43:父子
否定はできない、肯定もしたくない。
境界は徐々に揺らいでいく。
下着屋での攻防に関しては思い出したくもないし、語ることもない。
あえて言うなら店から出る時にママの両手には大量の紙袋が抱えられて、満面の笑みを浮かべていたという事だけは伝えておこう。
今現在そのママはどこに行ったかと言えば一度買ったものを車に運んで行った。
パパが運ぶかと言われたがさすがに下着を運んでもらうのは恥ずかしいようだ。
「ぱぱのえっち・・・これはだめ」
手でバッテンを作ってからそそくさとパパから車のカギを受け取り駆け足で去っていく。
「ふむ・・・やはりママはとても可愛いよね?」
そこで俺に話を振らないでほしいパパ。
それよりも先ほどはよくも助けてくれなかったなという思いを込めて抗議の視線を向ける。
流石に娘に嫌われるのは嫌なようで慌てて謝罪をする。
「ごめんねユイちゃん。でもママの気持ちもわかって欲しいかな。」
そこでふと思い出した。ママは子供が産めないと言われて奇跡的に俺を授かったと。
こういう機会でないとパパとじっくり話を聞ける機会はなかなかないだろう。
ママがいないのも都合が良いのでパパに聞いてみることにした。
「分かってる・・・ママは((私))が生まれたのが奇跡だって言ってた。」
パパはその言葉に少し驚いた表情をしてから真剣な顔をしてこちらの目をじっと見る。
「そっか。ママが教えてくれたんだね。んー、ユイちゃんも大きくなったし昔話をしようか」
静かにベンチに腰掛けるとパパもそれに合わせて隣に座る。
「僕とママが会ったのは高校の終わりくらいだったかなぁ。」
「パパは昔結構やんちゃでね、今では恥ずかしいんだけど結構プレイボーイだったんだ」
今でも顔面偏差値が高いパパだ。若いころはそれはモテただろう。
言葉を濁したがそれなりに性に奔放だったのだろうことは想像に難しくない。
「実家は裕福だったけど自由はなくてね。あ、今はユイちゃんが生まれて仲良しだけど当時はいろいろ複雑でね。高校を卒業したらママとは違う人と結婚することになってたんだ」
「パパはそんな家が苦手で高校の間だけでも自由に過ごしたくて日本に留学していたんだ」
「それで帰る直前の年にママと出会ったんだ」
昔の思い出に思いを馳せるかのように遠くを見つめる。
「一目惚れだったよ。そりゃもう衝撃だった。今のユイちゃんがちょっと大きくなったらその時のママそっくりだよ。今もそっくりだけどね」
「それからはもう毎日ママにプロポーズしまくったよ。今までの生活をリセットしてママばかり追っていた」
「最初は名前すら呼んでくれなくてね、『邪魔』とか『変人』とか言われたよ」
今の両親からは想像できない。てっきり両想いだと思っていたがどうやらパパが相当頑張ったみたいだ。
「まあ、そこから先は割愛しよう。最終的にママを口説き落として付き合い始めたんだ」
「ママと付き合うことになったときにママの両親とかパパの両親とかいろいろ喧嘩したけどね」
苦笑いしながら言うがそこらへんの話をもう少し詳しく聞きたいものだ。
かなり大変な物語が裏にあっただろうがそこを喋るつもりはなさそうだ。
「なんとか認められたんだけどそこからが大変でねぇ・・・なかなか子供ができなくてね」
「お医者さんからはママは子供が産めないと言われて、家族からは子供が産めないなら別れろとまで言われてね」
「あの時のママは本当に限界だった。何かきっかけがあればそのまま消えてしまいそうなほどにね」
「・・・・」
きっとパパの想像は実現したんじゃないかとふと思った。
俺の存在がなければこの家族は現在存在しなかったんじゃないかと。
俺という存在がママをこの世に引き留めた。男としての俺がいた世界では引き留められなかった。
((彼女))が頭の中で囁く。だから早く今の現実を受け入れろと。
今までは強く否定できたことなに今だけは強く否定できない。
「だからね、ユイちゃんが生まれてきてくれて僕らは本当に嬉しかったんだ」
パパの優し気な目から今の俺は逃げることができなかった。
彼が彼女にならなければママは自殺し、パパは違う人と結婚しています。
本来の歴史はそうなっていました。でも彼女が生まれた結果この世界はこうなりました。
パパとママの詳しい過去はもしかしたらそのうち書くかもしれません




