49:注目の的
誰もが目を奪われる存在っているのかしらね?
家を出て外を出歩くというのは意外と新鮮な気持ちになる。
大人になって以降外を出歩くというのはだいたいは車移動がメインであった。
職場で歩くことはあるが少なくとも自分の足で家の周囲を散策するという健康的な趣味は俺にはなかった。
閑静な住宅街を歩き周囲を見渡すが正直どれも高そうな家だなくらいの感想しか浮かばない。
楽しいか楽しくないかと言えば楽しくない方が気持ち的には傾くのだがそれでも悪くはないと感じてしまう。
鼻歌まじりでスキップでもしそうなテンションに俺は少し戸惑う。
どうもこの体になってから毎度のことのように自分の感情が理解できないでいる。
心は体に引っ張られるという話をどこかで聞いたことがあるがその事実はあながち間違いでなさそうだ。
横目でこの間の公園が視界に入る。相変わらず人気もないのでここで過ごすのも悪くはなさそうだ。
しかしながら今日の目的はここではないので名残惜しいが公園を後にする。
しばらく歩いて気づいた、というか出歩く前に気づくべきだった。
周囲からの視線がやけに突き刺さる。少し歩くだけでも通り過ぎる全員がこちらをじっと見つめてくる。
家族連れや学生、はては老人たちもが振り返ってこちらを見る程度には今の俺は目立っていた。
服装自体は別におかしいところはないのだがいかんせん両親があのパパとママだ。
そりゃその遺伝子を引き継いでいるであろう今の俺は注目の的になるのは必然だ。
昔の俺だって今の自分の姿を見れば絶対に目を引かれないわけがない。
どこかのアイドルがお忍びで撮影していますと言われても信じてしまうことだろう。
何人かは周囲にカメラがないのか見渡している姿からもその想像を補強している。
「歩きにくいなこれは・・・やっぱり出歩くのやめた方が良かったかな・・・」
近くにあった自販機の小銭を入れてお茶を買い行儀悪く歩き飲みする。
近くのお店のショーウインドーを見れば妙に色気がある少女がテレビのCMのように飲み物を飲んでいる姿が写っている。
こんなことならこの間出かけたみたいにコートでも羽織るべきだったかといまさら後悔した。
人気を避けるように避けるように出歩くといつの間にか住宅街を抜けて河川敷にたどり着いていた。
「意外とここらへんいろいろなところがあるんだな」
こういう発見があるからこそ散歩というのは侮れない。
遠くの方では少年野球チームが練習試合をしている。親の声援と子供たちの掛け声を聞いていると休日だなぁと実感できる光景だ。
流石にそんな遠くからこちらに気づかれることはないだろうが見られたら絶対に注目されてしまうので慌てて距離をさらに取る。
河川敷沿いの道を歩いてしばらく行くと川沿いに降りられる道が出てくる。
迷わずそちらの道を下っていくと川風と言うべきが少し涼しい風が顔に当たる。
気持ちよさげに目を細めてから目を開けると少し開けた広場のようになっている場所に先客がいるのが分かった。
今の俺よりもいくらか大きな体格でこちらに背中を向けつつキャンパスノートに何かを書き込んでいる。
どこかで見たことがあるというか顔見知りのその人物に俺は自然と足を近づける。
近づいて分かったが彼女の視線の先には反対側の川岸で遊んでいる子供たちの姿が見える。
どうやらスケッチをしているのか視線はノートと反対側を行ったり来たりしてその間も手は休まず動いている。
邪魔をしたら悪いかなと思って声をかけずにいたらこちらの気配を感じたのか彼女はびくんと飛び跳ねるかのようにこちらに視線を向ける。
「ひゃう!?ご、ごごごごめんなさい!変な人じゃないので逮捕しないでください!!!」
どけ座しそうな勢いで頭を下げる彼女に思わず苦笑いしつつも声をかける。
「お邪魔しちゃって悪いな。逮捕はしないんで隣いいか?」
今にも泣きそうな顔をしている少女・・・アカリはその返答を想像していなかったのかきょとんとした表情を浮かべてからしばらく考え込む。
やがて結論が出たのか静かに口を開いた。
「ど、どうぞ」
サキちゃんよりも先にアカリの登場です。
親の遺伝子が強いと子は苦労しそうですよね。




