↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/24

第十五話 老いぬ男

 宮下が戻ってきたのは、日が暮れかけた頃だった。手には、古びた一冊のアルバムのようなものを抱えている。


「お待たせして、申し訳ございません」


 その声は、明らかに落ち着きを失っていた。座敷に腰を下ろすと、宮下は震える手で、アルバムを開いた。


「一葉様の仰る通りでした。この筆跡……大社の古い記録に、確かに残っておりました」


 開かれたページには、色あせた白黒写真が貼られていた。神職の装束を纏った、まだ若い男の写真。傍らに、手書きの記録が添えられている。


「――蔵本欽也。今から、およそ四十年前まで、この社に仕えていた神職の一人です」


「四十年前……」


 航が呟くと、宮下は硬い表情のまま頷いた。


「蔵本は、当時から古美術に異常な執着を見せる方でした。神在祭の折に迷い込んだ“客人”の話を、誰よりも熱心に調べ、記録していたと聞いています。ですが、ある年――何人かの“客人”が持っていたはずの品が、忽然と姿を消す事件が起きました」


「まさか」


 龍馬が、眉をひそめる。


「蔵本が、盗んだ、ということか」


「証拠はありませんでした。ですが、疑いをかけられた蔵本は、その直後、社を去りました。以来、消息は分かっておりません」


 宮下は、震える手で、アルバムのもう一枚のページをめくった。そこには、比較的新しい写真が貼られていた。神門通りらしき場所で、遠目に撮られた、白髪の男の写真。


「これは……三年前、商店会の防犯カメラに偶然映っていたものです。当時、蔵本によく似ていると噂になったのですが……」


 一葉が、二枚の写真を並べて、じっと見比べた。四十年前の若い神職と、三年前の白髪の男。時の隔たりを考えれば、当然、別人にしか見えない。


 だが。


「……顔立ちが、同じです」


 一葉の一言に、座敷が凍りついた。


「四十年経てば、人はもっと老いるはずです。白髪になっているとはいえ、この輪郭、この目元……あまりに、変わっていません」


 卑弥呼が、静かに、しかし確信めいた声で言った。


「その者、時を超える術に、深く触れすぎたのではないか」


 誰も、その言葉を笑い飛ばせなかった。


 武田信玄が、低く唸る。


「三百年前の一件も、蔵本の仕業だとすれば、辻褄が合わぬな。四十年前ならまだしも、三百年生きているとは、さすがに」


「あるいは」


 利休が、静かに口を開いた。


「蔵本自身も、かつての“客人”であったとしたら、いかがか」


 その一言に、座敷の空気が、一変した。


「つまり……」航が、掠れた声で言った。「蔵本さん自身も、昔、時を超えてこの地に迷い込んだ人で、還る術を悪用して、ずっと生きながらえてる、ってことですか」


「憶測に過ぎません。ですが」


 宮下は、深く息を吐いた。


「もし、その通りだとすれば――蔵本にとって、還るための鏡は、単なる盗品ではないのかもしれません。己が長く生きながらえるための、命綱そのものである可能性がございます」


 座敷に、重い沈黙が満ちた。


 真田幸村が、静かに立ち上がった。


「相手の狙いが分かった以上、悠長にしてはおれぬ。次に鏡を狙うなら、必ず動きがあるはずじゃ」


「守るだけでは、埒が明かん」


 義経が、拳を握りしめる。


「拙者たちの方から、蔵本とやらを見つけ出すべきではないか」


 龍馬が、腕を組み、皆を見渡した。


「賛成じゃ。じゃが、相手の居所が分からんうちは、迂闊には動けん」


 宮下は、静かに、しかし決意のこもった声で言った。


「手がかりは、一つございます。三年前の写真が撮られた場所――神門通りの、ある店の近くです」


 全員の視線が、宮下に集まった。


「その店とは」


 航が問うと、宮下は、静かに、しかし重い声で告げた。


「錦光堂です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。