76:賢者タイム
世界は今日も回る。何も知らないままに
体にこもっていた熱が抜けていく。体を動かしていた狂気が銃弾と共に姿を消してしまった。
脳天に2発の銃弾を受けた侵略者は後ろに倒れながらその体を崩壊させていく。
「はぁ・・・はぁ・・・」
戦闘の内容だけを見れば余裕だが今の俺の体的にはそんな余裕はない。
先程まで無視できていた体の不調が再度自分の存在をアピールしだしている。
震える足に無理やり力を込めていなければすぐにでも地面に座り込んでしまうだろう。
「時間ぎりぎりもいいところだね。君には本当に驚かされるよ。できれば安全運転で次回からは頼むよ」
俺の肩から降りて地面に着地しながらラクーンは手厳しい評価を下す。
遊園地のアトラクションよりもハードな動きを体験したのだから今の俺と変わらないくらいには体調が悪いのだろう。
「次からは気を付けるさ。どうにも・・・随分飲まれてしまったみたいだ」
今冷静に思えばどこまでが自分であったのかは分からない。
少なくとも最初は自分の意思をしっかりと持っていたが最後の方は俺でも((彼女))でもない感覚だ。
偉そうなことを言っていた割に俺の意思というのはとても弱いらしい。
「あー、くそ恥ずかしいなこれは。俺にコスプレ願望はねーぞ」
自分の衣服を観察するがどうしてこんなうっすい痴女みたいな格好になったのかは分からない。
休日の朝にやっている女子アニメの少女たちの方がまだ着込んでいるといえる。
軽くスカートの裾をめくってみるが少し動くだけでも中が見えそうになる。
こういう衣装というのは願望やら想像で出来上がるというが俺にそんな趣味はないと思いたい。
頭の中で((彼女))が抗議する。彼女的には合格な衣装に文句を言うなということらしい。
「君意外と少女願望でもあるんじゃないか?あるいはそれが彼女の望みなのかは分からないが」
少し体調が良くなったラクーンが軽口を叩き出す。嫌味かこいつ。
「うるせーな。俺の望みじゃねーからやつのだよ。俺は痴女じゃねーからな」
左手の銃をラクーンに向けながら俺は抗議する。今の俺の引き金はとても軽いんだぞ。
両手を上げて降参の合図をしながらラクーンは笑う。
「冗談だよ。少なくとも君の資格は確認できた。多少のマイナスには目を瞑るさ」
「だが覚悟するといい。自分で自分を切り売りするという選択はとても重たいということを」
色づき始めた世界の中で真面目な顔でラクーンは告げる。そんなことは分かっているさ。
「まだまだ俺は消えるつもりはないさ。あいつにはできればずっと出てこないでほしいからな」
頭の中で((彼女))は笑う。そんなことは不可能だとあざ笑うかのように。
また一歩違う存在に変わっているのだからそう思っても仕方ない。
だが選択した以上は逃げずに立ち向かうだけだ。その結末がどうなるにせよ。
目を軽く閉じて世界が戻るのを受け入れる。
世界は今日もその裏の戦いは知られることのないまま回っていく。
彼と彼女。どちらの要素が今は多いのかはここで語る必要はないでしょう。
その比率がどう変わっていくからはこれから次第




