第十四話 錦光堂の告白
「――太刀と原稿、そろそろ返していただきたいのですが」
航が努めて何気ない調子でそう切り出すと、錦光堂の店主は、あからさまに視線を泳がせた。
「あ、ああ……それが、その」
店主の手が、小刻みに震えている。義経が、無言のまま一歩前に出ると、店主はびくりと肩を跳ねさせた。
「まさか」
龍馬が、静かに、しかし逃げ場を塞ぐように店の入り口に立った。
「もう、手元にないのではないか」
図星を突かれた店主は、がっくりと肩を落とし、カウンターに両手をついた。
「……すみません。もう、売ってしまったんです」
座敷に沈黙が落ちる。一葉が、静かに、しかし鋭く問うた。
「誰に、ですか」
「分かりません。名乗らない客だったんです」
店主は、震える声で語り始めた。
「三週間ほど前でした。突然、店に来た年配の男性が、太刀と原稿の写真を見せろと言ってきて……鑑定に出したばかりだと言ったら、値段は言い値でいいから、とにかく今すぐ譲ってくれと」
「言い値、というと」
「相場の何十倍、という額でした。正直、うちの経営が苦しかったこともあって……つい」
店主は、うなだれたまま続けた。
「その方、妙なことを言ってたんです。“出雲の神在祭にゆかりのある品なら、他に何かないか”と。あなた方から預かったものの出所は言えないと突っぱねましたが……もしかして、あの方は、最初から」
「最初から、皆様の出所を知っていた、ということですか」
宮下が、静かに問う。店主は、力なく頷いた。
「今にして思えば、そうとしか。名刺も、連絡先も、何も残していきませんでした。ただ、一つだけ――」
店主は、レジの奥から一枚の紙切れを取り出した。
「代金を払う際、この用紙に一筆、何か書き付けていったんです。妙な字でした」
差し出された紙には、達筆とも崩し字ともつかない、独特の筆致で、こう記されていた。
「――“還る術は、我が手に。次は、鏡を”」
その一文を読んだ瞬間、卑弥呼が、無意識に懐を強く押さえた。
「鏡を、狙っている……」
座敷にいた全員の顔から、血の気が引いた。
「間違いない」
武田信玄が、低く唸る。
「三百年前と同じ手口じゃ。信頼できそうな者を介して、品を奪う。そして、次の的は、卑弥呼殿の鏡」
店主は、蒼白な顔で頭を下げた。
「本当に、すみません……こんなことになるとは」
「店主殿を責めても、詮無きことじゃ」
真田幸村が、静かに口を挟んだ。
「相手は、こちらの弱みを見越して動いておる。むしろ、この紙切れが、初めての手がかりじゃ」
一葉が、その紙を丁寧に受け取り、じっと見つめた。
「この筆致……どこかで見た覚えがある気がします」
「見た覚え、とは」
航が問うと、一葉は、記憶を辿るように目を伏せた。
「はっきりとは、まだ。ですが……」
一葉は顔を上げ、宮下の方を、まっすぐに見た。
「宮下様。この筆跡、大社の由緒書きや、社務所の書類の中に、似たものはございませんか」
その問いに、宮下の表情が、初めて大きく揺れた。
「……確認いたします。少々、お時間をいただけますか」
宮下は、そう言い残すと、逃げるように足早に店を出ていった。
その後ろ姿を見送りながら、航の胸の中で、ある一つの疑念が、拭いがたく膨らんでいった。




