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70:ふたりの秘密

本人はこれでも真剣なんですよ。

「こ、こっちくるな!あっちいけ!」


そこまで広くない店内で今俺は逃走劇を繰り広げている。


と言えばかっこいいが逃げている相手が子犬というのが締まりがない。


逃げている俺を遊び相手と思っているのかルミと名乗る子犬は生き生きと追いかけっこに興じている。


先程まで顔を真っ赤にしていたサキはげらげらと爆笑しながらその光景を眺めている。


「あははははは!!!お、おまえ・・・まじでだめなのな」


あまりにも笑いすぎて軽く痙攣しているが知ったことではない。こっちはガチなのだ。


「も、もう追いかけてこないでくれ!」


先程止まった涙がまた軽く流れ出す。この体瞬発力はあるのだが持久力がカスレベルだ。


そんなに走っていないはずなのにもう息も絶え絶えになっている。


流石に気の毒に思ったのかお父さんがサキにデコピンをして子犬を回収する。


ようやく落ち着けると思ったがそれよりも体力の限界で倒れそうになる体を必死に支える。


「ぜぇ・・・ぜぇ・・・も、もう走れない・・・」


「初速はすげーのに持久力がとことんねーのな。いやーしかし笑った笑った」


デコピンされた額を抑えつつ俺の肩をサキはポンポンと叩く。


「ひ、ひどいじゃないか。もう少し早く助けてくれよ」


「いや、最初は冗談だと思ったんだよ。まさかユイの弱点がこんな可愛い犬だとは思わなくてな」


抱きしめられている子犬の頭を撫でながら軽口を言うサキ。


「べ、別に弱点なんかじゃ・・・」


そう言いかけたところでお父さんが子犬を近づけてくるので慌てて距離を取る。


その様子を見てまたも笑いだすサキ。お前も敵かお父さん。


「あらあら本当に苦手なのね。犬自体が苦手なのかしら?」


「犬は嫌いじゃないですよ。普通の柴犬とか大きい犬は問題ないです」


「た・だ!こういう!小さい犬だけはだめなんです!」


俺は別に動物嫌いというわけではない。テレビで特集されれば愛でる程度には好きではある。


だが子犬だけは別だ。こいつらは絶対に許さない。


「おもしれー話だな。なんか理由とかあるのか?」


昔から嫌いだったのではない。小さい頃は普通に接していたし撫でてもいた。


男であった小学生くらいの時のこと、友達の家に遊びに行った先にあったミニチュアダックスフンドそれが原因だ。


「良く分からないけど妙に小動物に好かれて・・・会うたびに追いかけられて」


遠い目をしながら思い出す。あれは最悪だった。毎回のように追いかけられ続けた日々。


気づけば目が会う度に追い回されていた俺はいつしか子犬という存在に恐怖まで覚えるようになっていた。


「そりゃまあご愁傷様だ。しっかしまぁ・・・意外な弱点を見つけちまったな」


「た、たのむ・・・後生だからこのことは誰にも言わないで」


こんなことがルナや委員長にバレたらますます俺の立場が危ういことになる。


ただでさえ風前の灯の男気が完全に消しとぶのだけはなんとしても避けたかった。


涙目になりながら上目遣いでサキを見上げるとサキは顔を赤くしながらそっと視線を反らす。


「お、おう。大丈夫だ内緒にしてやるからな。女に二言はないぜ」


なんだか今日の俺は本当にらしくないように感じて仕方がなかった。



「やだ・・・ユイちゃんったら魔性の女すぎない?」


そんな一言があったとかなかったとか。

こう自分だけがあいつの弱さを知っているってのが良い味出してますよね

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