41;着せ替え人形
モデルが良いと買い物もはかどりそうですね。
記憶を消したい事象というのは生きている限り人間だれしも訪れるものだ。
かくいう俺も前のちゃんとした男だった時にもそういう経験をしたことは一度や二度ではない。
現在陥っている状況に関しても((彼女))関係で消したい記憶は山ほどある。
そして今まさにその消したい記憶を更新し続けている。
「素晴らしい・・・やっぱり私の娘は世界一のお姫様だ」
いい年をした大人であるパパが泣きながらやたら高そうな一眼レフカメラのシャッターを押し続ける。
「ん、当然。私たちの娘だから当たり前」
感情を表に出すのが苦手なはずなママですら満足げに頷いている。
「うぅ・・・恥ずかしいからもうやめてよパパ、ママ」
俺の抗議の声を無視しながらファッションショーは続いていく。
男子だった頃、制服と言えば学ラン長パンであり高校時代もそれは変わらなかった。
おしゃれと言っても男子のおしゃれなんぞ中の肌着を変える程度のもの、
たまに訪れる制服チェックでも対して文句を言われた記憶もない。
だが現状としてはどうだろう?女性というのはとても大変だということを今痛い程実感した。
紺色のブレザーに青みがかったスカートを履き、胸元にはワンポイントでリボンを結ぶ。
恰好で言えばそれほど変なものではないのだがいかんせん素体が良いとそれだけで映えるものだ。
緑の髪に灰色の瞳と合わせるとさながら恋愛ゲームのヒロインのように感じる。
前回外に出た時も髪を隠していたし、戦いの場面でもそれは変わらない。
その髪を外に出し、女性らしい服装を身に着けるだけでも今の自分が否応なく女性に近いことを突きつけられる。
売り場担当の店員ですら、今現在の完成された芸術品である俺の姿に見とれている。
いやそれどころかいつの間にかママと結託してあれよあれよと採寸までする始末だ。
その時に上の肌着・・・いわゆるブラというものをしていなかったのに気づかれてしまった。
下に関しては我慢できたが流石に上に関しては論外だ。
いくら女性に近づこうが俺は俺だ。男として生活した時間が長いためブラのつけ方なんて知る由もなかった。
「お母さま、お嬢様の成長はかなりよろしいようなので下着を新調したほうがよろしいかと」
店員が余計なことを抜かしてくる。現在のママの遺伝子の影響なのかは分からないが肉付きは悪いがそういうところの成長は良いらしい。
らしいというのは男の俺にとっていまいち数値などがぴんとこないせいだ。
最初に目覚めたときには真っ平だった胸も、今朝起きた時には平均より大きいといわれるくらいには成長していた。
ため息とともに頭痛がする。頭の中で((彼女))が喜んでいるのが分かる。
どうやら((彼女))もあれでいて女性なので胸が大きいのは喜ばしいことのようだ。
ママはブラをしていないことに関して少し怒りながら俺に死刑宣告を告げる。
「ん、次の予定が決まった。下着買いに行くよ」
今度通う学校に水着になる授業がないことにほっとしていた俺を地獄に突き落とす。
後ろの方でカードで会計していたパパも、
「ユイちゃんがどんどん大人になっていく・・・」
と泣きながら遠い目をしていたことだけがやけに記憶に鮮明に焼き付く。
それくらいどうしようもない程に俺は現実逃避するしか道はなかった。
基本的には彼女の姿は現状顔と目の色くらいしか表に出てきていません。
髪の毛を出してしまうとそりゃ忘れようにも忘れられない存在なので。
まあ髪が見えなくとも顔が超美人なので記憶には焼き付きますね。




