84:揺れる境界
意識しなければ気づけない。
食事を終えてリビングでイチャイチャしている両親を横目に自分の部屋に戻る。
色々なことが重なりすぎて精神的にも肉体的にもへとへとだった。
だからこそ部屋の扉を開けて一番にベットの上に座ってこちらを見ているラクーンを見た時にはいらっとするのは仕方のないことだ。
「リラックスしすぎでしょ。君のせいでこっちは大変だったんだよ」
こちらの抗議の声を何がおかしいのか笑みを浮かべたラクーンが口を開く。
「いやいや、君のおかげでこちらとしてはとても楽ができているからね。少しくらいはゆっくりできる時間もできるというものだ」
どうも要領を得ない返答にこちらとしては眉を顰めてしまう。
「難しい話ではないよ。僕としては彼女たちと君が仲良くしてくれることにはメリットしかない」
「少なくとも彼女たちと真正面から接したことで君にもいい影響があったみたいだしね」
やはりあの場に置き去りにしたのはわざとか。どうにも癪に障るが内容自体は間違っていないので苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべるにとどまる。
「君のせいでこっちはルナたちに恥ずかしいところを見られたんだけど」
ベットに腰掛けながら文句の一つも口から零れ堕ちてしまう。
「良いじゃないか。その結果君らの結束力が高まったんだし」
「君もだいぶ女の子らしくなってきたんじゃないかな?」
「女の子らしくって・・・私はもともと・・・もともと・・・」
頭が痛い。あいつは何を言っている・・・いや違う・・・俺が間違っている。
「はぁ・・・はぁ・・・くそ、まじできついわこれ・・・」
頭を押さえながら俺としての意識がようやく表に出てくる。その光景を眺めながらラクーンは肩をすくめる。
「ほめた途端にこれだ。君のメンタルは本当に強靭だね」
俺はこいつに感謝するべきか怒るべきか迷っている。こいつが指摘しなければ俺は違和感を抱くこともなかった。
「嫌味にしか聞こえねーぞ。はぁ・・・」
ため息を一つつく。以前まではしっかり定まっていた境界が今はとても曖昧だ。
今も気を抜けばすぐにでも俺としての意識が消えそうになっているのを感じる。
まだまだ主人核はこちらだがその設定もいつ崩壊するか分かったものではない。
「嫌味じゃないさ。随分と自然に女性らしく行動していたからね。それくらい自然なら違和感もないだろう」
「これからも生活していくんだからそういうのに慣れておくべきじゃないかな?」
「分かっているさ。だがまだ消えるつもりはねーから」
頭の中で舌打ちが聞こえる。おとなしくしていたと思ったが意識すればその存在を感じ取れる。
最後の最後でこの仕打ちは勘弁してほしいものだ。
ため息をつきながらも俺の体は女性らしい動きで明日の学校の準備をしてしまう。
嘆かわしくはその行動に違和感を感じないほど自然体でできてしまうことだろうか。
明日からのことを考えつつ俺はまた一つ大きくため息をついた。
まだまだ彼は消えてくれるつもりはないようです。残念ですね。




