30:戦場の匂い
戦場の匂いはどんなものだろうか?戦士たちしか得られぬその匂いを僕らは知らない
彼が眠り私が目覚めていられる時間というのはとても短い。
制約が大きければ大きい程その見返りというのは比例的に大きくなるものだ。
ラクーンを肩に乗せて空中を飛んでいる時間というのは瞬きのように終わる。
向かっている最中に流れゆく景色の中で凍り付き粉々に砕けた建物が見える。
この間は水で今回は氷。どんな相手が選ばれているのかわくわくする。
そうして目の前に現れた獲物に対して私は満面の笑みを浮かべて眺める。
その姿は大きなペンギンのように見えた。もっとも動物園で見る可愛らしい姿とは異なり氷を王冠のようにまといその鋭いくちばしでビルを粉々にかみ砕く姿には可愛らしさは欠片もない。
「あらやだ、可愛くないわねあれ」
近くのビルの屋上に立ちその姿を観察しながら率直な感想を放つ。
その言葉に眉を顰めながらラクーンは私の肩から降り立つ。
「侵略者にたいしてそんな感想を放つのは君くらいだよ」
「失礼しちゃうわね。やることは変わらないのだからどう思っても自由じゃない」
「僕としては戦ってくれるのならばそれでいいけど・・・」
「彼が絶対言わなさそうなセリフだからついね」
私から距離を取りつつラクーンは苦笑する。そうやって距離を取られると私が異常者みたいじゃない。
抗議するように口をすぼませる私にラクーンは語る。
「そう怒らないでほしいな。別に攻めているわけじゃないんだからさ」
「違うわよ。彼が絶対言わないってところ。私と彼は一緒なんだからその言い方は失礼よ」
彼は認めないが私と彼に差異なんてものは性別くらいでしかないと私は思っている。
なんだかんだ言いつつ私と彼は同じ存在なのだそれはすなわち私の思考と彼の思考は同一のもの。
そういう理論をラクーンに説明しても納得できなさそうな顔をする。
ただ納得してもらわなくても構わない。そういうものだと受け入れてほしい。
彼は絶対に肯定しないが私にとってこれは事実なのだから
「君の理論はどうにも理解できかねないね・・・本当に、どうしてこうなったのか」
思考の海に沈んでいくラクーンに手で追い払う姿で答える。
「なんとでも言いなさい。それよりこれからは私の楽しい時間なのだから邪魔しないで」
「邪魔するつもりはないよ。これ以上は邪魔になりそうだし僕は失礼するよ」
「後は頼んでいいんだよねユイ?」
ビルの端に立ち私を振り返りながらラクーンは問いかける。
随分とまあ未練がましい限りだ。
「誰に言っているの。問題にすらならないわ。」
「それで・・・貴方は彼女たちに会う気はないの?」
前回から少しは気になっていた。ラクーンは意図的に彼女たちを避けているようだと。
前回の戦いの最中も、今もこうして露骨にこの場から去ろうとしている。
それを分かっていながら対応する私もどうかと思うが、
「今の僕には彼女たちに合わせる顔がないからね。だからこそ君に頼むんだ」
「頼んだよユイ。今日も彼女たちのヒロインになってくれ」
そう最後に言いビルの上から飛び降りる。
その姿を見送りながら私はやっぱり思う。男という存在はどいつもこいつも・・・
「本当に・・・バカばっかね」
そう呟かざるをえなかった。
ラクーンの性別は彼と同じで男性のイメージです。
彼と彼女の関係に関しては他人では理解できない不可思議なものです。
彼女の思考を理解しようとすると頭が痛くなるのでそういうものだと理解するに留めたほうが無難です。




