幕間2
彼の懺悔
彼というべきか彼女というべきか実に悩ましい存在であるあの存在は僕にとって幸運であった。
枕元に腰掛けてベットの中で静かに眠る彼を見ながら僕は過去に思いを馳せる。
実のところを言えば彼の存在というのは奇跡というほかない。
なぜならば侵略者と戦える貴重な才能の持ち主というのは思った以上に少ないからだ。
何度も絶望したロードの中でも彼以外の才能の持ち主は存在しなかった。
多少いるではなく0である。それがどれだけ奇跡的な確率なのか考えるのも馬鹿らしい。
だからこそ僕としてはこのロードを絶対に失敗させるわけにはいかない。
疑問に思うこともある。なぜ今回に限って見つかったのだろうか?
僕が体験しているのはループではなくロード。つまり記憶した過去に戻るだけだ。
平衡世界への移動やらなんやらをしているわけではない。
にも拘わらず今回の世界ではあまりにもイレギュラーすぎる存在である彼が生まれた。
これがバグによるものなのかあるいは世界からのプレゼントなのかは僕には分からない。
どちらにせよ目の前の存在に僕は全BETするしか道はないのに変わりないのだから。
「しかしまあ・・・ままならないものだね」
寝ている彼の頭を撫でながら僕はため息を一つこぼす。
彼と僕の目的は一部では一致している。すなわち彼女たちを助ける。その目的は変わらない。
だがそこに至る道筋には納得できないものも多い。
もちろん彼が彼女たちのメンタルケアを行っていることには感謝しかない。
しかしそれにしては力の獲得具合が遅くて僕はもどかしさを感じる。
「彼女か、君は一体何者なんだろうね?」
彼の存在にも謎は多いが一番の謎は間違いなく彼女の存在だ。
彼の内側に潜む力の象徴。彼女の言葉を借りるなら彼と同一の存在。
そんなあまりにも規格外の存在に関して過去の資料を調べてみても存在したことなどない。
まあ男が女に変化したという事象自体が初めてのことなのだから仕方のないことでもある。
「まあどちらにせよだ。君が僕を恨んでいるのは分かる。それでも彼女たちを助けてくれればそれだけで十分だ」
罪は僕だけがかぶればいい。僕のやっていることは到底許されることではない。
眠っている彼の頭を撫でながら僕は自分の力を行使する。
『認識阻害』彼に説明した力に関して嘘はない。ただその力の行使対象に彼も混ざっているだけだ。
彼の自我は強力だ。こうでもしないと彼女の侵食は遅々として進まない。
だから僕は彼が自分の変化をあまり認識できないように力を行使する。
僕がやっている行為は畜生にも劣る行為だ。何度も心の中では彼に謝罪している。
でも、それでも僕にも譲れないものがある。彼女たち3人を救う。その目的に変化はない。
「全ての記憶はまだロードできてない。これから起きることをナビできないのが残念だ」
ロードというのは万能ではないいくつかの制約が課せられる。
前回の記憶の後半に関してはまだ思い出せない。データをダウンロードできてないイメージだ。
”彼を見つけるプログラム”を僕が持っていた理由も、"彼女の覚醒"を手伝わないといけない理由も、
実際のところはすごく曖昧な僕の記憶をもとに進めている。
彼がアカリに出会ったのもそのデータの一部に過ぎない。
まるで自分自身に認識阻害がかかっている状況に苦笑いがでる。
そんなことは不可能だと分かっている。"僕が許可しない限りは”認識阻害に僕がかかることはない。
ナンセンスな考えだったなと思いながらも彼の調整を進める。
なぜこうも簡単に彼に認識阻害を行えるのか?そんな問題をラクーンが認識することはない。
どこかで誰かが笑う声がする。でもその事実に気づける人は誰もまだいない。
章をまたぐ前に思いついたので幕間を追加いたしました。
ラクーンの懺悔及び独白です。
彼の変化の後押しをラクーンが手助けしています。
ただラクーンにもいろいろありそうですね。それはまた追々。
次回からは学校編です。お楽しみに




