本勘助。よしなに」
薙刀の女武者が、鋭い視線のまま口を開いた。
「木曽の巴じゃ。此度の“召集”とやら、いささか腑に落ちぬところもあるが……まあ、よろしく頼む」
最後に、白髪の老将が、穏やかな声で締めくくった。
「木曽義仲じゃ。巴とは、古くからの主従での」
六人の名乗りが終わると、座敷にしばし、探るような沈黙が流れた。信玄と謙信は、互いに目を合わせようとせず、義経は幸村の構えに何か通じるものを感じたのか、じっとその横顔を見つめている。
「なるほど」
龍馬が、その空気を破るように、あっけらかんと言った。
「聞いてはいたが、見事に“戦”一色じゃな。わしらとは、えらい違いじゃ」
「そちらは、政と学問と芸道が中心と伺った」
信玄が低く応じる。
「戦一色の我らと、それ以外の方々。此度の“召集”とやら、やはり何か意図があるとしか思えぬな」
一葉が、静かに、しかしはっきりと口を開いた。
「私たちも、同じことを考えておりました。もし本当に、何者かの意図があるのなら――その目的を探るためにも、両組で力を合わせるべきではないでしょうか」
その提案に、謙信がわずかに目を開けた。
「……道理じゃな。宿敵とも、手を組む時が来たか」
信玄が、皮肉げに口の端を上げる。
「面白い。乗ろうではないか」
こうして、時代も、生き様も異なる十二人――いや、十三人目の航を加えた一団は、上田の城跡の一角で、静かに手を結ぶことになった。
窓の外には、色づき始めた信濃の山々が広がっている。
だが、この対面が本当の意味を持つのは、まだ少し先のことだった。




