54:抜け出せない
突きつけよう現実を
足取り軽く家に帰りついた俺を出迎えたのはにやにやと妙な笑みを浮かべるラクーンだった。
リビングのソファーに腰掛けてこちらを出迎える姿はとても腹立たしい。
「なんだよその顔は・・・気持ち悪いな」
「その言い方はひどくないかな?そういうのはハラスメントだよ」
それを言うなら俺の体を勝手に変えたのは何ハラスメントになるんだろうか。
こっちの方が被害者でありこれくらいの対応は甘んじて受け入れてほしいものだ。
「やかましい。んで、何か気分が良さそうなんだがどうしたんだ?」
これ以上関わってもいいことはないと思ったので話を促す。
途中で買ったはいいが飲み残してぬるくなってしまったお茶を飲む。
「いや~、君ルナといいアカリといい随分紳士的だなぁと思ってね」
「ぶふっ!?」
吹き出しそうになるのを無理に抑え込んだために妙なところに入ったのかむせる。
「げほっ、ごほっ。お、お前見てたのかよ!?」
少なくともあの周囲には誰もいなかったと思ったがこいつのことだからどこかにいてもおかしくはない。
「そりゃ君の様子を確認しないといけないからね。リスクマネージメントさ。何かあってからじゃ怖いからね」
俺のようなイレギュラーに対しての対応は間違ってはいない。
間違ってはいないがむかつくことには変わりはない。
「彼女たちとの交流は想定していたけど、ああいう交流は想定外だ。両親の血の影響かな?」
視線を逸らす。別にそんなことを考えていなかったが影響は間違いなくあるだろう。
まず間違いなく以前までの俺だったらそんなことはできなかった。
そう考えると"パパの娘"であるということはなんだかとても誇らしい。
「勝手に見てるんじゃねーよ・・・何か問題でもあるのか?」
「何も問題はないよ。君の対応は彼女たちにとってメリットではあってもデメリットにはなってないからね」
「それに君も理解できているだろう?彼女たちに接するほどに変化していることに」
確かにそれは理解している。アカリとの対応の時に鎖の砕ける音が聞こえた。
自分がどんどん変わっていることは理解できてしまっている。
「はは、いっそ引きこもりにでもなれればいいんだがな」
ため息をつきながらソファーに腰掛ける。そんな俺の肩をラクーンはポンと叩く。
「そんなできないことを言うもんじゃないよ。君はそんなこと言って目を背けることはできないだろう?」
「たとえ僕が悪い影響を言ったところで彼女たちと接してしまった君はもう逃げれないだろう」
「君は良い意味でも悪い意味でもとても優しいお人よしだね」
まるで底なし沼に沈んでいくように感じる。
ただラクーンの言葉を否定するだけの根拠を俺は持っていない。
否定する言葉を喋るのは簡単だが・・・俺は彼女たちを見捨てられない。
どこかで鎖のきしむ音が聞こえる。案外俺に残されている猶予はないのかもしれない。
逃げれるのなら楽ですけどそれをできないのが彼なんです。




