↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/24

第七話 もう一組の客人

「別の場所にも、同じような六名が現れている、と」


 龍馬が念を押すように繰り返すと、宮下は静かに頷いた。


「はい。詳しい経緯までは、私どもも把握しきれておりません。ですが、各地の社寺には、私どもと同じように、代々“客人”についての言い伝えを守っている家がございます。その一つ、信濃の社から、つい先だって連絡が参りました」


「信濃、というと……」


 航が呟くと、宮下は懐から一枚の書状の写しらしきものを取り出した。


「向こうの記録によれば、皆様と同じ夜――こちらの時間で申せば、神在祭の初日の夜に、六名の“客人”が出現した、と。年代も、身分もばらばら。ただし、こちらと違う点が一つ」


「違う点?」


「向こうに現れたのは、いずれも――戦にまつわる人物ばかりだそうです」


 座敷の空気が、また一段と張り詰めた。


「戦にまつわる、か」義経が低く呟く。「拙者たちのように、学問や茶の湯に生きた者はおらぬ、ということじゃな」


「左様です。此度の“客人”は、時代も分野もばらばらに選ばれたわけではなく、何かしらの基準に従って、意図的に組み合わされているのではないか――そう、私どもは見ております」


 一葉が、静かに口を開いた。


「私たちの組は、武人が二人、学者や芸道の者が二人、祭祀の者が一人、そして政に近い者が一人。まるで、何かの縮図のようですね」


 その一言に、航ははっとした。


 卑弥呼――祭祀と統治。紫式部――学問と物語。義経――武。利休――芸道と美意識。龍馬――変革と政。そして一葉――市井の暮らしと言葉。


 まるで、日本という国の歴史そのものを、六つの断片に切り取ったかのような組み合わせだった。


「宮下さん」航は思わず尋ねた。「これって、僕たちが試されてる、ってことですか。それとも……」


「分かりません。ただ、一つだけ申し上げられるのは」


 宮下は、これまでで一番硬い声で言った。


「此度のようなことは、私どもの知る限りの記録の中にも、前例がございません。皆様のような方が、複数の場所に、同時に、意図を持って集められている。これは、偶然の“迷い込み”ではなく――何者かによる、明確な“召集”である可能性が高いということです」


「召集……」


 卑弥呼が、その言葉を噛みしめるように繰り返した。


「誰が、何のために」


「それを、これから突き止めねばなりません」


 宮下は座敷の一同を見渡し、静かに、しかしはっきりと告げた。


「幸い、信濃の社とは連絡が取れております。もしよろしければ、近いうちに、向こうの“客人”の方々と、一度お会いいただくことになるかもしれません」


 その言葉に、六人は互いの顔を見合わせた。自分たちと同じ境遇の、見知らぬ六人。武にまつわる者たちだという、その顔ぶれ。


「面白くなってきたのう」


 龍馬が、緊張を吹き飛ばすように、ふっと笑った。


「同じ立場の者と会えるとは、そうそうない機会じゃ。なあ、皆の衆」


 その軽口に、義経が僅かに口の端を上げ、紫式部が呆れたように、しかしどこか安堵したように息を吐いた。利休だけは、相変わらず表情を変えぬまま、静かに茶碗を磨き続けていた。


 航は、六人の様子を見ながら、胸の内で密かに呟いた。


 ――僕たちの、出雲での日々は。


 もう、ただの「不思議な同居人たちとの生活」では、済まなくなりつつあるのかもしれない。


 神在月の空の下、新たな謎の幕が、静かに上がり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。