91:やる気スイッチ
これは青春と呼ぶべきか修羅場と呼ぶべきか
アカリとサキからの説得という名の脅迫に屈してルナと同じようにご褒美を設定せざるを得なかった。
流石に同じ条件というわけにはいかないのでサキは現在よりも高い順位、
アカリには苦手教科でクラス順位10位以内という設定に落ち着かせることができた。
しかしながら一つだけ言うことを聞くという約束でどうしてこうもやる気になるのかが分からない。
そりゃ彼女たちからは嫌われていないというかむしろ好意的にみられていることは分かっている。
だからと言ってここまで積極的に動くのは俺の浅い恋愛経験では理解できなかった。
「・・・というかなんで私が教師役になっているの?」
最初のうちは学年も上ということでサキが俺たちを教えていたのに気づけばなぜか俺が3人に教えることになっていた。いや、本当になぜなんだ?
「いやまさかユイがここまで頭良いとは思わなかったからな。後英語教えられるのはでかいだろ」
先ほどまでルナの頭をどつきながら理科を教えていたサキは現在自分の宿題なのだろう英語のプリントをこちらに教わりながら解いている。
断言できるが元の体は決して頭が良いとは言えないレベルだった。どちらかと言えばアカリに近いタイプであり誰かに教えるなんて到底不可能なレベルだった。
だがこの体に変わってから今のところ勉強で分からないことがないレベルで簡単に思えている。
悲しいのは俺が((彼女))に近づくほどこの体に適応し、その能力を生かせているということだろう。
今だって回答に困っているサキにすんなりと答えを教えることができる。・・・ただ・・・
「ここの翻訳は"貴方は私の身も心も虜にしました。"ですよ」
油断するとおかしな行動を取る。今だって耳元でささやく必要はないはずなのに。
「っ!耳元で囁くな!ぞわぞわするだろ」
顔を真っ赤にしながらこちらを睨むその姿に俺の口元が無意識にほほ笑む。
「図書室では静かにした方が良いと思いまして」
「こいつ、本当にいい性格してやがる」
口では怒っているが本当に嫌なら物理的手段に出る。それくらい短い付き合いでも分かっているつもりだ
「あの、ユイさん。ここ教えてもらえますか?」
アカリの手元にある紙を見れば今は数学の勉強中の様だ。隣では普段以上に真剣な表情で勉強しているルナがいるため少し小声になっている。
俺はその問題を確認するために顔を近づける。椅子を動かしより近くに移動するとアカリの顔のほぼ真横にまで近づくことになる。
丁寧に答えを説明してからアカリの方を見れば潤んだ瞳でこちらをじっと見つめているのに気付く。
「ゆ、ユイさん・・・その・・・か、かお近くて・・・うぅ・・・」
「近づけないと教えられませんから。不快でしたか?」
「い、いえちがくて・・・・その・・・あの・・・えっと・・・」
あたふたしながらも答えが出せなかったのかしぼむように肩身を狭くするアカリ。
そんな行動を繰り返していればルナからしたら面白くないのだろう。
勉強もひと段落して帰る段階になる頃にはルナは俺にしがみつき離れてくれそうにない。
「あの、夜桜さん?どうしてそんなに怒っているんですか?」
「僕はよ~く理解した。はーちゃんはちょっと目を離すとす~ぐたらしこむって」
頬をパンパンに膨らませて怒っているアピールをするルナからそっと視線を逸らすアカリとサキ。
そういうところは姉妹らしく息ぴったりである。
「今回ばかりは僕は本気の本気でがんばるからね!」
決意を胸にしながらほっぺをすりすりしているせいで説得力がないのが悲しい話だ。
ありきたりな青春の光景ではあるがこんな日常が俺にはとても楽しかった。
なおこの時の約束のせいで俺はとんでもなく苦労するのだがそれはまた別の話だ。
この章のテーマは学校生活になります。
テストの話はもう少し続きますが時系列的に次からはまた別の話になります。




