第七話 もう一組の客人
「別の場所にも、同じような六名が現れている、と」
龍馬が念を押すように繰り返すと、宮下は静かに頷いた。
「はい。詳しい経緯までは、私どもも把握しきれておりません。ですが、各地の社寺には、私どもと同じように、代々“客人”についての言い伝えを守っている家がございます。その一つ、信濃の社から、つい先だって連絡が参りました」
「信濃、というと……」
航が呟くと、宮下は懐から一枚の書状の写しらしきものを取り出した。
「向こうの記録によれば、皆様と同じ夜――こちらの時間で申せば、神在祭の初日の夜に、六名の“客人”が出現した、と。年代も、身分もばらばら。ただし、こちらと違う点が一つ」
「違う点?」
「向こうに現れたのは、いずれも――戦にまつわる人物ばかりだそうです」
座敷の空気が、また一段と張り詰めた。
「戦にまつわる、か」義経が低く呟く。「拙者たちのように、学問や茶の湯に生きた者はおらぬ、ということじゃな」
「左様です。此度の“客人”は、時代も分野もばらばらに選ばれたわけではなく、何かしらの基準に従って、意図的に組み合わされているのではないか――そう、私どもは見ております」
一葉が、静かに口を開いた。
「私たちの組は、武人が二人、学者や芸道の者が二人、祭祀の者が一人、そして政に近い者が一人。まるで、何かの縮図のようですね」
その一言に、航ははっとした。
卑弥呼――祭祀と統治。紫式部――学問と物語。義経――武。利休――芸道と美意識。龍馬――変革と政。そして一葉――市井の暮らしと言葉。
まるで、日本という国の歴史そのものを、六つの断片に切り取ったかのような組み合わせだった。
「宮下さん」航は思わず尋ねた。「これって、僕たちが試されてる、ってことですか。それとも……」
「分かりません。ただ、一つだけ申し上げられるのは」
宮下は、これまでで一番硬い声で言った。
「此度のようなことは、私どもの知る限りの記録の中にも、前例がございません。皆様のような方が、複数の場所に、同時に、意図を持って集められている。これは、偶然の“迷い込み”ではなく――何者かによる、明確な“召集”である可能性が高いということです」
「召集……」
卑弥呼が、その言葉を噛みしめるように繰り返した。
「誰が、何のために」
「それを、これから突き止めねばなりません」
宮下は座敷の一同を見渡し、静かに、しかしはっきりと告げた。
「幸い、信濃の社とは連絡が取れております。もしよろしければ、近いうちに、向こうの“客人”の方々と、一度お会いいただくことになるかもしれません」
その言葉に、六人は互いの顔を見合わせた。自分たちと同じ境遇の、見知らぬ六人。武にまつわる者たちだという、その顔ぶれ。
「面白くなってきたのう」
龍馬が、緊張を吹き飛ばすように、ふっと笑った。
「同じ立場の者と会えるとは、そうそうない機会じゃ。なあ、皆の衆」
その軽口に、義経が僅かに口の端を上げ、紫式部が呆れたように、しかしどこか安堵したように息を吐いた。利休だけは、相変わらず表情を変えぬまま、静かに茶碗を磨き続けていた。
航は、六人の様子を見ながら、胸の内で密かに呟いた。
――僕たちの、出雲での日々は。
もう、ただの「不思議な同居人たちとの生活」では、済まなくなりつつあるのかもしれない。
神在月の空の下、新たな謎の幕が、静かに上がり始めていた。




