68:謝罪
体にどんどん心が引っ張られていく。
サキに問いかけられてこちらは黙るしかない。いつかは向き合わないといけない問題だと思いつつもついつい後回しにしていたことを目の前に突きつけられた気分だ。
「な、なにを・・・いっているのか・・・」
「最初はぴんとこなかった。何せ今のお前とこっちの知っているユイは全然違う」
「見た目は同じだが中身が違う。今のお前からはどこか男の気配を感じる」
「んでもってあっちのユイは発言はどうであれ女性寄りだ」
「これはおかしな話だよなぁ~。一つの体に二つの中身。どういうことだって思うのは不思議な話じゃないだろ?」
コーヒーカップを持ちながらこちらを眺めるサキ。下手な言い訳では納得できないだろう。
「勘違いするなよ。別に攻めているわけじゃない。こっちに不利益があるわけではない」
「ただ単純に疑問に思っただけだ。ただこれから先アカリとルナに悪影響を及ぼすならば」
「それは許さない。」
そこには純粋に心配する感情が浮かんでいる。気持ちは分かる。俺だってサキの立場にあれば聞きたくなるのは当然だ。
だがどう答えればいい?俺が元男だと正直にしゃべるか?そんなことを言っても信じてもらえると思えない。
下手すれば頭のおかしい多重人格だと思う方がまだ納得できるというものだ。
息が浅くなる。空気を吸っているのに吸収しきれない。
頭と心のバランスが崩れていきそうだ。どうすればいい・・・俺が不安定だから悪いのだろうか?
嫌な思考に頭が塗りつぶされる。俺じゃなくて((彼女))だったらこんな問題にならなかったのだろうか?
頭が痛む。ぎしりぎしりと鎖が軋む音が耳のこびりつく。
「ちがう・・・ちがうんだ・・・おれ・・・わたしは・・・」
言葉が出てこない。頭痛がますます激しさを増す。
「お、おい大丈夫か!?まともな状態じゃないぞ!?」
慌てているサキの声が聞こえる。でも今の俺にはまともじゃないという言葉だけが突き刺さる。
「ごめ・・・ごめんなさい・・・俺だますつもりはなくて」
目から涙がこぼれだす。壊れた蛇口のように後から後から零れ堕ちる。
「みんなをたすけたくて・・・でもちがって・・・こんな・・・こんな風にいわせるつもりはなくて」
言葉がまとまらない。謝るしかできない。今の俺は・・・どっち・・・なんだ?
「もういい!もういいんだ!それ以上は言わなくていい!」
椅子を蹴飛ばして俺の近くにサキはやってきて俺を抱きしめる。
「お前が誰かとかはもうどうでもいい!・・・だからもう謝るな」
「あ・・・う・・・ううう」
そんな言葉を言わせるつもりはなかった。俺はなんて卑怯なんだろうか。
こんな態度を示せばうやむやになるに決まっている。
「ごめ・・・ごめん・・・・」
助けるべきサキに抱きしめられている。これではどちらが助ける側か分かったものじゃない。
周りに客がいなくて良かった。こんな情けない姿をほかの人に見せるわけにはいかない。
サキに抱きしめながら俺は小さな少女のように泣き続ける。
その泣き声の陰で鎖が砕ける音が響いた気がした。
他の二人には絶対見せられない弱みを見せる話。
それが良いことか悪いことかはわかりませんがね




