第六話 小さな箱の中の騒ぎ
バイト帰りの六人が座敷に揃うと、決まって始まるのが「今日の失敗自慢」だった。
「聞いてくれ航、今日は釣り銭を三度も間違えてな。店主に泣きつかれたわ」
龍馬が笑いながらそう言うと、義経が「拙者などレジの機械に指を挟まれ申した」と大真面目に返し、座敷にどっと笑いが起きる。一葉は「お二人とも、そろそろ慣れてもよい頃合いでは」と呆れながらも、口元は緩んでいた。
その日、航が古道具屋で安く買ってきた中古のテレビが、初めて座敷に灯った。
「おお、これが噂の……」
義経が食い入るように画面を覗き込む。最初こそバラエティ番組に大はしゃぎしていた六人だったが、チャンネルが夕方のニュースに変わった瞬間、空気が変わった。
『――さて、続いてのニュースです。今年七月、世間を騒がせたいわゆる“ノストラダムスの大予言”ですが、幸い、あの時は何事もなく過ぎました。しかし専門家によれば、その前後から、全国各地で説明のつかない現象の報告が相次いでいるということです』
画面には、深夜の交差点に一瞬だけ映り込んだという青白い光の映像や、突然行方が分からなくなり数時間後にまったく別の場所で発見されたという人物のインタビューが流れていた。
「……この光」
卑弥呼が、画面を指して低く呟いた。
「わたくしたちが目を覚ました夜に見たものと、よく似ています」
座敷が静まり返った。義経が腕を組み、利休はじっと画面を見つめたまま動かない。龍馬でさえ、珍しく笑みを消していた。
「つまり……」航は乾いた声で言った。「僕たちだけじゃなくて、他の場所でも、似たようなことが起きてるってことですか」
「そう考えるのが、自然でしょうね」
一葉が静かに言った。
「宮下様がおっしゃっていた“異変”というのは、私たちだけの話ではないのかもしれません」
その夜、六人と航は珍しく、遅くまで座敷で言葉を交わした。誰からともなく、それぞれが目を覚ました瞬間の記憶を、もう一度細かく語り合った。
卑弥呼は、目覚める直前、遠くで祭りの太鼓のような音を聞いた気がすると言った。紫式部は、意識が途切れる寸前、誰かに名を呼ばれたような感覚があったと語った。義経は、剣を振るっていた最中の記憶が唐突に途切れたことを、少し悔しそうに話した。利休は、茶を点てていた手が、ふと重くなった感覚だけを覚えていると言った。龍馬は、船の上で誰かと話していた記憶の途中で、ふつりと意識が飛んだと言った。一葉だけは、静かに、筆を置いた直後の記憶がないのだと呟いた。
バラバラのようで、どこか共通する何かがある。航にはそう思えてならなかった。
翌朝、いつも通りの朝食の席に、思わぬ来客があった。
「おはようございます。朝早くに失礼いたします」
現れたのは、宮下だった。その表情は、これまでよりも幾分か硬い。
「実は、昨夜のうちに、大社の方でも動きがございました。この地に留まる皆様の他にも――どうやら、同じような“客人”が、別の場所にも現れているようなのです」
六人と航は、思わず顔を見合わせた。
「それも、皆様と同じ、六名」
宮下の一言に、座敷の空気が凍りついた。
「同じ、六名……?」
龍馬が、初めて声を震わせた。宮下は静かに頷き、懐から一枚の紙を取り出した。
「詳細は、まだこちらでも掴みきれておりません。ですが――」
宮下は、六人の顔を、そして航の顔を、真っ直ぐに見つめた。
「此度の“異変”は、私どもが考えていたよりも、ずっと大きなものかもしれません」




