77:上塗り
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目を開けるといつの間にかラクーンの姿は消えていた。
相変わらずあいつの存在は神出鬼没だなと思いながら座っていた体を持ち上げる。
衣装も制服に変わっていたのはほっとする。流石にあの格好のままでは表を歩けないからな。
ポケットにしまっていた携帯を取り出して時間を確認する。
自分の記憶にある時間からはおおよそ10分程度しか経ってない。あの世界との時差というのは存在しないのかもしれない。
ならばこそできるだけ速やかに制圧しないといけないなと思った。あまりにも時間をかけたらパパとママに心配されてしまう。
ルナに会った時のように少しでも帰りが遅くなってしまえばどうなるかは想像に難しくない。
苦笑いしながらも歩き出そうとして違和感を感じる。胸がきつい・・・
「背が小さいのに胸は大きいとかエロ漫画かよ」
そのほかに目に見える変化はあるのだろうか?軽く調べているがより女性らしい体になったくらいしか変化は見えない。
流石に下着を脱いで中を確認するわけにはいかないがまだ辛うじて感覚はあるからなくなったとは思いたくはない。
もはやその象徴だけが辛うじて俺が元々は男性だったと示す証拠なのだ。
本当にそうだろうか?ここまで女性らしい体なのだ自分の性別も女性じゃなかっただろうか?
過去の思い出を振り返るがどの時代の自分も女性の体だ。
「はは・・・もう男の姿も思い出せねーのか」
背が高かったことは覚えている。ただその顔はどんなのだった?子供のころは?将来の夢は?
全部大切な記憶だったはずなのに今はすべてそれが上塗りされている。
人見知りでママの後ろに隠れている記憶や、アイドルのようにスターとして舞台に立つ記憶ばかりが思い出される。
違うと断定できるがでは元の記憶はどうだったかと言われれば返答に困る。
あの鎖を断ち切った時に力を得るのと同時に亡くした喪失感に今向き合う。
知らないまま変わっていくことも恐怖だが、認識して変わったことを理解することもまた恐怖だ。
ため息を一つして意識を切り替えるように頬を叩く。
落ち込んでいられる時間は少ない。こんな表情ではまた心配させちまうからな。
気合を入れながら歩き出す俺の目の前を誰かが走り去るのが分かる。
つい慌てて隠れるように壁に背を向けてその方向に顔を乗り出す。
そこには困ったような表情を浮かべているルナ、サキ、アカリの3人の姿があった。
時差がない以上すぐ近くにはいると思っていたがここまで近いのは予想外だ。
ラクーンあたりが気を利かせて俺を家まで運んでおいてほしかったものだと思わずにいられない。
俺の存在にはまだ気づいていないのか3人は何やら会話を始めている。
聞き耳を立てるのは申し訳ないとは思うが見つかるわけにもいかない。
色々と言い訳を立てながら俺は3人の様子を監視し始めた。
過去の上塗りってこわいですよねー




