72:不調
やけになったわけじゃないです。
馬鹿になりたくなっただけです。
誰もいない町を頼りない足取りで歩き続ける。
この世界に切り替わってから俺の体調は良くなるどころかどんどんと悪くなっている。
まるでお前を認めないと世界から拒否されている感覚だ。
頭の中で((彼女))の呼びかけが何度も響く。確かにここは((彼女))の戦場だ。
俺という不純物がいたところで戦力になるわけでもない足手まといにしか過ぎない。
ましてやこの体調ではさらに邪魔になることだろう。
「はは・・・あのままだったら消えちまってたかもな」
あの時の感情のままだったらすぐに((彼女))に変わっていたことだろう。
「でもまぁ・・・こんな俺でも未練ができちまったからな」
あの3人が俺を受け入れているのならもう少しだけあがいてもいいじゃないか。
せめてちゃんとあの3人にお別れを言うまではまだまだ消えてやるつもりは俺はない。
((彼女))からの抗議の声が止む。どうやら今回は俺に譲ってくれるようだ。
感謝はしないでおく。さっきサキをさんざんからかったのだからおとなしく寝ていろ。
頭痛は収まってきたがいまだに体は熱を帯びたままだ。
そんな俺をいつの間にか塀の上から覗いていたラクーンが珍しく驚いた顔をしていた。
「よう、くそタヌキ。どうした随分驚いた顔してやがるが」
喋るのもつらいが今の俺は気分がいい。これくらいの軽口はつい口から出てしまう。
「君は本当に僕の想像を裏切ってくれるね」
塀の上から見下ろしながらラクーンはそう呟く。
「君すこしばかり精神性おかしいよ?なんであれで心折れてないのさ」
ため息をつきながらこちらを責めるような目で見つめる。
「知らねーな。知ってたとしても教える義理もない」
「冷たいね。だけどそんな調子でどうするつもりだい?おとなしく彼女に代わってもらった方が無難だよ」
「僕としては蛮勇は許可できない。彼女たちには君の力が必要なんだからね」
どこまで行っても奴の優先順位に変わりはない。そこにとやかく言う筋合いはない。
「そろそろ彼女たちが気づく時間だ。君の行動に付き合う時間はないんだよ」
窘めるように言うラクーンにムカつきつつも俺は自分の腕を強引に握りしめる。
「?何をするつもり・・・おい、君正気か?」
「なんだよ喜べよラクーン。お前の望み的には文句ないだろう?」
震える俺の右手は左腕ではなくその左腕に巻き付くように浮かぶ鎖を掴んでいる。
「自分の拘束具を自分で破壊しようとするなんてどんなデメリットが起きるか分からないんだぞ!」
「はん、いくつか壊れかけなんだ。そのうち一個ぶっ壊したところで差異はねーだろ」
「それとこれとは話が違う!そんな危険な行為許されるわけがないだろ!」
ラクーンがここまで感情的になるのは初めて見た気がする。
ざまぁ見ろ。気分がせいせいするぜ。
さらに力を籠めれば手に持った鎖のひびがさらに大きくなる。
頭の中の((彼女))は何も言わない。この行動の結果がどうなるのかは分からない。
ただこの行動に後悔はない。俺は俺として歩きたかった。
俺の手で鎖が引きちぎられる。また俺は何かを失って何かを得たんだろうか?
すり減らされてきた彼からの逆襲のお話。




