第十話 十二人の符合
対面から三日、両組は上田の社務所の奥座敷に机を並べ、由緒書きや古文書を持ち寄っていた。
「出雲の記録では、迷い込んだ客人は、いつも一人か二人。此度のように六人まとまって、というのは前例がない」
宮下が、持参した写しを広げながら説明すると、信濃側で応対していた老神職も頷いた。
「こちらも同様です。ただ、一つだけ気になる記述がございました」
老神職が指し示したのは、色あせた巻物の一節だった。
「かつて――ちょうど三百年ほど前にも、似たような“大規模な客人”が現れたという言い伝えが。ただし、こちらの記録は非常に断片的で、詳しいことは分かっておりません」
「三百年前、というと……」
一葉が眉を寄せる。山本勘助が地図を広げたまま、静かに口を挟んだ。
「元禄の頃、ということになるか。天下泰平の世の話じゃな」
「その時も、六人か十二人か……人数はともかく、複数名が同時に現れたと」
宮下が続けると、卑弥呼がふと呟いた。
「三百年前も、今も。何かの周期があるということか」
座敷に、緊張した沈黙が落ちる。真田幸村が、静かに手を挙げた。
「一つ、伺いたい。我らが目覚める直前に見た光――皆、同じものであったか」
その問いに、信濃組の面々が顔を見合わせる。武田信玄が低く答えた。
「儂は、陣中で采配を振るっていた最中、青白い光と共に、意識が途切れた」
「わしもじゃ」
上杉謙信が続く。木曽義仲と巴も、それぞれ似たような光景を語った。
「出雲組の皆様と、まったく同じですね」
一葉が、手元の帳面に素早く書き付けながら言った。
「時代も、場所も違うのに、目覚める直前の現象だけは共通している。これは、偶然ではなく、明らかに“同じ何か”が働いていると考えるべきでしょう」
龍馬が腕を組み、天井を睨むように言った。
「三百年前にも同じことがあったのなら、その時の客人がどうなったか、記録には残っておらんのか」
「そこが、厄介なところでして」
老神職が、困ったように首を振った。
「その一件については、当時の社の記録が、ある時期を境に、ぱったりと途絶えているのです。まるで、意図的に消されたかのように」
「消された……?」
義経が、鋭く反応する。
「誰かが、都合の悪い記録を消した、ということか」
「断定はできません。ですが、可能性としては、否めません」
その言葉に、座敷の空気が、一段と張り詰めた。
「つまり」航が、震える声で口を挟んだ。「今回のことにも、記録を消すような“何者か”が、関わっているかもしれない、ってことですか」
誰も、すぐには答えなかった。
沈黙を破ったのは、山本勘助だった。
「憶測を重ねても埒があかぬ。まずは、三百年前の記録が途絶える直前まで、何が書かれていたか。それを丹念に洗い直すのが先じゃろう」
その提案に、全員が頷いた。
こうして、十二人と航は、山と積まれた古文書を前に、それぞれ手分けして目を通していくことになった。
窓の外はすでに夕暮れ。上田の空が、燃えるような朱に染まっていく。
その静かな座敷の片隅で、卑弥呼だけが、何かに気づいたように、ふと巻物の一点で手を止めていた。
「――これは」
誰にともなく漏れたその呟きに、航は思わず振り返った。




