50:観察
静かな交流がそこには存在した。
二人の間に会話はない。ただ静かにアカリが動かす筆の音だけが周囲に響く。
何か喋るべきなのだろうとは思うがそれでも今はただ静かに絵を描くアカリを見ていたかった。
戦いの中で見たあの冷静な眼差しで対面とノートを交互に見つめている。
そうやって何かに真剣に打ち込んでいる姿を見て邪魔をしてはいけないと思った。
自分が趣味に打ち込んでいる時でさえもここまで真剣にはなれなかった。
やれ休憩だ息抜きだなんだと理由をつけてはどこかで区切りをつけていた。
つけていた・・・と思う。もはやどこか遠くのことのように記憶が朧気になりつつある。
笑えない話だ。一体どこまでが俺でどこまでが彼女なのだろうか俺ですら分からない。
思考の沼に沈みそうになったがふと筆の音が止まるのが分かった。
「邪魔しちまって悪かったな。やりづらかったろ?」
ついつい頭を下げる。そんな俺にあたふたと否定の返答をアカリは返す。
「いえ、ちょうど完成したので気にしないでください。こちらこそ迷惑かけていませんか?」
いやいやこちらも、いやいや私もと二人そろって同じような内容で否定を繰り返す。
そうして何度も繰り返すとアカリが急にくすりと笑った。
「ふふ、ご、ごめんなさい。笑うなんて失礼ですよね。でもなんだかおかしくって」
その言葉に俺も苦笑する。何をやってるんだか俺は。
「なに、俺だっておんなじこと考えたからお互い様ってやつだ」
「だがらお相子ってことで許してくれないか?」
手を合わせ顔を少し傾けながらウィンクする。
「ふふ、そういわれては仕方ないですね。ええ、お互い様っていうことで」
なんとなく和やかな時間が過ぎる。なんだろうなこの変な時間は。
「私その・・・結構人見知りするんですけど。貴方は・・・えっと、お兄さんはなんだか他人に思えなくて」
「そりゃ光栄だ。しかしなんでまたお兄さんなんだい?こんな体なんでそういうのとは真逆だと思うんだが」
俺の返答に少し困り顔をしてから言葉を考えながらアカリは口を開く。
「なんでと言われても・・んー言葉にするのはとても難しいですね。強いてあげるならなんとなくでしょうか」
そんな曖昧な言葉を話しながらもじっと冷静な瞳でこちらを見つめるアカリ。
それはなんだか内面を見透かされているみたいな気恥ずかしさすら感じる。
「そんなに見つめられちまうと穴が開きそうだな。随分と情熱的だな」
俺の返答に慌てて手を振るうアカリ。その顔は火がでそうなほどに真っ赤だった。
「ちが!?そ、そういうのじゃなくて・・・うぅ・・・」
その反応に思わず笑みを浮かべてしまう。そこにいるのは普通の少女に過ぎない。
「わりー、ついからかっちまったか。気分を害したら謝る」
手に持ったノートで顔を隠しながらアカリは俺を涙目で見つめる。
「お兄さんは意地悪ですね。私その・・・お、怒っちゃいますからね」
そういわれてまた俺は謝罪をする。本当になんて奇妙で楽しい時間なんだろうか。
悩んでいた俺の心が少しだけ落ち着いた気がした。
3人の少女の性格はなんとなく小動物をイメージとして描いています。
皆様はどんな動物を思い描きますか?




